ねことさかな
本日も晴天なり、晴天なり。 そんなことを思いながら、ティアは歴史の連なりを色濃く残すローアンの街並みを横目に、石畳を軽やかに歩いていく。 青い空には白い雲。西に傾いた太陽からは、気持ちのよい光が降り注ぐ。時折吹く風はすでに夏の匂いをはらみ…
あなたのことなら
赤々と燃える暖炉の火から発せられる、柔らかな温度に満たされた小さな家。 そこに軽やかに響くのは、愛しい少女のささやかな歌声。 ふわりと漂う、彼女の好きな紅茶の香り。飲み物にこれといって思い入れはないが、いつのまにか自分も柑橘系のこの匂いを…
崩れる砦
「今日はいいお天気だねぇ~」「そうだな」 晴れた日の暖かな陽光の下、ぽかぽかと陽だまりで寄り添う猫のように、レクスはティアと一緒に釣り糸をたらしていた。 川面から時折吹く風は少し冷たいが、それは前髪を僅かに揺らす程度で、さほど気にはならない…
君への愛の伝え方
「ティア、結婚しないか」 少しだけ震えた声で紡がれたプロポーズの言葉は、風に攫われて、あっという間に空へと消えた。「……はぁ」 頬を染めたまましばし固まっていたレクスは、ゆっくりと息をついた。がしがしと頭を乱暴にかき回す。その仕草には、レク…
黒猫の幸運
「ティアのやつ、どこいったんだ……」 ぶつぶつと呟きつつ、レクスはローアンの街入り口から、西方面――すなわち、自宅のある占い横丁へと歩いていた。 手にはひとつの紙袋。中には、ティアが好きだといっていたパンがはいっている。この前「久しぶりに食…