HEATH&TIA

視線を交わしたその瞬間、05

 おかしい。 なんでこんなことになっているんだろう。 俯き、膝の上で小さな手を握り締めたまま、ティアは泣きたい気分に陥っていた。 二週間前あんなに泣いて、泣いて――もうこれ以上、破れた恋に流すものなどないと思っていたけれど。 その原因たる男…

視線を交わしたその瞬間、04

 頬を薔薇色に染め、ティアは踊るような足取りでフランネル城を歩いていた。 ふかふかの絨毯を踏みしめ、今日も向かうは恋する男の執務室。 あともう少しで休憩時間になるはず。すっかり覚えてしまったヒースの行動を見計らって、会いに行く。それは幾度繰…

視線を交わしたその瞬間、03

 友人たちに励まされて、翌日。 己の気持ちに気が付いた以上、いつまでも逃げ回るなどできやしないと腹をくくったティアは、フランネル城内のとある部屋の前にたっていた。 そこは、外交官的な立場にもある帝国将軍のヒースに与えられた執務室だ。重厚な造…

視線を交わしたその瞬間、02

 たゆたうようなまどろみの中、記憶が泡のように膨らみ、次々と弾けていく。 頭を撫でる大きな手、軽々と抱き上げてくれた逞しい腕、そうして手に入れたいつもとは違う視線の高さ。振り返れば、いつでも見守ってくれていた優しい瞳。 どうしようもなくて道…

視線を交わしたその瞬間、01

「いってこい」 陰色濃く荘厳なフランネル城を背景に、全身を夕焼け色に赤く染めて、大きな背をもつ男はそういって笑った。「広い世界を、みてこい」 影を引きずりながら伸びた手が、ふわり、頭の上に置かれる。 優しく、強く、それでいて暖かな手の心地よ…

指きりの約束

 ヒースはゆっくりと世界の十字路を北へと辿る。 じつに一ヶ月ぶりのローアンの街である。 そびえる天空塔は、魔王の一件で半ばから折れてから修繕されていないものの、あいかわらず高い。 本来ならすぐにでもその下にあるフランネル城にいるヴァルドもと…

師匠の心

 森の夕暮れは早い。 陽がわずかに陰ったと思えば、あっという間に夜に支配される。西の大樹を抱くこの深い森の中では特に気をつけなければすぐに飲み込まれてしまう。 独特の緑のにおいを、わずかにしめった風が運んでくる。 どこか遠くから、獣の声がか…

二人の未来~?年後~

「よし、これでいいな」 手にしていた羽ペンをゆっくりと下ろす。これで帝国に向けた書類の作成はすべて終わった。ヒースはやれやれと肩に手を当てる。 やはり机仕事は疲れる。戦争は二度と起こってほしくはないが、身体を動かす任のほうが性にあっている以…

二人の未来~四年後~

 朝の空気も薄れてきた午前の半ば。 雲ひとつない快晴の空の下、踊るように風が街を駆け抜けていく。 穏やかな日に人々は街角で語らい、子供たちは歓声をあげて路地裏へと飛び込んでいく。古くから魔除けとしていくつも置かれている木箱の上で、白い猫があ…

二人の過去~十年前~

 どれをつけても、怪しいことこの上もない。 じーっと手にした帽子、スカーフ、そして仮面を見下ろしながらヒースはそう思った。 このカレイラ王国の首都ローアンにおいて、十年に一度開催される武闘大会。その申し込みはすでに済ませた。 あとは、本来な…

あなたを支える

 ローアンの街から南に下れば、大鮫の顎と呼ばれる崖に出る。 そこから見晴るかす景色は美しい。陽の光にうねる波が煌く海原、白い雲が浮かび流れる空。どちらも鮮やかな青さで世界を包み込んでいる。「おー、いい風だな」「ほんと、気持ちいいね」 ひゅう…

君が心に住んだ瞬間

 ――空にかかった薄雲は、太陽の光を弱弱しいものに変えている。そのせいで、室内はほのかに暗い。だが、弱った人間にはちょうどいい。そんな部屋の片隅にしつらえられたベッドの上、息荒く眠る少女を見下ろし、ヒースは小さく息をついた。 肉体的にも精神…