「うわぁ! うわあぁぁぁあ!」
「あらあらあら~」
小さなお化けと天使が、歓声をあげながら、ちょこまかと動いている。
「お、おーい……ちょっと、二人とも落ち着いてよ~」
家や店のこの日だけの飾りつけを眺めたり、仮装した町のひとたちに近づき、脅かされては悲鳴をあげたりと忙しいケケとメロウに、ノーラは苦笑いした。
「だって楽しいじゃないか! なあ、ノーラ、家にいくとお菓子貰えるんだろ?! はやくいこう!」
ぶんぶんと、籐で編んだカゴを振り回すケケは、シーツに前がみえるよう穴をあけただけのお化け姿。
最初は、ジャックオーランタンを模した凝ったものにしようかと思ったのだが、あまりにも熱を入れすぎて作りすぎたせいか、ティック族の怖がりさを刺激してしまったので、こうなった。なにせ、鏡の中の自分にびっくりするという、世にも珍しい姿をみせられたのだ。致し方ない。
気の小さいケケは他人の仮装に飛び上がるときもあるようだが、恐怖とお菓子を天秤にかけたとき、後者のほうが重いらしく、いまのところ元気いっぱいである。
お菓子でカゴをいっぱいにするという目標を達成するため、ケケは頑張っている。
「うふふ、ハロウィンって楽しいのね~。お菓子、たくさんもらえるかしら~」
一方、その隣でにこにこと笑っているのは、白いワンピースに手作りの天使の羽と輪をつけたメロウである。もともと清楚で物静かなメロウの神秘的な雰囲気が、さらに際立っている。
ただ、やっていることはケケと同じであり、やたらと親しみやすい天使である。
「いやあのね、お菓子を貰えるのは子供だけでって……きいてないし!」
きゃっきゃ、と、はしゃぎながらエスポウの店へとはいっていくケケとメロウのあとを、ノーラは慌てて追いかけた。
ちなみにノーラの格好といえば、ケケのためにつくったものを流用しているので、カボチャのお化けである。
ケケ用に作っていたかぶりものをロッタに教わりながら帽子にして、すそにふわふわとした毛皮があしらわれた黒のポンチョを身につけている。手には小さなカボチャをくりぬいて作ったランタン。
その灯を消さないように気をつけつつ、カボチャの帽子が落ちないよう片手でおさえながら、可愛らしく今日のイベントにふさわしい飾りつけがされた扉をくぐる。
と。
「「「「「トリックオアトリート!」」」」」
悪戯か、お菓子をねだる声が、重なりあいながら店内に響いた。
複数人の声に、ぱちぱちとノーラは目を瞬かせる。てっきりケケとメロウしかいないと思っていたのに。
どうやら先客がいたようだ。
みれば、赤毛の中から三角形の小さな耳を生やした青年と可愛らしい仮装をした女の子二人の後姿がみえる。そこにすっかり混じって馴染んだ、ケケとメロウがエスポウに手を出している。
「はい、ハッピーハロウィン。よくきたね。さ、クッキーをどうぞ」
「わぁい!」
「まあ、可愛いわね~」
穏やかな風貌のエスポウから、リボンで飾られた小さな包みを受け取ったケケとメロウがはしゃく。
「エルシーとアイラちゃんもね」
「ありがとう! パパ!」
「ありがとう、おじさん!」
続いて女の子二人組み――いつも仲がよいエルシーとアイラが喜色満面でお菓子を受け取る。
あれ? お菓子って家族からもらうものじゃないよね? とノーラが頭を捻っていると、ぶーぶーと赤毛の青年ことルッツが抗議しはじめた。
「なあなあ! オレは?!」
「はいはい。特別にね」
にっこりと笑ったエスポウが、年齢的に考えてもお菓子をもらうべきでないルッツにまでクッキーを手渡す。ルッツの必死さがそうさせたというより、彼の子供っぽく闊達なところをエスポウが好んでいる、というところだろう。
「やったぜ!」
ガッツポーズまでして喜ぶところなの? そこ。
ノーラは思わず突っ込みをいれたくなったが、せっかくのお祭り気分に水をさすのもあれである。
「なにやってんの?」
仕方ないので、彼らに近づきつつ、遠まわしにルッツの行いを省みさせようと試みる。
「おう! ノーラ!」
だが、そもそもノーラにいわれたくらいで恥ずかしいとか思うくらいならば、こうしてお菓子をねだることなんてないわけで。
きらきらと眩しいくらいの笑顔で振り返ったルッツは、いまの自分を誇るように両手を広げた。
「どうだ! 格好いいだろー!」
「……」
