摘まれても—–12

 は、と息をついてあたりを見回す。
 ティアが駆け出したときに落とした紙袋からは、日用雑貨が転がり落ちている。
 ヒースが渡した菓子入りの紙袋は、口を閉じていたおかげで散らばってはいないが、石畳の上に、寂しげによこたわっている。
 ベンチからたちあがり、それらに手を伸ばす。拾い集めながら、自分がしでかしてしまったことを振り返る。
 口付けた。
 なんの言葉もなく、許しをえたわけでもなく、唇を寄せてしまった。
 あの年頃の女の子にならば、恋にも恋人にも、多少なりとも憧れはあるだろう。それを奪いとるようなまねを、自分はしてしまった。
 でも、身体が勝手に動いてしまった。湧き上がる感情に引き摺られて、目の前の存在を求めてしまった。
 それは本格的に、自分があの少女に落ちた証。胸の奥で、なにかが満開になった証。
 今も身体の奥を震えさせるのは、愛しいと名づけるほかない感情だ。
 大体、理性でどうにかなるくらいなら、あんなことしなかった。
 いろいろと考慮すれば、はいそうですか、と安易に認められるわけもなかったものだが、もう真正面から向き合うしかない。
 言葉よりも先に行動してしまったのだから。

 自分は――ティアが好きだ。

 知らないと、忘れてくれと、手ひどい言葉で傷つけたくせに。遠ざけたくせに。なにをいまさら。そういわれても仕方がない。
 でも、それでも。太陽に向かって新芽を伸ばす木のように、いつしか求めてやまなくなっていた。
 いつからだろう。
 出会ったときにはもう、心惹かれるなにかがあったのか。
 それとも、共に失くした記憶の痕跡をたどっていた頃からか。
 ヒースのすべてを、ティアが肯定してくれた、あの時か。
 その後も、静かに重ねた時間がもらしたものか。
 ああ、そんなこと、いまはどうでもいい。
 ただ、逃がしたいと思えない。手に入れたいとしか、思えない。側にいて欲しいと、思う。
 硝子の杯ぎりぎりにためられていた水が、少しの刺激で零れ落ちたように、ヒースはその思考に、頭も身体も支配されていた。
 幸せを求めていいのだと。そうして、その人たちの分まで生きるのだと、そういっていたのはティアだ。許してくれたのは、ティアだ。
 ならば、その言葉の責を果たしてもらおう。
 自分のあまりの身勝手さ、狡さに自虐的な笑みを浮かべながらも、それ以外の選択肢は選べないことを、ヒースは自覚していた。
 断ち切ったのだ。ティアに触れることで、自分の気持ちを覆い隠していたものを。
 もう止まることはない。止めるつもりもない。
 謝罪して、そして伝えたい。
 それしか考えられなかった。
 落ちていた荷物すべてを紙袋に押し込むと、ゆっくりと身体を起こした。
 最後に、ひょいと菓子入りの紙袋を拾う。
 それらを抱え、ヒースは歩き出す。
 迷いなく足を進める方角に、にわかに雲が立ち込めていくのが、みえた。