HEATH&TIA

  • 白い世界で寄り添いあって

     真っ白だ。 一日のはじまりを告げる太陽の光をあびて、世界がきらきらと宝石をちりばめたように輝いている。 ゆっくりとあげた視線の先にある空は、いつもの青さはなりを潜め、淡くけぶっている。 家をとりかこむ落葉樹のあいまには、冬でも青い葉をみせ…

  • 寂しい季節の終わりは楽しい季節のはじまり

     つついたらきっと怒るだろうな。 ぼんやりとそんなことを考えながら、ヒースは手持ち無沙汰な手を軽く握った。 テーブルの向こう側には、いかにも「怒っています!」といわんばかりのむくれた表情をしている少女が一人。ヒースは、知られぬように、こっそ…

  • ふたりの距離はひらかない

    『ヒースちゃん!』『ティアちゃん!』 名を呼び合って手を繋ぎ、どこにでもいった。なんでもした。ふたりはいつも、一緒だった。 ジャングルジムの一番上で、流れる雲の形をなにかにたとえて遊んでいた。意味もわからず、「けっこんしようね」と、ことある…

  • ひどい男

     帝国軍に所属し、はじめて任された部隊があった。もう、ずいぶんと古い話だ。 そのとき部下だった兵士が、国境に赴任してきたらしいと風の噂にきいたのは、数か月ほど前のことになる。 年若いが優秀であったこともあり、ヒースは彼のことをよく覚えていた…

  • モンハン4パロ ~ 筆頭オトモのとある休日 ~

    Caution!!アイルーなティアはゲーム内のような猫姿でもよし、猫耳尻尾のはえた人間姿でもよし、どちらかお好きなほうで想像しつつ、お楽しみください。ゲーム本編ではどうも男の子のようですが、そこはほら、脳内妄想なのでひとつよろしくお願いしま…

  • 私をとめて

    「ひっく」 ティアは、可愛らしい声とともに、ひょこんと肩を跳ねさせた。「あれ? ティアどうしたの?」 すい、と空中でネアキと遊んでいたミエリが、その動きに気づいたらしく舞い降りてきた。「え? ……ひっく」 なにが? と、問い返そうとして、テ…

  • 幾千万の世界をこえて ~ 来年も再来年も ~

    Caution!! 簡単にいえば、アヴァロンコードの転生もの+現代ものです。 なんとなく妄想したら止まらなくなったので、思いつくまま書くシリーズです。   今朝方おろしたばかりの、真新しいスニーカーの底で、アスファルトを…

  • 幾千万の世界をこえて ~ そこには魔物が棲むという ~

    Caution!! 簡単にいえば、アヴァロンコードの転生もの+現代ものです。 なんとなく妄想したら止まらなくなったので、思いつくまま書くシリーズです。  「……」 急な仕事で休日にもかかわらず、朝から出社せざるを得なかっ…

  • 幾千万の世界をこえて ~ 幸福な織姫 忍耐の彦星 ~

    Caution!! 簡単にいえば、アヴァロンコードの転生もの+現代ものです。 なんとなく妄想したら止まらなくなったので、思いつくまま書くシリーズです。   引き離された愛しあう二人が、一年に一度だけ、逢うことが許された日…

  • 幾千万の世界をこえて ~ それは突然の雨のように ~

    Caution!! 簡単にいえば、アヴァロンコードの転生もの+現代ものです。 なんとなく妄想したら止まらなくなったので、思いつくまま書くシリーズです。   音なく髪を撫でる大気の揺らぎ。暑くもなく寒くもない優しい温度。 …

  • 幾千万の世界をこえて ~ その花の意味 ~

    Caution!! 簡単にいえば、アヴァロンコードの転生もの+現代ものです。 なんとなく妄想したら止まらなくなったので、思いつくまま書くシリーズです。   春。 物事のはじまりを祝福するような、うららかな陽気に誘われて、…

  • 幾千万の世界をこえて ~ ここが私の居たい場所 ~

    Caution!! 簡単にいえば、アヴァロンコードの転生もの+現代ものです。 なんとなく妄想したら止まらなくなったので、思いつくまま書くシリーズです。   仕事がたてこんでいたヒースが、ようやくもらえたお休みの日。 押し…

