HEATH&TIA

摘まれても—–14

「ずるいと思うんだが、君はどう思う」「何がですか?」 突然の言葉に、ティアは面食らう。意味がわからない。 テーブルの上に肘をつき、組み合わせた大きな手で口元を隠し、瞳をわずかに伏せたまま、思い悩むようなヒースに首を傾げつつ、ティアは手を動か…

摘まれても—–13

 いなくなろう。この街から、でていこう。 ティアは、混乱した頭でそう思う。 だって、次に会ったらきっと言ってしまう。想いのすべて吐露してしまう。そして、夜に眩く輝く月をねだる子供のように、自分は泣くだろう。 受け入れられないと言っていた相手…

摘まれても—–12

 は、と息をついてあたりを見回す。 ティアが駆け出したときに落とした紙袋からは、日用雑貨が転がり落ちている。 ヒースが渡した菓子入りの紙袋は、口を閉じていたおかげで散らばってはいないが、石畳の上に、寂しげによこたわっている。 ベンチからたち…

摘まれても—–11

 ティアは、ヒースのもとへ折を見ては訪れていた。いろいろなことがあって、泣くことがあっても、やはり会いたかったからだ。 ただ、なんとか記憶を取り戻してもらおうとしていた頃のような必死さは、もうない。 他愛のない日常のことを話し、そして帰る。…

摘まれても—–10

 足早に執務室として与えられた部屋へと戻ってきたヒースは、扉を開けて中に入ると、大きく肩で息をついた。 主のいなかった部屋の空気は、少し冷たい。だがそれが、今のヒースにはちょうどよかった。 曇りのない窓から差し込む光に目を細めながら、今度は…

摘まれても—–9

 綺麗な人。 ティアは、ヒースと並ぶ女性を見てそんなことを呆然と思った。 帝国の軍服に身を包んだ二人を、遠いところからみつめる。 ああ、並ぶ二人はなんて絵になるんだろう。 ヒースと談笑する女性は、女性らしい丸みを帯びた曲線が服の上からでもわ…

摘まれても—–8

 今日もまた、彼女を待つ。 一度は手ひどく拒んだというのに、それでも「会いたい」という健気な申し出を、これ以上すげなく断れるわけがなかった。 だが、明確な約束をしたわけではない。都合があわなければ、数日顔を合わせることもなかった。互いにやる…

摘まれても—–7

 一夜明けて、鏡を覗きこんだティアは、己の顔をみて力なく笑った。「ひどい顔……」 泣きすぎて目は真っ赤。瞼も晴れているし、喉もからからだ。 そっと、鏡に額をあわせる。髪越しにその冷たさ伝わってくる。 このままでいてもヒースが思い出さないこと…

摘まれても—–6

 ぼり、とヒースは頭を掻いた。小柄な少女は風をつれて、目の前から走り去っていった。涙に塗れた悲しそうな顔と。ヒースの胸に、もやもやとした想いの火種を残して。 まずいと、やってしまったと、さすがのヒースも思う。ヴァルドにも、優しくするようにと…

摘まれても—–5

「えいっ」「おっと」 ひゅ、とティアは拳を一閃させる。プラーナをまとった拳とその身のこなしに、挑みかかられたヒースがひどく驚いた顔をする。「……本当に、徒手流派が使えるとはな」 しみじみと呟かれ、ティアは頬を膨らませた。「だから、ヒースさん…

摘まれても—–4

 清潔な寝具で整えられている寝台から起き上がろうとしたヒースを制し、部屋を訪れたヴァルドは、これまであったことのすべてを話してくれた。伝説の魔王や、預言書の話など、にわかには信じがたいことばかりだったが、ヴァルドが嘘をつくわけもない。ヒース…