自慢するようなその言葉どおり、ルッツの仮装はなかなかよくできていた。頭の耳といい、腰あたりから垂れ差がっている尻尾といい。ちょっとくたびれたいつもの服といい。すべてが妙に似合っている。動くたびに揺れる尾や耳は、ふわふわとした毛に覆われていて、本物みたいだ。
「それ、狼男?」
「おう!」
闇に生きるという獣人を模しているわりには、やたらと元気いっぱいで、月よりも太陽の下がよく似合いそうな狼男である。
「おねえちゃん、こんばんは!」
「こんばんは!」
ルッツと話しているノーラに気づいたらしく、エルシーとアイラが近寄ってくる。
「こんばんは! 二人ともすっごくかわいいね!」
えへへ、とはにかみながら顔を見合わせる二人は、ほんとうに可愛い。ふんわりとした淡いピンクのドレスを身に纏ったエルシーの背には妖精の羽。一方のアイラは、対照的な漆黒のドレスで先端に銀の星をあしらった三角帽子をかぶっている。
「エルシーは妖精で、アイラちゃんは魔女かな?」
「うん、ママがね、今日のためにつくってくれたんだ!」
「おじいちゃんが用意してくれたの。こういうのがいいな、って伝えたら複雑そうだったけど」
「あはは……」
エルシーの言葉に和んでいたものの、アイラの話を聞いたノーラは笑顔を若干引き攣らせた。
町長の魔女嫌いがなおったとはいえ、多少複雑だったろう。だが、愛する可愛い孫のお願いならば、いたしかたなし、といったところか。
ノーラは、町長にちょっぴり同情した。
「よーし、次だー!」
「「「「おー!」」」」
きゃーっとケケが小躍りしながら歩き出す。それにメロウが続き、エルシーとアイラもついていく。もちろんルッツも。
いつのまにやら一緒に行動することになっていたようだ。みんな仲いいなあ、と微笑ましく顔を緩ませるノーラの手が、そっと握られた。
あれ? と驚いて顔をそちらへと向ける。
「はい。ノーラにも」
「え?!」
上向かせられた手のひらに、ぽん、とお菓子の入った包みが乗る。驚いてみあげれば、柔和な笑みがそこにあった。
「いつもノーラにはお世話になってるからね。よかったらもらっておくれ」
「……エスポウさん」
じーん、と心温めながらノーラとエスポウが見詰め合っていると。
「きゃああああ!」
ケケの、絹を裂くような悲鳴が背後で響き渡った。
「な、なに?!」
エスポウに頭をさげたノーラは、慌てて店の入り口へとむかう。
尻餅をつくケケの前に、のっそりと背の高い人影が姿をあらわした。
「おー、なんだ、『とりっくおあとりーと』? っていうか菓子よりジャーキーくれ」
「……なにやってんの」
思わずルッツのときと同じような言葉を口にしたノーラを、誰も責めることはできないだろう。
そこには、長く黒いマントを羽織り、ご丁寧に牙までつけたユカがいた。間違いなく、吸血鬼の仮装だ。
だが、ノーラの勝手なイメージかもしれないが、吸血鬼とは闇の貴族というかなんというか……。こんなにも怠惰でやる気のないところなんて、絶対にみせないと思うわけで。
気品や上品さなんてかけらもみえないだらけた吸血鬼は、ノーラの言葉には答えず、へらへらと笑った。そうしてのぞく尖った牙に、ケケが「うわぁ!」とまた悲鳴をあげている。
「ノーラじゃねえか」
「なによその格好」
なんの仮装かわかりつつも、ノーラはとりあえず訊いてみる。
よくよく見れば着ているものは質がよい。足元まで垂れた漆黒のマントには穴もほつれもないし、白いドレスシャツにも皺なく染みなく、綺麗なものだ。
すらりとした長い足を、黒いズボンが包んでいる。こういっては癪だが、ちょっと格好いいと思う。似合っている。
「はっはー、あんまりにもいい男だから見惚れたか?」
「うぬぼれないの!」
心の中にだけ留めた評価を見透かしているのかいないのか、ユカは笑いながらノーラの頭に手をやって、ぐりぐりとなでてくる。
帽子をおさえながら抗議すれば、悪い悪いと、ちっとも誠意のこもっていない謝罪をされた。
「ユカさん、吸血鬼? 似合うね!」
「うん、かっこういいよ!」
「そうだろそうだろ!」
エルシーとアイラにおだてられたユカが、子供のように笑う。にやにやとしたまま、ノーラの顔を覗きこんでくる。
「ほれほれ、正直に感想いえって」
むうう、とノーラは眉をひそめて唇を尖らせた。
悔しいからいってやんない!
