Caution!!
簡単にいえば、アヴァロンコードの転生もの+現代ものです。
なんとなく妄想したら止まらなくなったので、思いつくまま書くシリーズです。
ゆっくりと、湯気立ち上らせる玉露をすする。
自分の手には小さすぎる湯のみを傾けて、ヒースはその一滴まであじわっていく。濃く、甘く、深い味わいだ。
よく磨かれて、木目も美しい座卓のうえにある茶托に湯のみをもどせば、横から白く美しい手がそっと伸びてきた。
その持ち主の顔をみれば、にっこりと愛らしい笑顔を向けられた。そういうところは、「彼女」にほんとうによく似ていると改めて思う。いや、娘なのだから、「彼女」のほうが、似ているというのが正しい。
さりげなく視線をおくる和室は掃除が行き届いていて、縁側からはやわらかな光が差し込んでいる。
今、そんな場所にいるのは、きっちりとスーツを着込んだ自分、ちょっとおめかしをしたワンピースを纏った「彼女」ことティア、そしてこちらもまたそれなりに装ったティアの母親。
ほんとうならば、もうひとりいる予定だったのだが――その人物は、いない。
そのことを気にかけながら、丁寧にお茶を煎れる女性をみつめる。
明るい色の髪、深い瞳の色。白い肌。娘は、年をかさねるごとに母親に似ていくという。
きっと、自分が心から愛しいと想う女は、数十年後にはこのような女性になるのだろう。
胸に抱いた妙な感慨深さを、年寄り臭いと思いながら、ヒースは視線をティアへと向けた。
「パパったらどこいったの、もう! せっかくヒースがきてくれてるのに」
愛しい女、と思ってみたものの、その憤り方はたいそう可愛らしいもので――やはり、ティアはまだ少女と形容するほうがよほどふさわしいかもしれないと、失礼ながら思ってしまった。もう、少女でないことは、自分が一番よくわかっているというのに、だ。
そんなティアが怒っている理由。そして、自分がティアの家にいる理由。ティアの母親もここにいる理由。
それはティアの両親に、結婚の許しを得るためであった。
ところが、ティアがいうとおり、ティアの父親はいずこかへと姿を消してしまった。
ヒースが家を訪れたときには、緊張した面持ちで和室にいたというのだが、出迎えてくれた二人に案内された先はもぬけのから。靄が朝日に掻き消えるように、その姿は家のなかのどこにもなかった。
つ、と最後の一滴まで湯のみに茶をそそぎ、ヒースの前へと差し出しながら、にこりとティアの母親が微笑んだ。
「公園かしらねえ。あの人、なにかあるとすぐそこにいっちゃうもの」
どこかのんびりとした言葉に、あ、とティアが声をあげた。怒っていたせいで思いつかなかったらしい。
「私、探してくる!」
「オレもいこう」
わたわたと出かけようとするティアをみながら、ヒースは腰をあげかける。こうなった原因は、どう考えても自分なのだから責任をとる意味も含めて手伝おうと思ったのだ。
と。
「まあまあ、ここはティアに任せて。私たちは、ゆっくり待ちましょう?」
す、と伸びた白い手がヒースの動きを制した。容易くどかすことができるだろう華奢な手であるのに、それはぴたりとヒースのすべてを押し留めた。なぜだか、抗える気がしない。
そういえば、子供のころから、このおっとりとした夫人のいうことをなぜかよくきかなければいけないという意識があった。恐怖ではない。それはただ、純粋な敬意だった。
どうしてそんな感情を抱いてしまうのか。その理由はこの歳になっても、まだわからない。
「は、はい」
言葉少なく、座布団のうえへと落ち着きなおすと、ひょい、と簡単に身支度を整えたティアが襖の向こうから顔をのぞかせた。さらり、と髪が揺れる。
「じゃあ、いってきます!」
まかせてね、と元気いっぱい笑ったティアが、廊下を駆けていく。どこか軽い足音が、だんだんと遠ざかっていくのをききながらヒースが肩を竦めると、ティアの母親は小さく笑い声を転がした。
「もう子供じゃないのに、あんなに走ったりして。はしたないわね、お恥ずかしいわ」
