は、と息をついてあたりを見回す。
ティアが駆け出したときに落とした紙袋からは、日用雑貨が転がり落ちている。
ヒースが渡した菓子入りの紙袋は、口を閉じていたおかげで散らばってはいないが、石畳の上に、寂しげによこたわっている。
ベンチからたちあがり、それらに手を伸ばす。拾い集めながら、自分がしでかしてしまったことを振り返る。
口付けた。
なんの言葉もなく、許しをえたわけでもなく、唇を寄せてしまった。
あの年頃の女の子にならば、恋にも恋人にも、多少なりとも憧れはあるだろう。それを奪いとるようなまねを、自分はしてしまった。
でも、身体が勝手に動いてしまった。湧き上がる感情に引き摺られて、目の前の存在を求めてしまった。
それは本格的に、自分があの少女に落ちた証。胸の奥で、なにかが満開になった証。
今も身体の奥を震えさせるのは、愛しいと名づけるほかない感情だ。
大体、理性でどうにかなるくらいなら、あんなことしなかった。
いろいろと考慮すれば、はいそうですか、と安易に認められるわけもなかったものだが、もう真正面から向き合うしかない。
言葉よりも先に行動してしまったのだから。
自分は――ティアが好きだ。
知らないと、忘れてくれと、手ひどい言葉で傷つけたくせに。遠ざけたくせに。なにをいまさら。そういわれても仕方がない。
でも、それでも。太陽に向かって新芽を伸ばす木のように、いつしか求めてやまなくなっていた。
いつからだろう。
出会ったときにはもう、心惹かれるなにかがあったのか。
それとも、共に失くした記憶の痕跡をたどっていた頃からか。
ヒースのすべてを、ティアが肯定してくれた、あの時か。
その後も、静かに重ねた時間がもらしたものか。
ああ、そんなこと、いまはどうでもいい。
ただ、逃がしたいと思えない。手に入れたいとしか、思えない。側にいて欲しいと、思う。
硝子の杯ぎりぎりにためられていた水が、少しの刺激で零れ落ちたように、ヒースはその思考に、頭も身体も支配されていた。
幸せを求めていいのだと。そうして、その人たちの分まで生きるのだと、そういっていたのはティアだ。許してくれたのは、ティアだ。
ならば、その言葉の責を果たしてもらおう。
自分のあまりの身勝手さ、狡さに自虐的な笑みを浮かべながらも、それ以外の選択肢は選べないことを、ヒースは自覚していた。
断ち切ったのだ。ティアに触れることで、自分の気持ちを覆い隠していたものを。
もう止まることはない。止めるつもりもない。
謝罪して、そして伝えたい。
それしか考えられなかった。
落ちていた荷物すべてを紙袋に押し込むと、ゆっくりと身体を起こした。
最後に、ひょいと菓子入りの紙袋を拾う。
それらを抱え、ヒースは歩き出す。
迷いなく足を進める方角に、にわかに雲が立ち込めていくのが、みえた。