私をとめて

「ひっく」
 ティアは、可愛らしい声とともに、ひょこんと肩を跳ねさせた。
「あれ? ティアどうしたの?」
 すい、と空中でネアキと遊んでいたミエリが、その動きに気づいたらしく舞い降りてきた。
「え? ……ひっく」
 なにが? と、問い返そうとして、ティアは再び声を漏らした。
「あ、しゃっくりだ……ひっく」
 書きかけの小説に手を加えていたティアは、ペンを机上に置いた手で、喉のすぐ下あたりをおさえた。
 その奥がひくつくような、痙攣するような感覚は、なんだか久しぶりのような気がする。
 前はいつなったっけ? そんなことをぼんやりと考えてみるが、思い出せない。まあ、自分がいつしゃっくりをしたかなんて、覚えている人間などいないだろう。
 美しくも可愛らしい顔に、心配そうな表情を浮かべるミエリへ、ティアは笑いかけた。
「ひっく、そのうち止まるから気にしないで、ひっく」
「そう? ならいいんだけど」
 精霊には、しゃっくりなどないのだろう。
 ティアがそういうのならと頷くミエリのとなりに、ネアキも降りてくる。いつも澄ましたようにみえるけれど愛らしく美しい面は、ミエリとおなじように心配そうだ。
「……医者に、いかなくても、いいの?」
「しゃっくりでお医者様のところにいくなんて、ひっく、あんまりきいたことないなぁ……。ふふっ、ありがとうネアキ、私は大丈夫だから。ひっく」
 しゃっくりがでたからといって、病気になったわけではないだろうし、いずれ自然とおさまるはずだ。
 とりあえず、小説を書いている際に出てしまっては、文字が歪んでしまいそうだ。
 ティアは椅子から立ち上がると、別のことをすることにした。あとでやろうと思っていた家事をしよう。そうしているうちにきっととまるはずだ。
 戸棚の整理をして、家の前を綺麗に掃いて、洗濯物をとりこみ畳んでしまって――そんなことをしているうちに、それなりの時間が流れていった。
 だが、しかし。
「ひっく!」
 びくん、とティアは全身を震わせた。なんだか出はじめたときより、しゃっくりが大きくなっていないだろうか?
 ひたひたとティアの胸に這い寄ってくるものは、確かな不安だ。さっきはすぐに止まると思っていたのに、そんな気配がまったくない。
「ぜんぜん、とまらない……」
 もう何度目かはわからないしゃっくりに、ネアキがそういいながら眉をさげた。鏡を覗き込んだわけではないからはっきりとはいえないが、きっと、自分も今、そんな顔をしているんだろうな、とティアは思った。
 テーブルセットの椅子をひいて、のろのろとそこに腰掛ける。
「うう……ひっく、なんか、すごく疲れたよ……ひっく」
 ぐったりとして俯せたティアの傍らに、預言書の栞から抜け出した光が集う。
 それは、雷の精霊であるウルと、炎の精霊であるレンポだった。どうやら、ティアにおきた異変を察知して、みずから姿をあらわしたらしい。
「おい、大丈夫かよ? これだからニンゲンってのはよー」
 言葉とは裏腹に、レンポの吊り上った瞳の奥は動揺している。口が悪いところはあるが、ほんとうは優しいレンポなりの心配の仕方に、ティアは淡く微笑んだ。
「うん……、ちょっと、とまらないだけだから」
 そんな二人のやりとりをじっとみつめていたウルが、そういえば、となにか思いだしたように声を発した。
 のろのろとそちらを見上げれば、宙に浮かびながら人差し指を立てたウルが、ティアを見下ろしていた。
「しゃっくりが止まらず、そのままし続けていると、衰弱して死んでしまうことがあるそうですよ」
「「「「……」」」」