  • 幾千万の世界をこえて ~ 小悪魔にご用心 ~

    Caution!! 簡単にいえば、アヴァロンコードの転生もの+現代ものです。 なんとなく妄想したら止まらなくなったので、思いつくまま書くシリーズです。  「……んっとー、えっとー……、あ! おかしちょうだい! そのあと、…

  • 幾千万の世界をこえて ~ 虹の空に秋近し ~

    Caution!! 簡単にいえば、アヴァロンコードの転生もの+現代ものです。 なんとなく妄想したら止まらなくなったので、思いつくまま書くシリーズです。   本日の天気――ゲリラ豪雨。 いつの間にか道から川へと姿を変えてし…

  • 幾千万の世界をこえて ~ 夏の二人の今昔 ~

    Caution!! 簡単にいえば、アヴァロンコードの転生もの+現代ものです。 なんとなく妄想したら止まらなくなったので、思いつくまま書くシリーズです。   ママー、と不安げに泣き叫ぶ声。 自分の現状を把握していないせいか…

  • 幾千万の世界をこえて ~ 雨の日のふたり ~

    Caution!! 簡単にいえば、アヴァロンコードの転生もの+現代ものです。 なんとなく妄想したら止まらなくなったので、思いつくまま書くシリーズです。   季節は梅雨。その名称が示すとおり、本日の天候は雨。 この国のこの…

  • 幾千万の世界をこえて ~ 歯ァ、くいしばれ ~

    Caution!! 簡単にいえば、アヴァロンコードの転生もの+現代ものです。 なんとなく妄想したら止まらなくなったので、思いつくまま書くシリーズです。   ゆっくりと、湯気立ち上らせる玉露をすする。 自分の手には小さすぎ…

  • 幾千万の世界をこえて ~ 新年を君とともに ~

    Caution!! 簡単にいえば、アヴァロンコードの転生もの+現代ものです。 なんとなく妄想したら止まらなくなったので、思いつくまま書くシリーズです。   薄く雪の積もった夜の道を、ヒースは静かに歩いていた。遠くから、除…

  • 幾千万の世界をこえて ~ いただきますごちそうさま ~

    Caution!! 簡単にいえば、アヴァロンコードの転生もの+現代ものです。 なんとなく妄想したら止まらなくなったので、思いつくまま書くシリーズです。   やわらかそうな白いコートを纏ったティアが、はー、と夜の世界に息を…

  • 幾千万の世界をこえて ~ 押してだめならひいてみろ! ~

    Caution!! 簡単にいえば、アヴァロンコードの転生もの+現代ものです。 なんとなく妄想したら止まらなくなったので、思いつくまま書くシリーズです。   ぽかぽかとした陽光が、窓を覆うスクリーン越しに淡く差し込む図書館…

  • 幾千万の世界をこえて ~ 悪戯上司参上 ~

    Caution!! 簡単にいえば、アヴァロンコードの転生もの+現代ものです。 なんとなく妄想したら止まらなくなったので、思いつくまま書くシリーズです。   どうしよう。スーパーの特売時間すぎちゃう。 土曜日。半日で授業が…

  • 幾千万の世界をこえて ~ めぐりめぐって ~

    Caution!! 簡単にいえば、アヴァロンコードの転生もの+現代ものです。 なんとなく妄想したら止まらなくなったので、思いつくまま書くシリーズです。   ティアが、熱心に本を読んでいる。 なんでも幼馴染のファナから借り…

  • 頑張るあなたに

     ひらひらと蝶のように翻る裾の合間から、細いけれどやわらかそうで形のよい、健康的な足が見え隠れする。大きく振られる手の上で、夏の苛烈な日差しが弾けた。 一瞬、あまりの暑さに蜃気楼でもあらわれたかと思ったが、そうではない。「ヒースさーん!」 …

  • ああ、勘違い

     今のティアの心境を、わかりやすくあらわすならばこれ。 嵐。 曇天の空を風が駆け巡り、大粒の雨が大地を叩き、天と地の狭間に轟く稲妻、木も家も根こそぎ吹き飛ばす――そんな大嵐。 そんな心の風景を顔には出さず、というより出せないまま、ティアは立…

  • やすらげるばしょ

     ティアは、目を薄くひらいた。 二度、三度。ゆっくりと瞬きを繰り返せば、視界が明瞭になっていく。 そうなるにつれ、夢の世界でみていたものが、手のひらから零れる砂のように消えていく。 儚い夢のあとを霧散させながら、ティアは視線を巡らせる。 太…

