情熱と輝く未来

 冒険の旅から帰り、預言書の問いかけにコードをいれて、次の世界を垣間見る。
 それはクレルヴォとの戦い以降、すでに幾度か繰り返したことだった。その度ごとに、出来上がった世界にティアは一喜一憂していたりするのだが、それは置いておいて。
 今日も新世界を垣間見た陽だまりの丘からローアンの街へと戻る道すがら、世界への感想や、どの質問に何のコード入れるのかいいのか、などなど他愛ないおしゃべりをしながら歩いていたティアは、ふと足を止めた。
 いきなり立ち止まったティアに対して、ほんの少し先に進んでしまったレンポが振り返る。
「どーしたんだ、ティア」
「ほら。あれ」
 ほっそりとした指が差す先には、赤い花が鮮やかに咲いていた。草原を駆け抜ける風に吹かれて、気持ちよさそうに揺れている。
「レンポに出会ってすぐ、私が初めてコードスキャンしたの、あの花だったよね」
 ティアはその時のことを懐かしむように思い出しながら、目を細めた。
「ああ、そうだったな」
 ててて、と小走りに花に駆け寄っていくティアの後を追いながら、レンポは頷いた。
 傍らにしゃがみこみ、そっとその花弁に触れながらティアは呟く。
「カエンバナ……カムイさんに教えてもらった花言葉は、たしか――」
「情熱、だろ」
「うん、そう!」
 続くようにそういったレンポを見上げて、ティアは言う。
「レンポにぴったりだよね」
 細い火花が踊るような、花弁。大地から燃え上がる火のような、その姿。彼の気性を如実にあらわすその言葉。これ以上、レンポに相応しい花もないだろう。
 だが、この花が似合うといわれたレンポはよくわからないように、僅かに首をかしげた。
「そうか? まあ、火の属性もちの花だし、その言葉も嫌いじゃねえけどな」
 同じように腕を組んでしゃがみこみ、一緒に花を覗き込んでいるレンポをみて、ティアはふと思う。
 一番最初に出会ったのが炎の精霊。一番最初に預言書に記したのがカエンバナ。もしかしたら、自分はよくよく火というものに縁があるのかもしれない。
 そんな考えに、ティアの顔が勝手に綻ぶ。
 そうだったら、なんて幸運だろう。炎を司る精霊と出会うべくして出会い、惹かれるべくして惹かれあい、そうして恋人になれたなんて運命的だ。
 夢見る乙女とはいかないが、ティアも女の子だ。そんなロマンチックな状況に憧れないわけがない。ちらり、とレンポを見る。
 私の運命のひと。
 そんなありきたりだけれど胸に響く言葉が、浮かんで消えた。
 照れたようにはにかんだティアが、そっと胸を押さえる。
「なんだか嬉しいな」
「なにがだ?」
「レンポと私ってもしかたら相性いいのかなぁって」
「???」
 話が見えないのか、レンポが困ったように眉を潜めた。いくら精霊だからといって、心の内まで読めるわけもない。疑問符を浮かべまくったその顔に、説明しようと口を開きかけたティアよりはやく、レンポが言う。
「もしかしたら、じゃなくてよ。オレたち抜群に相性いいだろ?」
「!」
 なにいってんだ、といわんばかりのレンポの言葉に、わずかな沈黙のあと、ティアの頬が熱を持った。レンポはさも当たり前のことをいっただけ、といった様子で照れたそぶりはない。つまり、本気で心からそう思っているのだろう。
 なんとなくいっただけの言葉に、そう返されるとは思わなかった。ふいうちに、一瞬ティアの思考が白んだ。
「……う、うん。そう、そうだよね!」
「おう!」
 じっくりと意味を噛み締めたティアは、なんだかものすごく恥ずかしくなってきて、慌てて立ち上がる。そんなティアを見上げて、レンポが笑う。
 そして、立ち上がったレンポは顎に手を当て、まじまじとティアの瞳を覗き込んだ。
「オレにこの花が似合うってんなら、ティアはそうだなー……これか」
 ひゅ、とレンポの指先が閃く。手首がくるりと返されると、まるで奇術師の手品のように、その指先には一輪の花が現われていた。
 預言書から取り出したらしいその花が、青空の下に晒される。くるりと渦を巻いて、小さな花弁を九つ開かせた珍しい花。百年に一度しか咲かないといわれている、この花は確か。
「コンジキソウ?」
「ああ、意味は――」

輝く未来

「オレは、これがティアにぴったりだと思うぜ!」
 そういって満面の笑顔で、レンポはティアへと花をずいと差し出した。そっと受け取って、ティアは太陽のように朗らかに笑うレンポをみつめた。
「新しい世界の未来を作るのはお前だし、オレに幸せな未来を約束してくれたのもお前だからな! ティアを表すのにこれ以上の花はねぇよ!」
 ティアは、恋人としてレンポとずっと一緒にいると約束したことを思い出す。
 告白されたとき、どこまでも続く未来を、目の前の精霊と共に過ごしたいとティアは願った。二人の幸せな未来をどこまでも夢見た。だから応えた。
 そうしたことすべてを踏まえて、自分のためにこの花を選んでくれたのだろう恋人に、ティアはなんだか泣きたくなった。
 レンポの想いだけじゃない、自分の想いも汲み取ってくれたのだと思うから。
「レンポ――ありがとう」
 ティアはそっと、花に触れた。甘く優しい香りがそっと広がっていく。包み込むようなその香気とともに、ティアは嬉しい心そのままに笑った。
「へへっ」
 そんなティアの笑顔につられたのか、レンポも笑う。
「ティアが何を考えたかはよくわかんねーけどよ、やっぱオレたちって相性最高だろ?」
「うん、私もそう思う!」
 伸ばされる手に、ためらいなく手を伸ばす。
 そして互いに、きゅっと相手の指先を握り締める。恋しい人に握り返されるという幸福に笑いあった二人は、そっと顔を近づける。
 幾度交わしても、ティアの心躍らせる口付けは温かい。
 触れた唇の熱をしっかりと覚えて、ティアが目を開くとレンポがもう片方の手を振り上げた。
「さ、帰ろうぜ! また明日から価値あるものを探しにいこうな! そんでもっていい世界をつくろうぜ!」
「うん。未来のために、ね!」
 手を繋いだまま、二人はグラナ平原を歩き出す。ぐいぐいとティアをひっぱって笑うレンポに、ティアは満面の笑みを返す。

 私にとっての情熱のひと、運命のひと。
 私に輝く未来を見出してくれたひと。
 そんな大切なひとと目指すのは、落ち着く我が家。
 今日は二人で、ゆっくりと休もう。
 そうして明日から、また冒険の旅に出かけよう。

 次の世界を、価値あるもので満ちた――輝かしいものとするために。