つん、と顎をあげてそっぽを向いたノーラは、そんな思いを抱えながら口を開いた。
「そうだね。日光が苦手で、お昼に動こうとしないあたり、働かないユカにそっくりかも」
「そこかよ!?」
うんうんと、自分の感想はなかなか的を得ていると、わざとらく頷いてやれば、ルッツが弾けたように笑い出した。
「はははっ、ちがいねえや!」
「おめーは黙ってろ!」
「いでででっ?!」
腹を抱えて笑うルッツの首へと、長いユカの腕がするりと絡まり、ぎりぎりと締め上げる。やめろおぉぉ! と、ルッツの苦しげな声が響く。
のおおお、と叫びながら腕をたたくルッツをよそに、そうだ、とユカが顔をあげてエスポウを見遣った。
「で、エスポウの旦那。なんかくれよ」
はあ、と一連のやりとりとみていたエスポウが、緩やかに首を振った。
「悪いが大人にあげるお菓子はないよ。もちろん、うちにジャーキーもないからね。さ、次のお家にいくんだろう? 気をつけていってくるんだよ」
ユカに向けていた表情を一変させ、にこにこと笑ったエスポウの気遣いに、エルシーやアイラが「はーい」といい子のお返事をする。
これ以上はどうしようもないと悟ったのか、ユカが舌打ちしながらルッツを離した。
「ちっ、ケチくせえなあ」
てめええ! と、突っかかってくるルッツをうまいことあしらいながら、ユカがノーラに近寄ってくる。
「ほんとにもう、なにしにきたのよ……」
あまりの大人げなさに怒る気も失せた。
ノーラは、うずくまったままのケケに手を伸ばして、立たせてやる。その間に、エルシーとアイラは歩き出していた。
「ほら、ケケ。そろそろ大丈夫でしょ? お菓子はいいの? エルシーとアイラちゃん、いっちゃうよ」
「そうだ! お菓子!」
がばり、と起き上がったケケが被ったシーツが盛大にズレているのをなおしてやる。
「じゃあ、私たちもいきましょ~」
「お、そうだった! こいつにかまってる暇はねえ!」
おっとりにこにこと、みんなのやりとりと見ていたメロウと、本来の目的を思い出したルッツが少女たちのあとを追う。
ノーラもまた、のんびりと一歩踏み出した。その横に、ユカが並ぶ。
ちらり、と見上げたユカは、その髪の色などもあいまって、ほんとうに闇が青年の姿をとったかのように、今宵の世界にしっくりと馴染んでいる。
「どこで借りたのそれ」
「これか? キトおぼっちゃんからの仕事があったときにな、貰った」
てっきり、どこかのだれかに無理をいって借りてきたのだとばかり思っていたが、ユカの私物らしい。
「へえ? めずらしいね」
「古いが、綺麗にしまってあったらしくてな。まあ、たまにはいいかと思ってよ」
「ふふっ、ユカがこういうイベントに参加するなんて思わなかったよ」
くすくすと笑いながら、ほんとうに意外だったと言外に伝えれば、ユカは少しだけ照れたように首筋に手を当てた。
「ノーラも、なかなかさまになってるじゃねーか」
「ほんと? ロッタさんと一緒に作ったから、嬉しいな」
それなりに苦労して作ったものを褒められれば悪い気はしない。ユカを見上げて笑えば、にやりとした笑みを返された。
「ずんぐりむっくりなところがカボチャらしいぜ」
「……」
一瞬言われた意味がよくわからず、ノーラは黙り込む。
「なによそれー! あたしの背が小さいっていってるの?!」
「そうはいってもなあ、ほれ、こうしてちょうどいい位置に頭が……」
ぬ、と伸びてきたユカの手が、上から押さえつけるようにノーラの頭をつかみ、撫でているのか揺さぶっているのかわからぬ乱暴さで動く。
「もー! やだやだ、やめてよ!」