  • 小さな約束 大きな約束

     ―― この箱をひらく汝に 大いなる災いあれ! ―― そんなことが、古代文字であたかも模様であるかのように全体に掘り込まれているなど思いもしないまま、ティアは手のひらに乗る大きさの箱に指をかける。 見た目より重いそれは、鮮やかな色彩でティア…

  • 呪われたあなたと、私の一ヶ月

     嫌な予感は確かにあった。 だが、油断していたのもまた事実だった。 数々の冒険と頼りになる精霊たちと、そしてついてきてくれた力強い存在が、ティアの危険予知を鈍らせていたのだろう。 いくつか部屋をみてまわり、これで探索は最後となる部屋の中央に…

  • たかいたかい

    「――は?」 よく晴れた空の下。 ヒースは間の抜けた声を響かせた。己の聞き間違いかと思ったのだ。 そうしてしまった原因を作った発言者は、ヒースを見上げていた可愛らしい面に、ぱっと朱を散らす。「えっと、あ、あの、私なにいってるんでしょう、ね……

  • 嫉妬なんてオレらしくない

    3つの恋のお題ったー 「嫉妬なんて俺らしくない」より。   うららかな空の下、ティアは機嫌よくローアンの石畳を駆けていく。 今日も今日とて商売にいそしむ双子たちに挨拶し、街角に佇み小説の思索に耽る詩人に声をかけ、太陽の光…

  • また泣かせたな、すまない

    3つの恋のお題ったー 「また泣かせたね、ごめん」から。ちょこっとヒースっぽくに変更しました。ティアへのお題だったのですが、ヒース視点で。   ヒースは、真っ暗な道を歩いていた。 ふと、なぜ自分が歩いているのかわからなくな…

  • 六月の花嫁

    「すみません、ヒースさん」 先日、静かな口調だが、熱烈な愛の告白を受け、晴れて恋人となった年上の男――徒手流派の師匠でもあるヒースを見上げ、ティアは申し訳なさに眉を下げた。 逞しい腕には買い物袋が下がっている。つまり、荷物もちをしてもらって…

  • 40の短文描写

    00. お名前とサイト名をどうぞ。また、よろしければなにか一言。 icoです。Sss.というサイトを運営中です。 ぷらぷらとネットをさ迷っていたらお見かけし、65文字から2~3文字超えるぐらいならokらしいので、気楽に挑戦しようと思い立ちま…

  • 狼の国 兎の国 ~おおかみさんとうさぎさん物語~……愛惜

     狼の耳と尻尾をもった狼ヒースと、兎の耳と尻尾をもった兎ティアのお話です。 まったくもってゲームとは関係ありません。いままで以上に関係ありません。  ――ティア嬢の健康状態に著しい不調あり。このままでは長くはないものと思われる。そ…

  • 狼の国 兎の国 ~おおかみさんとうさぎさん物語~……逢瀬

     狼の耳と尻尾をもった狼ヒースと、兎の耳と尻尾をもった兎ティアのお話です。 まったくもってゲームとは関係ありません。いままで以上に関係ありません。  ティアは、二度目の遭遇以来、ヒースと時折会うようになっていた。 ただなんとなく日…

  • 狼の国 兎の国 ~おおかみさんとうさぎさん物語~……名前

     狼の耳と尻尾をもった狼ヒースと、兎の耳と尻尾をもった兎ティアのお話です。 まったくもってゲームとは関係ありません。いままで以上に関係ありません。  いた。 ヒースは、む、と息を飲み込んだ。なんともまあ、相変わらず無防備な。 青灰…

  • 狼の国 兎の国 ~おおかみさんとうさぎさん物語~……邂逅

     狼の耳と尻尾をもった狼ヒースと、兎の耳と尻尾をもった兎ティアのお話です。 まったくもってゲームとは関係ありません。いままで以上に関係ありません。  ヴァイゼン帝国の紋章が描かれた紙面を見下ろし、ヒースはひとつ息をついた。 内容は…

  • 白と青と二人の休日   Sss.2周年企画作品 梅花様よりのリクエスト

     暑い。 ティアは、ソファにくったりと身を預けてそんなことを考える。 カレイラはもう夏の季節真っ只中だ。開け放った扉から風は滑り込んでくるものの、生温い。暑い。仕方ないとわかっているが、暑い。薄手の夏服を着ていても、暑い。 ちらりと視線を送…

