いじわるなきみ
ティアは、ふと気付いた。 ウルが、ものすごく意地悪なのでは、ということに。 最初はそんなことはないはずと、自分の考えを打ち消してみるものの。 次から次へとそれを裏付けるような思い出が蘇ってくる。 これまでの冒険を紙面に書き留めていたティア…
あなたに夢中
ローアンの街、ひいてはカレイラ王国は古い。かつての広大な版図は、いまや縮小してしまったが、その伝統や文化は古の頃より色濃く人々の生活に根付いている。 今を生きるものたちに、その由来や理由を知るものは少ないけれど、受け継がれてきているものが…
小さな雷はじけて消えて
ふいに、抱きしめたくなる。 それは嵐のような衝動のときもあれば、柔らかな陽だまりにうずくまるような穏やかなときもある。 ――つい先日までは、側にいられるだけでよかったのに……困ったものですね。 日に日に貪欲になっていく自分を自覚して、ウル…
春はここに
様々なものが、ところせましと並べられた雑貨屋。きゅ、とブーツの靴底を鳴らしながら、小柄な少女――ティアが、歩いていく。「んー、と……これと、これ……と」 細い腕に塩袋をひとつ、黒胡椒の瓶をひとつ抱える。お目当てのものをみつけたティアが、店…
秋にやさしさ
青い空を遮るように、赤に黄に染まって揺れる、木々の葉。風が吹けば、ひらりひらりと舞い遊ぶ。 さくさくと乾いた音を小さな足で奏でながら、ふんわりと降りつもった木の葉による赤い絨毯を、ティアは楽しみながら歩いていく。 つい先頃まで、秋の実りや…
香水とつけ方
「おぬし、ラブラブしとるか!?」「はい?」 秋の真っ只中であることを伝える、茜色の蜻蛉が飛び交う高い空の下。高らかに突然のビスの言葉が響く。たまたま立ち寄っただけのティアは、きょとんと目を瞬かせた。 以前にプレゼントの仕方を教えてもらったと…
交わす誓いに咲くものは 後編
あの結婚式からすでに一週間が過ぎた。 花嫁の想いがたくさんつまったブーケでも、生花である以上枯れていくのは必定。ティアはファナと相談し、そのうちの数輪を押し花にして互いに持つことにした。そういったことは、ヘレンが得意だというので、お任せし…
交わす誓いに咲くものは 前編
軽やかに鐘の音がひとつ、風に乗る。 高らかに鐘の音がふたつ、街に渡る。 華やかに鐘の音がみっつ、人に降る。 ローアンの街にいくつかある教会のうち、中層階域にある素朴なつくりの小さな教会の前。この世全ての幸福を招かんとするその音のもとへ集っ…
精霊と毒
Caution!! 以前にUPした「精霊と果実」の続き的なものです。 読まなくても話の内容的には通じるかと思いますが、できれば先に「精霊と果実」に目を通していただければと思います。 ウルがちょっと黒めで、どこかへ静かに落ちていっている感じな…
手紙
Caution!!ティアがおばあちゃんです。そして死にます。ウルがよく泣きます。でも希望はきっとあります。管理人の独自解釈+勝手設定全開です。いろいろとおかしい上に長く、明るいお話ではありません。多少でも躊躇いを覚えた方は読まないことを強く…
いつかきっと
Caution!!ティアがおばあちゃんです。そして死にます。ウルがよく泣きます。でも希望はきっとあります。管理人の独自解釈+勝手設定全開です。いろいろとおかしい上に長く、明るいお話ではありません。多少でも躊躇いを覚えた方は読まないことを強く…
あなたの願い、叶えます
清々しい朝の光が、窓辺から差し込んでくる小さな家の中。 朝食およびそのほかの家事も終えたティアを前にして、ウルは赤と蒼の瞳を瞬かせた。そして、ついさきほどティアから告げられたことを、心の中で反芻する。 だが、どうにも聞き間違いだったような…
物事は順番に
本日も世は平穏。 天気もよく、開け放たれた窓から吹き込む乾いた風が心地いい。 ふわり、絹糸のような栗色の髪を遊ばせながら、ティアは預言書をぱらぱらとめくっていく。 あらゆるものの設計図といっても過言ではないメタライズの項目と、にらめっこし…
精霊と果実
そろそろ頃合、でしょうか。 ウルは顎に手を当てて、ティアの後姿をみつめながらそう思った。 今日も一日、預言書の価値を高めるために冒険にでかけ、夕暮れ間近に帰ってきたティアは、ひらひらとスカートの裾を遊ばせて家の中を歩いていく。「今日は新し…
その花の名を
「はい、ウル。これつけて」「はい?」 何気なく差し出されたものは、よく知っているものだった。 世界と契約を交わした際に与えられた、力を抑制し、預言書とのつながりの証でもあったもの。顔の半分を覆いつくし、ウルの「視る」という感覚を永遠に封じる…
秘密のくちづけ
星の瞬きさえ聴こえるような静かな夜。 一人で住むには十分な、手入れの行き届いた小さな家。 身じろぎする度に、かすかにきしむ古い寝台。 そこに腰掛け、肩を抱かれたままティアはじっと恋人を見上げていた。 金の髪がわずかに揺れる。左右色の違う瞳…
コランダムの瞳
「すごーい……!」 素直に感嘆の声をあげるティアに、ナナイはくすくすと笑った。 香が焚かれ、どこか薄暗い、いかにもという雰囲気に仕立てられた魔女の館。その中央におかれたテーブルの上には、今は水晶玉ではなく色とりどりの宝石が置かれている。 女…
困った恋人
ものすごい勢いでフランネル城からローアンの街を駆け抜けたティアは、己の家に飛び込むと扉を乱暴に閉めた。 ぜー、はー、と肩で息をしながら扉に寄りかかる。そうやって、脳へと懸命に酸素を送り込みながら考える。 ああもう。次に会ったらどんな顔をす…
英知と喜び
「アラシガサキ、かあ」 預言書のうち、花のページを開いているティアがぽつんと呟く。世界の片隅で咲く花々をこれまで数多くスキャンしてきた。預言書にあるその花のページの価値をあげるには、花言葉を知ることとその花がもつコードを外すことが必要だ。 …
むかしがたり?
預言書の精霊は幾度も幾度も、世界の創造に立ち会ってきたという。 そうして生まれ成長し、やがて滅んだ世界たちの中には、この世界とはまったく違う姿になったものもあったという。ティアは、そんな過去の世界の話を聞くのが大好きだった。 なぜならそれ…
雪の夜
冬の到来を告げるような嵐の従者は、秋から遣わされた天駆ける雷だった。「……すごい風」 寝巻きに着替え、さあそろそろ眠ろうかという宵の頃、窓から外を垣間見たティアは、ぽつりと呟いた。 ざわざわと木々の影が生き物のように蠢き、弓が放たれるよう…
無自覚の恋
深い森の中、風で倒れたのかそれとも寿命だったのか、ごろりと大地に横たわる木に腰掛けて、ティアは預言書と向き合っていた。「ウル」「呼びましたか、ティア」 ふわり、と預言書から湧き上がった力が形を成していく。長い手足、雷を模した衣装と顔を覆う…
願いかなう日まで
「んー、さすがドロテア王女からもらった紅茶だよね」「ええ、よい香りです」 ふんわりと家の中に漂う芳しさにうっとりとするティアに、ウルは同意した。 せっせと預言書にためこんだメタライズの解読に頭を悩ませていたティアをみかねて、ウルが休憩を提案…