「いいえ、ティアはあれくらい元気でいるほうが、似合います」
静々とした大和撫子のようであれ、などとヒースは言わない。いつも、あの天真爛漫な笑顔をみていたいからだ。そうして、自分だけをみてくれるならば、それ以上願うことはない。
「そう。でも、あまり甘やかさないでね。ヒースくんの妻になるっていうこと、ちゃんと自覚してもらわないといけないもの」
「……は、はぁ」
妻になる、という言葉を改めていわれれば、なんだか恥ずかしい。くすぐったい。むずがゆい。子供の頃の自分をよく知っている女性の前なのだから、なおのことだった。
そういえば、ヒースが物心ついたことにはすでに、この人にはよくしてもらっていた。
優しく淡いセピア色をした思い出に浸りかけるヒースに、慈愛に満ちた笑みを向け、ティアの母親がいう。
「あの子のことをよろしくお願いね、ヒースくん」
部屋を柔らかく満たす光を淡くまとったその姿は、聖母のようだった。そうして、どこか遠い瞳で窓の外を見遣る。
「ティアとあなたがはじめて会ったときにね、おかしいと思うかもしれないけれど――あなたたちをめぐり合わせるために、私はこの子を授かったんだって、思ったのよ」
過去に思いを馳せる姿は、侵しがたい神聖さを帯びていて、ヒースは黙って続きを待った。
「知ってると思うけど、私たちなかなか子供ができなかったでしょ?」
言葉なく、ヒースは頷く。ティアの両親は、それはそれは仲の良い夫婦ではあったが、妻の体は弱かった。子をなかなか授かることはできず、たとえ子を成したとしても母体に影響を及ぼす可能性があった。
そう、自分の親から聞いている。だからこそ、子供のヒースをことさら可愛がってくれたということも。
「あの子が私に宿って、順調に育って、私も身体を壊すことなく産むことができた。それはね、あの子があなたに会いたいがために、一生懸命だったからじゃないかしらって思うの」
く、とヒースは肩の力を抜くように、息を吐いて笑った。そうなのかもしれない。ティアの言動を思い起こせば、そうであっても不思議ではないような気がする。自分のために生まれてきてくれたなんて、このうえなく嬉しいことだ。
ヒースが笑ったのを気配で感じ取ったのか、ティアの母親の笑みが深くなった。こちらに向き直って、ひた、と真剣な眼差しを向けてくる。
「あの子のおかげで、私は母親になれた。子を慈しみ、愛する喜びを知った」
はい、と頷く。ティアに注がれる愛情を、ヒースはよく知っている。春夏秋冬、幾度もめぐった季節の中で寄り添いあいながら、幸せをひとつひとつ重ねていた。そうして築き上げられたこの家庭を、とても素晴らしいと思っている。
「だから私はね、母親としてはもちろんだけど、あんなにもひとりの人を好きだと想う女の子を、一人の女としても応援したいの。私をおかあさんにしてくれた、あの子の恋を実らせてあげたい」
そういえば、この人はやたらとティアの恋路を手助けしていた。二人がどこかにでかけるにあたっても、暴走しがちな父親をうまくおさえてくれていた。
面白がっているのだろうか、信用してくれているのだろうか、と、さまざまな理由を推測していたが、女としてティアの恋を応援していたとは。男には、少々わかりかねる心境だ。
祈るように胸のうえに手を置いて、にこ、と笑った顔に、ティアの笑顔が重なってみえる。いつか、彼女もこうして笑うときがくるのだろうか。そんなことを、ぼんやりと考えた。
「だから、あの子を幸せにしてあげて? ――ううん、違うわね」
おかれたわずかな間のうちに、その瞳には涙が星のようにひとつ、浮かんでいた。
「あの子と一緒に、幸せになって、ね」
一方的なものではなく、互いを労わり支えあいながら生きていく幸せを願われて、頷かない者はいない。すくなくとも、ヒースは無意識のうちに表情を引き締め、大きく顎をひいていた。
「はい。必ずや」
ヒースの言葉を受けて、ありがとう、と囁きながら、零れ落ちそうな滴を指の先で抑えるティアの母親だったが、次の瞬間、ぱっと鮮やかに表情を変えた。