  • 摘まれても—–14

    「ずるいと思うんだが、君はどう思う」「何がですか?」 突然の言葉に、ティアは面食らう。意味がわからない。 テーブルの上に肘をつき、組み合わせた大きな手で口元を隠し、瞳をわずかに伏せたまま、思い悩むようなヒースに首を傾げつつ、ティアは手を動か…

  • 摘まれても—–13

     いなくなろう。この街から、でていこう。 ティアは、混乱した頭でそう思う。 だって、次に会ったらきっと言ってしまう。想いのすべて吐露してしまう。そして、夜に眩く輝く月をねだる子供のように、自分は泣くだろう。 受け入れられないと言っていた相手…

  • 摘まれても—–12

     は、と息をついてあたりを見回す。 ティアが駆け出したときに落とした紙袋からは、日用雑貨が転がり落ちている。 ヒースが渡した菓子入りの紙袋は、口を閉じていたおかげで散らばってはいないが、石畳の上に、寂しげによこたわっている。 ベンチからたち…

  • 摘まれても—–11

     ティアは、ヒースのもとへ折を見ては訪れていた。いろいろなことがあって、泣くことがあっても、やはり会いたかったからだ。 ただ、なんとか記憶を取り戻してもらおうとしていた頃のような必死さは、もうない。 他愛のない日常のことを話し、そして帰る。…

  • 摘まれても—–10

     足早に執務室として与えられた部屋へと戻ってきたヒースは、扉を開けて中に入ると、大きく肩で息をついた。 主のいなかった部屋の空気は、少し冷たい。だがそれが、今のヒースにはちょうどよかった。 曇りのない窓から差し込む光に目を細めながら、今度は…

  • 摘まれても—–9

     綺麗な人。 ティアは、ヒースと並ぶ女性を見てそんなことを呆然と思った。 帝国の軍服に身を包んだ二人を、遠いところからみつめる。 ああ、並ぶ二人はなんて絵になるんだろう。 ヒースと談笑する女性は、女性らしい丸みを帯びた曲線が服の上からでもわ…

  • 摘まれても—–8

     今日もまた、彼女を待つ。 一度は手ひどく拒んだというのに、それでも「会いたい」という健気な申し出を、これ以上すげなく断れるわけがなかった。 だが、明確な約束をしたわけではない。都合があわなければ、数日顔を合わせることもなかった。互いにやる…

  • 摘まれても—–7

     一夜明けて、鏡を覗きこんだティアは、己の顔をみて力なく笑った。「ひどい顔……」 泣きすぎて目は真っ赤。瞼も晴れているし、喉もからからだ。 そっと、鏡に額をあわせる。髪越しにその冷たさ伝わってくる。 このままでいてもヒースが思い出さないこと…

  • 摘まれても—–6

     ぼり、とヒースは頭を掻いた。小柄な少女は風をつれて、目の前から走り去っていった。涙に塗れた悲しそうな顔と。ヒースの胸に、もやもやとした想いの火種を残して。 まずいと、やってしまったと、さすがのヒースも思う。ヴァルドにも、優しくするようにと…

  • 摘まれても—–5

    「えいっ」「おっと」 ひゅ、とティアは拳を一閃させる。プラーナをまとった拳とその身のこなしに、挑みかかられたヒースがひどく驚いた顔をする。「……本当に、徒手流派が使えるとはな」 しみじみと呟かれ、ティアは頬を膨らませた。「だから、ヒースさん…

  • 摘まれても—–4

     清潔な寝具で整えられている寝台から起き上がろうとしたヒースを制し、部屋を訪れたヴァルドは、これまであったことのすべてを話してくれた。伝説の魔王や、預言書の話など、にわかには信じがたいことばかりだったが、ヴァルドが嘘をつくわけもない。ヒース…

  • 摘まれても—–3

     静かに扉が閉じられる。 ほんとうなら、追いかけて問いただしたかった。でも、足は動かない。なにより、心が動かなかった。 ヒースと付き添いの兵士の姿が消えた部屋の中央で、ティアはぎゅっと自分のコートを握り締めた。空気が重い。その中心にいるのは…

  • 摘まれても—–2

     綺麗な城だ。 ヒースは、ぼんやりとそう思った。 カレイラ王国のフランネル城は、最盛期よりその国力は衰えたといえ、その誇りと威厳を充分に知らしめている。 磨かれた窓の向こうには、緑鮮やかな庭園が広がっている。城の前庭には清らかな噴水と、手入…