 こんなときに妙な知識を披露しなくてもいい。

 同じことを思ったのだろう。ティアと、ウルをのぞく精霊たちが、一斉に黙り込む。
 小さな家を満たした静寂の中、ひっく、としゃっくりで肩を揺らせながら、ティアは大きな目をじんわりと潤ませていく。
 ほんとうに、ウルのいうとおりなのだろうか。
 もしも、もしも――このまま自分のしゃっくりが止まらなかったら、死んでしまうのだろうか。
 そうしたら、どうなるのだろう。せっかくここまで、みんなの力を借りてやってきたというのに、この預言書を新たな世界へと導くことはできないのだろうか。自分が死んだら、次の世界に価値あるものはどうやって生まれるのだろう。
 でも、それよりもなによりも――!
 ぐ、と唇を噛みしめたティアの脳裏に、一人の男の姿がよぎる。
 おおいなる使命をもつ身としては、それを果たせるかどうかが重要であるはずだ。だけれど、恋を知ってしまった今となっては、ティアにとってはその男のことが一番の気がかりだ。
 ヴァイゼン帝国の将軍こと、ヒース。ティアの恋人。
 好きだといってくれた彼との幸せな時間を、なくしたくない。でも、しゃっくりは止まらない。
 そういえば、最近は新しい価値あるものをページに記せていない。これはもしかしたら、使命を疎かにしていた自分への罰なのだろうか。
 たかだかしゃっくりごときでそんなに思い悩まなくても……、と他人からのツッコミがはいりそうだが、本人はごくごく真剣である。
 そんな嫌な想像のせいで、ティアがいまにも涙をこぼしそうになっていることに気付いたミエリが、きゃあ、と小さな悲鳴をあげた。
「ああ、ティア、泣かないで?!」
「大丈夫、だから……!」
 そんなこと絶対にありえないんだからね! と励ましながら、ティアを慰めるように抱きついてくる。
「ふえぇぇ、ミエリ、ネアキ~……! ひっく、」
 心優しい精霊たちを優しく抱きとめながら、ティアは震える声を漏らした。
 そのすぐ傍らでは、怒りのためか、火の粉を撒き散らしながら、レンポがウルに詰め寄っている。
「ウル、てめー空気よめよ!」
「な……! レンポにそのようなことをいわれる日がこようとは……!」
「そこは驚くとこじゃねえし!」
 妙なところで天然な言動をするウルに対して、レンポが頭を抱えている。
 仲の良い二人をよそに、ティアはとうとう涙をひとつこぼした。ぱたり、とテーブルを濡らしたその滴に、ぎょっと精霊たちが目を見開く。
「うっ、ひっく、ううっ……ひっく……!」
「なんかいい方法はねーのか! こういうときにこそ、その頭を働かせろよ!」
 ネアキに、あたまでっかちとこっそり評されているウルが、口元に手をあて僅かに顔を伏せる。
「たしかこのようなときは、息を止めたり水を飲んだりすると効果がある、とされているはずですが」
「そ、それなら私も、ひっく、きいたことある!」
 うんうん、とティアはウルの提案に大きく頷いた。やれることがあるのなら、いろいろと試してみなければ!
「じゃあ、とりあえずやってみようよ、ティア!」
 可愛らしく両の手を握りしめたミエリに、励ますように促されたティアは、ひとまず息を止めてみることにした。
 むむむ、と顔が真っ赤になるまで息をとめる。
 じっと四人の精霊たちの視線を一身に受け止めながら、ティアは小さな唇をきつく引き結ぶ。
 だんだんと、苦しくなってくる。でもまだ我慢、我慢、我慢――!
 やがて、これ以上はもう無理死んじゃう、というところまできたティアは、ぷはっと大きく息をついた。
 新鮮な酸素をたっぷりと肺に送り込み、肩を上下させる。これだけの刺激であれば、なにかしら効果があるはずだ。
 どうだろうか、とティアが胸をおさえた次の瞬間。
「――ひっく、」
 またしても、ティアは身体を小さく跳ねさせた。
 ああ……、と精霊たちの残念そうな声が落ちて消える。
「……う、とまらない……」
「じゃあ、次はお水飲んでみて!」
「そ、そうだね!」
 息を止めるのがだめなら、次の手よ! と、いわんばかりのミエリに促され、ティアはテーブルの上においてある水差しから、コップに水を注いだ。
 今度こそ、と期待を込めながらゆっくりと飲み干す。
 そしてしばし様子をみ――
「ひっく!」
 止まったか?! と誰しもが思ったところで、それはまたひょっこりと顔をだした。
 ああ~……と、ミエリとレンポが再び肩を落とす。ネアキとウルが、困惑しきりといったふうに顔をみあわせた。
「と、ひっく、とまらない、よ……ひっく」
「……驚くことも、よいそうですが」
 あとはどうしたらいい? と視線で訴えると、ウルがもう一つの方法を教えてくれる。
 小さく頷いたティアは、目を潤ませながら精霊たちをみまわした。
「う、うん……! じゃあ、ひっく……お、おどろかせて、くれる? ひっく」
 いま、この家にいるのはティアと精霊たちだけ。当然頼むのならば彼らしかいない。
 しかし。
「「「「……」」」」