「あ、でもお父さんにはいっかいだけ殴られてあげてね」
うふふ、と茶目っ気たっぷりにそんなことをいうこの人は、やはりまちがいなくティアを育てた人だった。
「……」
「……」
空気が重い。本来なら感じることのないはずの重さの原因は、和室で相対する壮年の男性である。あからさまに「不機嫌です!」という空気が、そこに渦巻いている。
顔色は悪く、目は潤み、そのくせ鼻先は赤い。
ティアに公園から連れ帰られた父親は、それはもうぶすくれていた。まるで、気に入らないことであっても、受け入れなければいけないこともあるのだと、理解しはじめた小学生のように。
和室に二人きりになってから、はや三十分が経過している。
目を合わせるでもなく、なにを言うでもなく――ただひたすらに、ティアの父親は沈黙を貫いている。
型どおりの挨拶してから、伝えたいことを言葉にしようとしたものの、それは片手でさえぎられてしまったので、ヒースもまた沈黙していた。
和室に男が二人きり。しかも空気は、ひたすら重い。居心地は最悪だ。
さて、どうにかして話を聞いてもらわなければいけない。だが、どうしたら、この想いは届くだろうか。
あれこれ脳内でシミュレーションを繰り返すヒースの前で、ティアの父親が動いた。
なにかいわれるのかと、わずかに身構える。
だが。
「いっ、っぅ~~……!」
ティアの父親は生まれたての小鹿のようにぷるぷると震えながら、緩慢な動きをみせている。
……どうやら足が痺れてしまったらしい。そこまで頑張らなくともよいと思うのだが。
ヒースは、稽古などで正座にも慣れているのでどれだけでも座ってることが可能だ。もしかして、これは我慢比べだったのだろうか。ヒースはふと、そんなことを思った。
「あの、」
「……っ!」
父親が正座から胡坐に体勢をかえたところへ、声をかけてみようとしたら、鋭くにらみつけられてしまった。ヒースは、開きかけていた口を引き結んだ。
稽古で組み手をするときや、上司を相手にしたときとは、まったく異質の緊張感が漂ってくる。
なにかを必死に守ろうとするその顔を、ヒースは知っている。愛するわが子を何ものからも守ろうとする――親の顔。幼いころからティアをずっと見守っていた男だけが、みせることを許される表情だ。
やや青ざめた、薄い唇がゆっくりと動きはじめる。
「……消去法だ」
苦々しく言われたことの意味を、ヒースは考えてみる。というか、考えることすら必要のない、わかりやすいものであるけれど、一応考えてみる。
すると、反応が薄いことに苛立ったのか、ドンっ、と畳が叩かれた。握り締められた拳が、震えている。
「可愛いティアを変な男にやるくらいなら、君のほうがまだマシだというだけだからな! 許されたなどと勘違いしないように!」
「はい」
ごもっともである。わずかに考えたヒースの結論もそれだったのだから。
ティアは可愛い。まちがいなく可愛い。それに、性格もよければ家事全般をそつなくこなす、世の男の大半が求めるだろう資質を備えている。きっと、自分でなくとも、否、それ以上の良縁だってティアが望めば手に入るだろう。
しかし、ティアが選んだのは自分。そして、自分もティアを選んだ。もう、自分たちにはそれ以外の道など、考えられない。
とはいえ。
愛妻&愛娘最高! 愛してる! な、この父親のおめがねにかなう男は世の中にいるのだろうか――
「だいたい、ティアがお願いしなければ、嫁になんて絶対ださないのに……! くそおおおおお!」
「……」
――いなさそうである。
まさに慟哭していると表現しても差し支えないほどに、おんおんと泣き出したティアの父親に、ヒースはそう確信した。
ならば。
ざ、と居住まいを正したヒースは、畳に手をついて頭をさげた。
「この一生をかけて、お許しをいただけるよう努めてまいります。どうか――お嬢さんと、結婚させてください」