  • 摘まれても—–1

    「あの……?」 ティアは、おずおずと言葉を発しつつ、小さく首を傾げた。 数分前、突然家にやってきたヒースは、向かいあったまま微動だにしない。 開け放った窓からゆるゆると吹き込む風に髪を揺らしながら、ティアは記憶を辿ってみる。 が。 今日は特…

  • 二人の小指

    「遠い国ではね、結ばれる人同士の左手の小指同士に赤い糸が結ばれているっていう言い伝えがあるんですって」 麗らかな午後の陽射しが差し込む窓辺にある寝台の上、肩掛けをなおしながらファナがいう。いつもはどこか青い顔しているファナが、ほんの少し頬を…

  • 君の声 あなたの声

    「うーん……」 ティアは我が家の机に向かい、目の前に置いた黒い小箱を見つめながら唸っていた。素材はよくわからないが、つるりとしていて見た目よりもずっと重いその箱には、細工は一切なく素っ気ない。先日、探索にでかけた遺跡でみつけてきたものだ。 …

  • きけないお願い

     ふわ、と漂う二種類の香り。 ひとつは、香ばしさの中に苦味とわずかな甘味を隠したコーヒー。 もうひとつは、颯爽とした柑橘系の香りを纏う紅茶。 さきほどティアが淹れてくれたそれらは、ヒースとティアが互いに持つカップから、ゆらゆらと湯気と共に香…

  • つつまれて

    「ヒースさんこんにちは! って……あれ?」 ノックの音も早々に、勢いよく重厚な扉を開いたティアは、お目当ての人がいないことに気付いて、きょとんと目を瞬かせた。 きょろ、と室内を見回す。暖炉の火は落ちていない。外に出かけるためのコートもある。…

  • いとしきみへ

     ゆらゆらと暖かな色で揺れる暖炉の炎。小さなランプの明かり。そのふたつに満たされた、夜の静けさだけが広がる部屋に、紙面をひっかくペンの音がかすかに響く。 規則正しく。時に、悩むように立ち止まり。そして、すぐにまた奏でられるその子守唄のような…

  • 遠い日の朝までも

     切りつけてくるような、とまではいかないが、そんな冬の寒さを思い出させる空気の冷たさに、ティアは小さく身震いした。 まだ秋も終わっていないというのに、ひたひたと忍び寄る季節の足音が、聞こえるような気がする。「ん……さむ……」 もぞもぞと暖か…

  • 時遡り時辿り 時辿の薬編—–後編

    「ヒースさんのお友達に、悪い事しちゃいましたね」「気にしなくても大丈夫だ。あいつはいつもあんな感じだしな。君こそ不愉快じゃなかったか?」「いいえ、楽しかったです」 そうか、と呟いたヒースが「ん」と声を漏らした。「すまない、ちょっと用事があっ…

  • 時遡り時辿り 時辿の薬編—–中編

     そのままティアはさきほど前を通ったカフェへと、ヒースとともにはいった。先ほど思ったことが、いきなり実現するなんて出来すぎた夢でもありえないだろう。 テーブルについてティアが注文を終えると、ヒースが笑っていた。どうしたのかと思っていたら、な…

  • 時遡り時辿り 時辿の薬編—–前編

     華奢な小瓶の蓋を、ゆっくりと開けて机の上に置く。 すう、はあ、と幾度か大きく深呼吸。 どうなるかわからない不安と期待に胸を高鳴らせつつ――『時辿の薬』を、ティアはゆっくりと口に含んだ。 液状のそれは、舌の上にじわっと熱く広がっていく。薬と…

  • 時遡り時辿り 時遡の薬編—–後編

     そうして、二人の時間は過ぎてゆく―― 一分一秒が、かけがえのないものになっていく。それらは、もう二度と訪れぬがゆえに輝いて、大切な思い出へと姿を変える。ティアはそれを感じ取りながらも、考えることは、しなかった。別れを惜しむ気持ちが、そうさ…

  • 時遡り時辿り 時遡の薬編—–中編

    「どうしよう……」 噴水のある公園へと続く階段の前で、ティアは立ち尽くす。あとは、どこにいくところがあるだろう。あとは適当に、なんていってたから、もしかしたら街を出てしまった? 嫌な予感に頭を痛めていると、ぽんと肩を叩かれた。「どうしたんだ…