「はははっ」
手を振り払い、涙目で見上げればやたらと楽しそうにユカが顔を綻ばせていた。
「もう、ユカなんか知らないんだから!」
「おいおい、そう怒るなって。おいてくなよー」
ぷりぷりと肩をいからせて足早になるノーラに対し、ユカは長い脚で悠々と追いついてくる。
まったくもって、悔しい!
「ついてくるなー!」
「やだね」
ぎゃあぎゃあとユカとやりあううちに、ノーラたちの前を歩く集団は、とある建物の前で止まった。
ついた場所は、診療所だ。シルカに訪れることを連絡をしているのだろう。
診療所の入口前で半円をくみ、『トリックオアトリート』を、さきほどと同じように叫ぶ皆を、ノーラは足を止めて後ろから眺める。
ギギギ……と、音をたてながらゆっくりと、診療所の扉が開かれる。
暗い室内の闇をかき分けるように、そこからのっそりと出てきたシルカのゾンビの仮装に、ケケがまた悲鳴をあげた。
その様子がおかしくて、くすくすと笑っているとユカが顎をしゃくって彼らを示した。
「ノーラはいかねえのか」
「うん。これをもらえただけで十分かなーって。それにこれ以上もらっちゃったら、お菓子もらえないどこかの吸血鬼さんが可哀相じゃない?」
そういって、エスポウからの包みを眺めつつ、その横顔へとわざとらしいほどのにっこりとした笑顔をむけてやる。
「へえへえ、オレ様は大人なもんでね。……ま、ほんとうに欲しいものは別にあるしな」
「へ?」
気のない返事をしたユカが、小声で妙なことをいうものだから、ノーラは大きな瞳を瞬かせる。
この夜にお菓子以上に欲しがるものなんて、なにがあるだろう?
疑問符を頭の上に浮かべながら悩むノーラに向かって、ユカがゆっくりと背をかがめた。
どうしたのかと問いかけるため、その瞳と視線をあわせれば、やたらと熱っぽい。
その静かな黒に、勝手に鼓動がはやくなる。まずいと思うのに目が逸らせない。
ほんの一瞬で心をさらっていくユカは、なにかそういう魔法でも使えるんじゃないだろうか。そんなことはないってわかっている。いつもならこんなこと思いつきすらしないのに。それもこれも、ハロウィンという今日がもつ、魔力のせいかもしれなかった。
「なあ、ノーラ」
「な、なによ?」
どこかに浮き上がりそうになる意識を逃がさないように気を付けながら、ノーラは身構える。じりっと靴底が大地と擦れて音をたてた。
もう少しだけ顔を近づけたユカの唇が、ゆっくりと動く。
「Trick or Treat?」
するり、いつの間にか忍び寄っていたユカの大きな手が、ノーラの細い腰を攫う。
エスポウへとやる気なく告げていたときとは違う、甘さを含んだはっきりとした声を紡いだ薄い唇が、三日月のような弧を描く。
「悪戯かお菓子か――好きなほうを選びな」
「!?!」
急に近くなった距離と、神経をくすぐるような声に、ノーラは大きく身体を震わせる。
「もちろん、もらったものは却下な」
「なっ……?! ず、ずるい!」
先手をうつように、にかっと笑いながらそんなことをいうユカを、ノーラは顔を赤らめながら睨み付ける。
工房にいれば、いくらでもお菓子ぐらいあげられる。ジャーキーだって思うままだ。
だけど、今は外。ノーラの手の中には、エスポウからもらったクッキーの包みしかない。
「なにいってんだ。おまえの戦利品を横取りしねえっていってんだろ。オレ様やさしー」
「……」
たしかに、よこせといわれても、エスポウの真心を奪われたくはない。その点はありがたい。けれども、そうなると選べるのはひとつだけだ。
っていうか、絶対わかっててやってるー!