 どうやって?

 全員で、それぞれの顔を見遣りあう様から、ありありとその考えが読み取れた。言葉にはされていないけれど、どうしたらいいのかわからないようだ。
 だが考えてみれば、驚かせてくるとわかっている相手に、しゃっくりを止めるほど驚かせてほしいとお願いするのは、なんとも無理な話だ。
「うっ、ううっ……! ひっく、……ふえっ、ひっく……!」
 万事休す。
 そんな言葉がティアを襲う。
 私、このまま死んじゃうのかな――ティアの脳裏に浮かんでいたヒースの姿が、ふっと消えた。

 

 

「ティア、落ち着いてください!」
「う、ううっ……! ひっく……!」
 ティアはウルに諌められながらも、その速度を落とすことなくフランネル城の長い廊下を走っていた。そのあとを、ほかの精霊たちもついてくる。
 ときおり、ふかふかの赤い絨毯に足をとられそうになるが、それでもティアは前へと進む。すれ違った小間使いがひどく驚いた顔をしていたようにみえたが、謝る余裕もない。
 いつもいるはずのフランネル城前に、その姿はなかった。両国の平和と繁栄のためという名目で、カレイラ王国にとどまっているヒースがゆくところは、あるていど限られてくる。今の時間なら、きっとあそこだ。
 そうしてたどり着いた部屋の扉へと、ティアはとびつくように突進した。
「ふわぁぁぁん、ひっく、ヒースさ、ひっく……! ヒースさぁん!」
「……ティア?」
 ばたん! と勢いよく扉をひらき、執務室に駆け込んだティアをみて、仕事中であったヒースが目を丸くする。
 重厚な執務机の向こうで瞬く、あっけにとられたその青灰色の瞳に、安心すると同時に悲しさがこみあげる。
 もう、こうして見つめてもらえるのも、あとわずかなんだ――悲愴感たっぷりにそんなことを考えて、ティアはしゃっくりを繰り返しながら、ぼろぼろと涙を零した。
 彼の姿をみたら、懸命にとどめていてくれた涙の堰が、壊れてしまったようだ。
「ヒース、さん……、ひっく……!」
「どうしたんだ」
 約束はしておらず、あげくに仕事中であるところに駆け込んだ。そんなことをしでかしたというのに、ヒースは執務机から離れると、立ち尽くすティアのもとまできてくれた。
 格好よくて優しくて、ティアの大好きな人は、身長差を埋めるためかゆっくりと膝をついて、視線を同じ位置にあわせてくれた。
 剣を握るためかたくなってしまっているが、とっても温かなヒースの手に、コートを握り締めたティアの手が包まれる。無骨ともいえる男らしい風貌なのに、まとう空気はひたすらにやさしい。そうしてもらえる特権をティアは与えられているのだ。
「どうした? なにをそんなに泣いている?」
「……私、死んじゃうんです……――ひっく、」
「話がさっぱりみえないんだが……。ゆっくりでいい、なにがあったか教えてくれるか?」
 穏やかな声でたずねられて、ティアは泣きながら語る。
 かれこれ一時間以上、しゃっくりをし続けていること。
 それが止まらないと、最悪死んでしまうと聞かされたこと。
 止めるために一通りのことはしてみたが、効果がなかったこと。
 ティアの涙交じりかつしどろもどろな話に、真剣に耳を傾けてくれたヒースの大きな手が、ティアの小さな頭にそっと添えられた。
 まるで不安の嵐に乱れるティアの心をなだめるように、なんども頭を撫でてくれる。そうしてもらっていると、不思議と涙がひっこんでいった。
 目元と頬を赤くしたまま、ティアはじっと目の前の恋人をみつめる。ふむ、とその視線に応えるようにヒースが頷いた。
「なるほど。つまり、しゃっくりが止まらなくて死んでしまうまえに、ティアは俺に会いに来てくれたと。そういうことでいいんだな?」
「はい……、私、ヒースさんに、ひっく……ちゃんとお別れをいわなきゃって……ひっく」
 ふたたび涙を瞳一杯にためながら、いまだとまらぬしゃっくりを繰り返し、ティアは身体を震わせる。そんなのは絶対に嫌だけれど、なにもいわずにヒースと別れることになるのはもっと嫌だった。
「わかった。とりあえず、ここまで走ってきて疲れただろう? そこで少し休むといい」