  • 時遡り時辿り 時遡の薬編—–前編

     とんとん、と控えめに扉を叩く音に、ティアは「はーい」と応えながら、小さな家のたった一つの出入り口に向かった。わずかに蝶番を軋ませながら扉を開くと、長身の影が家の前に立っていた。にこ、とティアは高い位置にあるその顔を見上げながら微笑む。「お…

  • 時遡り時辿り

    「新しい石碑?」 目の前に置かれた紅茶の湯気で小さな肺を満たしながら、ティアは相対する人物の発言を繰り返した。「ええ、そうよ」 豊かな赤い髪を背に流した都の魔女ナナイが、頷きながら机を挟んだ正面の椅子に腰掛ける。 たまたま占い横丁を通りかか…

  • 酒精の落し物

    「――ん……、んん……?」 ガタゴトと、遠いところで音がする。 むにゃ、と口元を動かしてティアは意識をなんとか浮上させようと試みる。まだいいじゃないか、いかないで、と夢の世界が引きとめようとするのを、なんとか逃れて目を開く。 真っ暗。 ぱち…

  • 両手に花と約束を

    「いやぁ、あんたたち仲のいい兄妹だね!」「……」「……」 今日は年に四回開催される大市の日。 何気なく覗き込んだ染め織物の露店で、異国の模様の美しさに目を輝かせていたティアとそれを見守っていたヒースへとかけられた店員のそんな台詞に、二人は顔…

  • やがて一色

    「好きです!」 古き歴史を誇るフランネル城の長い回廊に、少女らしい高い澄んだ声が響き渡る。 偶然その場に居合わせた者たちは、一瞬怪訝な表情を浮かべ――それが、何者かに向けて想いのたけを告げるものだと気付き、一斉に音源を確かめた。 そこには真…

  • 蛍の夜

    「ほたる?」 ティアのきょとんとした声が、小さな家に響いた。 巨木の一部に住居を構えているラウカの家に、森の探索がてらティアと二人で邪魔をしたのが今日のこと。 友人二人の訪問をラウカはとても喜び、三人がかりで森の獲物を追いかけたりした。 今…

  • お味見はいかが

     麗らかな日、太陽が西に転がり落ち始める頃。 荘厳で華麗な装飾がふんだんに施された城の片隅。さらさらと零れるような光を通す大きな窓の枠に腰掛けて、ヒースは一息ついていた。 本国から派遣されている文官との会議を終えたヒースは、強張った肩をほぐ…

  • 少女の悩み

     世界は滅びに向かっているとはいえ、一日は穏やかに過ぎていき――ティアが、ゆっくりと家でくつろいでいたとある日、とある時刻。 突然の訪問者があった。 返事をして、古びた扉をあけて。目の前に立つ人物を見上げ、ティアは上擦った声をあげた。 その…

  • 視線を交わしたその瞬間、07

     一人で赤くなったり青くなったり、天に昇ったりどん底へ突き落とされたりと、恋の激動をこれでもかと味わったティアと、冷静そうに見えて実のところそうじゃなかったヒースの二人が結ばれて一週間もしないうちに――ヴァイゼン帝国の将軍と、カレイラの英雄…

  • 視線を交わしたその瞬間、06

    「……だって……ヒースさん、婚約するんでしょう?」 そしていつか、結婚する。手の届かない場所にいく。 ティアの言葉に、ヒースの瞳が見開かれる。その様子から、知られていると思ってはいなかったことが伺えた。秘密裏に進められていたというのだから、…

  • 視線を交わしたその瞬間、05

     おかしい。 なんでこんなことになっているんだろう。 俯き、膝の上で小さな手を握り締めたまま、ティアは泣きたい気分に陥っていた。 二週間前あんなに泣いて、泣いて――もうこれ以上、破れた恋に流すものなどないと思っていたけれど。 その原因たる男…

  • 視線を交わしたその瞬間、04

     頬を薔薇色に染め、ティアは踊るような足取りでフランネル城を歩いていた。 ふかふかの絨毯を踏みしめ、今日も向かうは恋する男の執務室。 あともう少しで休憩時間になるはず。すっかり覚えてしまったヒースの行動を見計らって、会いに行く。それは幾度繰…

  • 視線を交わしたその瞬間、03

     友人たちに励まされて、翌日。 己の気持ちに気が付いた以上、いつまでも逃げ回るなどできやしないと腹をくくったティアは、フランネル城内のとある部屋の前にたっていた。 そこは、外交官的な立場にもある帝国将軍のヒースに与えられた執務室だ。重厚な造…