計算高いのか、子供のような屁理屈をこねているのか、なんだかもうわからないが、どう考えてもユカのペースにはまっている。してやられている。
うぐぐ、と小さく唸ったあと、ノーラは唇を尖らせた。
「だったら、あげられるようなもの、ないよ……」
観念した言葉をきいた瞬間、ユカが子供のように笑った。
「じゃあ、悪戯だな。はい決定」
「ひゃっ?!」
ぼふっとマントの中へと引きずりこまれ、診療所のほうへとユカが背を向ければ、いとも容易く周囲から隔離された。
なにも、わからなくなる。ただ見えるのは、小さなカボチャランタンの灯りに浮かぶユカだけ。
しー、と背をかがめてノーラを抱き込むユカが、楽しそうに唇に人差し指をあてて笑う。
その様子が、妙に似合っていて、ほんとうに吸血鬼に攫われたような気分になる。
回りに皆がいるのに……!
そう思うのに、どきどきするのがとめられない。ケケやメロウ、ルッツだって、エルシーもアイラもいるとわかっているのに、気持ちが高揚してくる。流されてもいいかなって、頭の片隅で思ってしまう。
近づいてくるユカに向かって、ノーラは震える唇を動かした。
「とりっく……おあ、とりーと」
たどたどしいノーラの言葉に、ユカがぴたりと動きを止めた。
「……あ?」
いままさに、ノーラの唇を奪おうとしていたユカが、なにをといわんばかりに眉をひそめる。
「お菓子くれなきゃ、悪戯、するよ……?」
そんなもの持ってないことを知っていて、ノーラもまた同じようにユカにしかけてやる。自分ばっかりこんな思いをするのはずるすぎる。
ささやかなノーラの抵抗に対し一拍の後、に、とユカが笑う。
「大歓迎」
そう、あっさりといってのけたユカが、もう待たないといわんばかりに口づけてくる。お菓子とランタンを持っているために抗えず、縋ることもできないノーラは、ただなされるがままだ。
お菓子を味わうようにさんざんにノーラに口づけたユカが離れていく。ぎゅう、と閉じていた瞳を開けば、ユカが濡れた唇をなめているところが見えた。
ごちそうさま、といわんばかりのその仕草に、ノーラの顔がさらに熱をもつ。
その表情に満足したように、ユカが妖しく笑う。それはまさに、人の命をすする美しい吸血鬼そのものだった。
不本意ながら見惚れていると、一瞬の後に、いつもどおりの人をくったような顔をしたユカがいう。
「で、ノーラはどうしてくれんだ?」
むう、とノーラは眉をひそめる。
「……かがんで?」
囁けば、ユカが顔を近づけてくれる。
そうして、ノーラはユカの頬に唇をのせた。ちゅ、と音をたて互いの体温もわからないくらいのはやさで離れる。
「……はっ、かわいい悪戯だな」
耳まで真っ赤にしながら睨み付ければ、ユカがとろけるように、くすぐったそうに笑ってくれた。
その言葉にされない幸せを感じさせてくれる表情に、ノーラもつられるように笑った。
ケケやメロウの歓声が、ユカが作った闇の向こうで響いている。
でも、もう少しだけ、ふたりだけのハロウィンの時間を過ごしても、いいよね?。
ノーラは、こつん、とユカの胸に額をあてた。