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回り迷って一本道

 ああ、神様。 ほんとうにこの世界に、全知全能のあなたがいるのなら。 ――かっちゃん、あのね、 ――あ? ――僕、君のことが、 あの日あの時あの場所で、己の心を告げた僕を、どうか、殺してください。  「うわぁ……」 思わ…

はなしたくない

「ありがとうございました! 失礼します!」 雄英高校一年A組生徒の一人――緑谷出久は、直角に腰を曲げる最敬礼をとる。 それに対して、にこり、と微笑んでくれたのは、長身痩躯の男だ。「うん、気をつけて帰るんだよ、緑谷少年」「はい!」 出久は、手…

夕焼けいろの抱擁

 没頭していた本を読み終え、ふと顔をあげればリビングは燃え立つような赤色に包まれていた。 いつの間にそんなに時間が経っていたのかと、少々焦る。念のため端末を確認するが、緊急連絡の形跡はなかった。ほっと、息を吐く。 ひとまず落ち着いたところで…

白い世界で寄り添いあって

 真っ白だ。 一日のはじまりを告げる太陽の光をあびて、世界がきらきらと宝石をちりばめたように輝いている。 ゆっくりとあげた視線の先にある空は、いつもの青さはなりを潜め、淡くけぶっている。 家をとりかこむ落葉樹のあいまには、冬でも青い葉をみせ…

寂しい季節の終わりは楽しい季節のはじまり

 つついたらきっと怒るだろうな。 ぼんやりとそんなことを考えながら、ヒースは手持ち無沙汰な手を軽く握った。 テーブルの向こう側には、いかにも「怒っています!」といわんばかりのむくれた表情をしている少女が一人。ヒースは、知られぬように、こっそ…

ふたりの距離はひらかない

『ヒースちゃん!』『ティアちゃん!』 名を呼び合って手を繋ぎ、どこにでもいった。なんでもした。ふたりはいつも、一緒だった。 ジャングルジムの一番上で、流れる雲の形をなにかにたとえて遊んでいた。意味もわからず、「けっこんしようね」と、ことある…