  • 視線を交わしたその瞬間、02

     たゆたうようなまどろみの中、記憶が泡のように膨らみ、次々と弾けていく。 頭を撫でる大きな手、軽々と抱き上げてくれた逞しい腕、そうして手に入れたいつもとは違う視線の高さ。振り返れば、いつでも見守ってくれていた優しい瞳。 どうしようもなくて道…

  • 視線を交わしたその瞬間、01

    「いってこい」 陰色濃く荘厳なフランネル城を背景に、全身を夕焼け色に赤く染めて、大きな背をもつ男はそういって笑った。「広い世界を、みてこい」 影を引きずりながら伸びた手が、ふわり、頭の上に置かれる。 優しく、強く、それでいて暖かな手の心地よ…

  • 指きりの約束

     ヒースはゆっくりと世界の十字路を北へと辿る。 じつに一ヶ月ぶりのローアンの街である。 そびえる天空塔は、魔王の一件で半ばから折れてから修繕されていないものの、あいかわらず高い。 本来ならすぐにでもその下にあるフランネル城にいるヴァルドもと…

  • 師匠の心

     森の夕暮れは早い。 陽がわずかに陰ったと思えば、あっという間に夜に支配される。西の大樹を抱くこの深い森の中では特に気をつけなければすぐに飲み込まれてしまう。 独特の緑のにおいを、わずかにしめった風が運んでくる。 どこか遠くから、獣の声がか…

  • 二人の未来~?年後~

    「よし、これでいいな」 手にしていた羽ペンをゆっくりと下ろす。これで帝国に向けた書類の作成はすべて終わった。ヒースはやれやれと肩に手を当てる。 やはり机仕事は疲れる。戦争は二度と起こってほしくはないが、身体を動かす任のほうが性にあっている以…

  • 二人の未来~四年後~

     朝の空気も薄れてきた午前の半ば。 雲ひとつない快晴の空の下、踊るように風が街を駆け抜けていく。 穏やかな日に人々は街角で語らい、子供たちは歓声をあげて路地裏へと飛び込んでいく。古くから魔除けとしていくつも置かれている木箱の上で、白い猫があ…

  • 二人の過去~十年前~

     どれをつけても、怪しいことこの上もない。 じーっと手にした帽子、スカーフ、そして仮面を見下ろしながらヒースはそう思った。 このカレイラ王国の首都ローアンにおいて、十年に一度開催される武闘大会。その申し込みはすでに済ませた。 あとは、本来な…

  • あなたを支える

     ローアンの街から南に下れば、大鮫の顎と呼ばれる崖に出る。 そこから見晴るかす景色は美しい。陽の光にうねる波が煌く海原、白い雲が浮かび流れる空。どちらも鮮やかな青さで世界を包み込んでいる。「おー、いい風だな」「ほんと、気持ちいいね」 ひゅう…

  • 君が心に住んだ瞬間

     ――空にかかった薄雲は、太陽の光を弱弱しいものに変えている。そのせいで、室内はほのかに暗い。だが、弱った人間にはちょうどいい。そんな部屋の片隅にしつらえられたベッドの上、息荒く眠る少女を見下ろし、ヒースは小さく息をついた。 肉体的にも精神…

  • 今宵の軌跡

     預言書の出現によって朽ちていくことが示唆されている世界とはいえ、それを知らぬ人々は戦のない穏やかな日々を喜んでいる。ティアの活躍で、世界の崩壊が緩やかなものとなった今、しばらくこの世界は平和のうちに存続するだろう。 そして、カレイラ王国と…

  •  約束の時間までは少し早かったかもしれない。 でも、一瞬でもはやく会いたい。一時でも長くそばにいたい。 そんな恋心が、ティアを時間よりはやく行動させていた。 とんとん、と軽やかに中央公園からの階段をのぼりきり、いつも彼がいる場所へと視線をや…

  • 幸せな二人

    「なるほどな、話は大体わかった」ヴァイゼン帝国が誇る将軍、ヒースは重々しく頷いた。幾たびの戦場を駆け抜け、武勲を挙げてきた男の眼光は鋭く、新兵なら一睨みで震え上がることだろう。ワーグリス砦の北にある帝国の前線を維持する陣営で、師団長はまさに…