ゆっくりと顔をあげれば、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔で、何度も頷いて返された。
「……あの子を、頼む……」
嗚咽まじりの懇願に、ヒースの目頭も熱くなる。
いわれずとも、ヒースのすべてをかけてティアを幸せに、否、一緒に幸せになると決めている。あとは、それを行動で示すだけのことだ。
自信があるのかと問われれば、そうだと即答することは難しい。人生には何があるかなどわからないからだ。ティアよりも年上であるということが、その懸念の主たる原因だ。健康には気をつけねばなるまい。
だが、意思を貫くという覚悟はある。それを、絶対に見失うことがないという自信もある。この生涯をかけることを、躊躇いはしない。
ひた、とヒースはティアの父親を見据える。真っ直ぐに返される瞳に、小さく頷いた。
と。
涙目で、ダン! と足を一歩前に出したティアの父親が、力をこめすぎて大きく震える拳を高々と掲げた。
「よォォし! 歯ァくいしばれぇぇぇ!」
「……」
どうやら、ティアの母親がいっていたとおりの事態になるようだ。
いたしかたなし。
ヒースは覚悟を決めて、目を閉じた。
和室の縁側に腰掛けて、そよそよと夕方の風に吹かれていると、そっと冷やされたタオルが、頬に押し当てられた。
「!」
驚いて振り向けば、淡い笑みを浮かべた恋しい女の顔があった。
「ヒース、だいじょうぶ?」
どうやらぼうっとしていて、近づくティアの気配に気づかなかったらしい。いや、ティアならば隙をみせても大丈夫だと、無意識に刷り込まれているのだろう。
ヒースは、ありがとうと礼を述べながら、タオルを受け取った。ひんやりとして、すこし熱をもった肌には気持ちがいい。
「オレは平気だ。お父さんのほうは?」
あのあと、和室で一発殴られたところを、隣室で様子を伺っていたティアたちにとめにはいられた。あと数発は覚悟していたのだが。
それにしても、ティアの父親はいままで人を殴ったことなどない人なのだろう。激情のまま拳を振り下ろしてみたものの、タイミングも悪ければ、力のいれようもなってはいなかった。
結果として、ヒースは少し頬が赤くなった程度。痛みも、武術の稽古のときに比べればたいしたことはない。
むしろ、ティアの父親のほうが体勢を崩して盛大に畳に転がり、別なところを痛めていた。大丈夫なのだろうか。
そんな父親のことを思い出したのか、くしゃりとティアが笑った。
「ふふふ、慣れないことして手首痛めちゃってたよ。いま、ママが冷やしながらお説教してる」
「そうか。悪いことをしたな」
もう少し、殴られやすい位置に顔をもっていくべきだったのかもしれない。ヒースが、うーんと頭を考え込むと、ティアが隣に腰掛けた。
「パパのほうがひどいことしたんだから、いいの」
そして、ヒースの腕をぎゅっと抱きしめながら身を寄せてくる。
ようやく婚約した年頃の女性とは思えないような仕草に、笑みがこぼれる。
そっとやわらかな髪を指先で梳いてやれば、ふわりといいにおいがした。
「パパも、どうして怒るのかなあ? ヒースよりも素敵な男のひとなんていないのにね?」
ほんとうにどうしてああなるのかわからない、とティアが眉を潜めて、そんなことをいう。こればかりは、女であるティアに推し量ることはできない感情だろう。だが、ヒースにはなんとなくわかるような気がした。
「大切な娘をよその男にとられるとなれば、世の父親は、たいていああなるだろうさ」
頬に手をあてティアの顔を覗き込むと、ヒースは苦笑する。
だから、そんなことをいうものじゃないと諌めるように瞳をみつめれば、ティアが小さな菫が花開いたような笑顔を浮かべた。
「そっか。じゃあ、私が女の子産んじゃったら、ヒースもああなっちゃうんだね」
「ぶっ」
頬に添えられた大きなの手に小さな手を重ねながら、ティアが放り投げてきた威力抜群の爆弾に、ヒースはふきだした。
確かにそうかもしれないが、子供をもうけるなどまだ先のことだ。なんとこたえたらいいのかわらずに、ヒースはわずかに口ごもる。
