ANWAR&TIA

  • きっと勝てない

     お水がほしいなー……。 てくてくと夏空の下を歩いていたティアは、そんなことをぼんやり思う。それはこの季節をすごすものなら、誰しも頭の片隅に常に置いていることだろう。 頭上から燦々と降り注ぐ太陽の光は白く熱く、また、石畳からの照り返しに肌が…

  • 不運 のち 笑顔

    今日はとことん運が悪い日だった。 探索に出かけた先、出くわした魔物に対してジャッジメントリンクをしようとすれば、ことごとく初撃を防がれ。 ようやく倒したと思ったら、近くの小川へと足を滑らせて落っこちて、おろしたての靴をびしょぬれにし。 それ…

  • あの子

    「わん!」「?」 いきなりあがった鳴き声に、アンワールは引き寄せられるように視線を落とした。 己の足元に、ふわふわとした丸っこい小さな生き物―― 子犬が、いた。 一体いつの間に、ここにきたというのだろう。気配には敏いアンワールであるが、まっ…

  • 天高く馬肥ゆる

     今日も朝は爽やかにやってきた。窓辺から差し込む秋の光に目を細め、のろのろと寝台を降りて伸びをして。ゆっくりと体をほぐす。そして、顔を洗って髪を整え、寝間着からいつも服に着替えようとして――。「ん? ……あれ……?」 ベストのボタンをかけよ…

  • 雨上がりの空の下

     ぽつ「あ……」 ふいに鼻先に冷たい感覚が落ち。 ティアは小さく声をあげ、慌てて空を見上げた。 先ほどまで青く懐を広げていたそこに、にわかに垂れ込む黒い雲。 からかうように、ひゅうと強い風が吹く。ティアは慌てて、ひっくりかえりそうになったス…

  • さっぱりすっぱり

     手入れの行き届いた綺麗な部屋の開け放たれた窓から、風がカーテンを揺らして迷い込んでは、またひらりと出て行く。 快適にすごせるよう家主の少女が工夫をしているおかげで、広いとは決していえないが、人が住むには充分。 いつの間にかその空間にすっか…

  • 少女の病と処方箋

     乾いた夏の風吹き抜ける、午後の気だるい空気に満ちた路地裏に、目標を確認。 白い雲が眩しい青空の下、長い髪を揺らしてどこか遠くをみるその横顔をじっとみつめれば、自然と頬が熱くなっていく。陽だまりではない、建物の影から様子を伺っているのにどう…

  • 一番一緒にいたいひと 後編

     綺麗に整備された街道をゆっくりと辿りながら、ティアはエエリとのやりとりが忘れられずに、「むむむ……」と唸り続けていた。 そんなティアをからかうように吹いた涼やかな風が、梢を揺らし青い空へと舞い上がる。 熟れた果実のような赤い頬に、その冷た…

  • 一番一緒にいたいひと 前編

     乾いた風に砂塵が舞うサミアド地方。 過酷なこの地に住まう民の集落が、陽炎に揺らめく砂丘の向こうにある。 彼らは大きな古代遺跡の傍らにいくつもの居を構えており、その中央には大きな宮殿が存在する。 ほんの少し前までは、そこにはこの世を支配せん…

  • 彼への違和感

     柔らかな光をまぶた越しに感じながら、ティアは小さく呻いた。 まだ、このまどろむ感覚を離したくない。 隣にあるぬくもりに頬を寄せながら、そう思う。 でも。 耳に届くのは、目覚めた小鳥たちの軽やかな歌声。それはいつものとおり、朝の訪れを告げる…

  • 世界が滅ぶその日まで

     夜が明けても、まだ砂漠の風は冷たい。ティアは毛布に包まれたまま、自分と肩を寄せ合う恋人を見上げた。 こうして夜明けをともに見るのも、もう幾度重ねたことだろう。夜明けに溶け込むような前髪を風に遊ばせ、相変わらず澄んだ瞳をした少年に声をかける…

  • まじないとおまじない

    「えっと、ごめんなさい。もう一度言ってくれる?」「だからね、おまじない教えて欲しいの」「……」 聞き間違いではなかったらしい。 ぐっと目に力をこめてそういったティアに、ナナイは「んー……」と呟きながら、頭をかいた。ふわりと、赤い髪が揺れる。…

  • 彼の知りたいこと

     なんでもない日だった。 世界は少しずつ滅びに向かっているけれど、それはまだ当分先のことで、穏やかといえる時間が過ぎていく他愛のない、とある一日。 ちょっとだけ陽射しが強くて暑かったから、裏通りの少し奥まったところで、二人で木箱に腰掛けて、…

  • 犬というより

     ローアンの街を取り囲むようにして流れる清らかな小川には、様々な生物が住んでいる。 占い横丁の西の作りかけの橋から見下ろす水面の底にも、いくつもの魚影が確認できる。 うららかな陽射しも心地よい午後のとある日。 ティアはそんな川辺で、レクスと…

  • 取り残された時間

     はっきりと、覚えている。 砂埃立つ砂漠の民の集落で、暑く眩しい太陽よりも、もっと輝く笑顔を浮かべた少女が自分に対して差し出してくれたもの。 攫ってきたその少女に己の名を教えたときよりもずっと、胸の奥がざわめいた。 砂漠の片隅にひっそりと咲…

  • 結婚しようよ

     占い横丁でもっとも実力があるとされ、その的中率に恐れ慄かれる魔女ナナイの館は、普段はよほどのことがなければ誰も寄り付かず、静かなものだ。 しかし、うららかな陽射し心地よい本日、明るく澄んだ笑い声が館から漏れ出していた。  占い用…

  • おそろい

     カレイラの首都、ローアンに雪が降る。「……」 ナナイは裏通りに足を踏み入れたことを後悔した。 占い横丁の自分の家へと帰るのに、レクスという少年がつくった近道を利用しようと思ったのが、まずかったようだ。 ナナイの深く美しい緑の視線の先に、一…