「……はい……ひっく、」
 ヒースが視線で案内したところは、ティアがいつもよく座っているソファだった。よろよろとした足取りで近づき、やわらかな座面にその身をまかせる。
 みれば、部屋の隅へと歩いていったヒースは、水を汲んでいた。
 そういえば、喉が渇いた……、とぼんやりと思っているうちにヒースはガラスのコップを手にしてティアのもとへとやってくると、その隣に座った。
 てっきり水をくれるものと思っていたティアの前で、ヒースがコップの中身をあおる。ごくり、とヒースの口のなかへと水が消えていく。
 ヒースさんも喉が渇いていたのかな? なんて呑気に思った次の瞬間。 
「え」
 ひくっとでかけていたティアのしゃっくりを食べてしまうように、覆いかぶさってきたヒースに口づけられ、ティアは目を見開いて固まった。
 ぼんやりとした視界の隅、精霊たちがあっけにとられている。
「んんっ、」
 なんで急に?! などと思う間もなく、厚い舌先が強引かつ器用にティアの口内に差し込まれ、水が流れ込んでくる。
 反射的に目を閉じたティアは、それを飲み込んでいくしかなかった。さほど多くない量がティアの喉を伝って胃へとおさまった後、そのまま息ができないくらいに口付けが深くなる。
 いやいやと首をふることもできず、かといって身を捩って逃げようにも、いつのまにかしっかりと抱きかかえられていてできやしない。
 やがて、ティアの頭は酸素不足もあって、ぼうっと霞んできた。強張っていた身体が緩んでいく。ヒースの胸に手をおいて、与えられるキスに酔う。さきほど流し込まれたものは、水であったはずなのにまるで酒精に煽られたように、全身が火照っていく。
 精霊たちの視線さえも忘れ、甘い触れあいに夢中になり――気付けば、口づけは終わっていた。
 表情が確認できるくらいの距離をあけたヒースが、ティアの顔を覗き込みながら笑う。
「どうだ?」
「……どうって……」
 ぽやっとしたまま、ティアはヒースの問いを繰り返し、そして考える。
 死ぬ前に一目ヒースに会いたくてやってきて、それをヒースは優しく受け入れてくれて。そしてキスされた。ぽ、とさらに頬を赤らめてティアは長い睫を伏せた。
「……うれしかった、です……」
 なんでそんな恥ずかしいことをきくの、と思いつつ正直に答えれば、ヒースが一瞬だけ固まって――そして、噴出した。
 くつくつと、ヒースが口元を押さえて笑うさまを、まだ夢と現の狭間にいるような心地で、ティアは不思議そうに眺める。
 ひとしきり笑ったあと、ヒースがティアの頬を撫でる。
「そっちじゃない。しゃっくりはどうだ?」
 改めてそういわれ、ぱちんと泡がはじけたように、ティアの意識が覚醒した。
「あ、えっ?! ――……とまってる」
 自分の胸元をおさえ、しゃっくりに跳ねないことを確かめて、ティアは顔を輝かせた。
「ヒースさん! とまってます!」
「そうか、よかったな。これで死ぬ心配はなくなったな?」
 にっこりと、ヒースが笑う。ティアはその笑顔にまけないくらいの喜びに満ちた笑顔を浮かべた。
「は、はいっ!」
 ティアは、やったー! という可愛らしい歓声とともに、ヒースの太い首へとかじりついた。そのまま、力任せに、ぎゅううう、と抱きしめる。
 苦しくはないようで、くつくつと喉の奥を震わせて笑ったヒースが、優しく背を撫でてくれる。
「あ!」
 そうして、しばらくの間くっついていて安堵に浸っていたティアは、あることに気付いてヒースが身を離した。
「もしかして、しゃっくりを止めようとしてくれたんですか?」
「ああ、もちろん」
 なにをいまさら、とヒースがいう。その口もとが、に、と深い笑みを刻む。
「息をとめて、水を飲んで、驚かせる――どうだ。効果覿面だったろう?」
 こくこく、とティアはすごい勢いで頭を振った。
 一度にすべてのことをこなすなんて。さすがヒースさん……! と心を感動に震わせながら、ティアはもう一度抱きついた。今度はそっと、甘えるように。
「……ありがとうございます、ヒースさん」
 そっと頬を摺り寄せて感謝の言葉をおくれば、無言のままきつく抱きしめ返された。