「えへへ。でも、私、さいしょは女の子がいいなって思ってるの。ヒースは嫌? お嫁さんにだしたくない?」
「……」
遠い未来のことを、まるで明日の楽しみのように語るティアを、ヒースは無言でもう少し引き寄せる。
どうしたの? と小さく首を傾げるティアに、ヒースはわずかに苦いものを含めて微笑んだ。
確定していない未来のことをほんのすこし語られただけで、すでに胸中がざわついたことなど知られたくはなかった。きっと自分は、ティアの父親のようになるのだろうな、とどこか他人事のように確信しながら、まるみを帯びたやわらかな頬を撫でる。
「まあ、そうなったらそれでいい」
「どうして?」
意味がわからないよ。そんな顔をするティアに、ヒースは「ほんとうにわからないか?」と、口の端を少し意地悪く持ち上げた。
背を丸めて、額と額をそっとあわせる。
「オレには、君がいる」
「!」
意図して、優しく甘く囁けば、ティアがひといきで真っ赤になった。まるで、子猫がうまれてはじめてみるものに対して毛を逆立てて驚くようなその表情に、あたたかなきもちがとまらなくなる。
「ティアのような可愛い奥さんがいてくれるなら、なにも問題ない。子育てが一段落してから、またはじまる二人きりの生活なんて夢のようだろう?」
「……もう」
くすくすと笑いながら、そっと薔薇色の頬に唇を寄せれば、ティアが片目をつぶってくすぐったそうにそれを受け取ってくれる。
そして、お返しとばかりに頬へと口づけてきた。そしてゆっくりと、わずかに距離をとったティアが、ふんわりと微笑む。
「好きよ、ヒース。おばあちゃんになっても、ずっと一緒にいてね」
まるで内緒話でもするように、重大な秘密をうちあけるように。幼いころからずっと届けてくれていた想いを、口元に手を当てて耳打ちしてくる。
そんなところが、たまらなく可愛い。
自分の恋人――いや、これからは婚約者となったティアに、どれくらい愛しい想いは重なっていくのだろう。妻となったときは、また違う愛しさを抱くのだろう。
「ああ。どんなに歳をとっても、オレは君と一緒だ」
むしろ、死んでからも。その先でも、そうありたい。君にまた出会って、恋をして、そうして愛したい。
ティアを抱きしめながら、ヒースはそう思う自分自身に、不思議な既視感を覚えていた。
いつか、同じようなことを願っていたような気がする。どんなに記憶をさぐっても、みつけられそうにないが、自分は確かにそう願っていた。
そうならば、これは叶ったということだろう。ここではない遠いどこか、もう思いだせないほどの昔に、この魂をかけた願いが。
ゆっくりとひきつけられるように、ティアの唇を奪おうとすれば、細い指がそれを止めた。めずらしく拒否されて、ヒースは目をわずかに見開く。
「あ、ヒース……! パパと、ママ、が……!」
ティアは真っ赤な顔をして、しどろもどろにいう。そんな可愛い仕草で、可愛いことをいわれたら、もっと困らせてみたくなるというのに。
く、とヒースは笑った。
「ん? 嫌か?」
そっとティアの手をどかし、違うとわかっていながら、意地悪な問いを投げかける。
「そうじゃ、なくて……! み、みられちゃった、ら……ん、」
恥ずかしそうに俯いていくのを許さずに、有無を言わさず唇をあわせる。
困る、とティアは言いたかったのだろう。だが、ティア以外の気配ならば、何に夢中になっていてもヒースにはわかる。二人のうちどちらかが、この部屋に近づけばすぐに離れればいい。
とはいえ普段の自分なら、こんな状況で強引にキスなどしないだろう。
きっと浮かれているのだ。結婚相手にふさわしいと認められていなくとも、ティアとの結婚に許しを得られたことに、舞い上がっている。
まあ、幸せなのだから仕方あるまい? 許してくれ、ティア――
はじめて口づけをしたときのように、身体を強張らせているティアの初々しさを堪能しながら、ヒースはそんなことを思う自分に小さく笑ったのだった。