 

 きゃっきゃ、と死への憂いから解放されたティアが、こちらの様子をすっかり忘れたように、はしゃいでいる。
 そんなティアを微笑ましく、そしてとても愛おしそうに見つめる人間の男。
 邪魔をしないようにと、天井のシャンデリア近くまで浮かび上がった精霊たちは、それを見下ろしながら語り合う。
「なるほど、しゃっくりが止まらなくなったら、口づけをすればよいのですね。勉強になりました」
「いや、そうじゃねえだろ、この場合はよ……」
 ふむふむとあらたに得た知識を確認するウルに対して、レンポはいまにも砂でも吐き出しそうな顔をしている。どうやら、お熱い恋人たちにあてられてしまったらしい。
 そんな対照的な二人の間に、ミエリがはいる。
「ふふふ、いいじゃない。あながち間違いじゃないでしょ? まあ、恋人同士っていう条件がつくみたいだけど」
「……とりあえず、よかった」
 ほ、と胸に手をあててネアキが心から安心したように囁いた。冷静そうにみえても、相当焦っていたのだろう。
「あらら、ほんとうに仲いいなぁ」
 少し静かになったと思ったら今度はぴったりとお互いを重ねるように抱擁しているティアたちをみて、ミエリがほんのりと頬を染める。
「っていうかよ、あれってあれだろ?」
「そうですね、ティアのためを思ってやったことには変わらないですが、本心はあれでしょうね」
「ふふっ、レンポやウルがいいたいこと、なんとなくわかるなぁ」
 淡い紅色のハートでも飛び交っているんじゃないかと錯覚しそうになるソファでの光景に、精霊たちの心は今、ひとつになっている。
「……役得、ね」
 ネアキがぽつん、と形にしてくれたその思いに、まったくもって同意だと残りの三精霊は頷いた。
「まあ、幸せそうだからいいんじゃないかな~」
「だな。ああ、つっかれたー。やっぱ人間ってめんどくせぇ」
「あんなに心配していたくせに……。あまのじゃく」
「な、うっせーな、ネアキ!」
 もともと性格のせいか属性のせいか馬があわないレンポとネアキが、正面から視線だけの攻防を繰り返す。本格的な追いかけっこに発展するのは、もうすぐだろう。
 そんな彼らの横で、ミエリは穏やかで慈愛に満ちた笑みを浮かべながら、ウルを見遣った。
「ティアには、幸せになってもらいたいよね」
「ええ、まったくもってそのとおりです」
 今回ティアを一番怖がらせてしまったことは棚に上げ、したり顔で頷くウルに、ミエリはころころと笑った。