モンハン4パロ ~ 筆頭オトモのとある休日 ~

Caution!!
アイルーなティアはゲーム内のような猫姿でもよし、猫耳尻尾のはえた人間姿でもよし、どちらかお好きなほうで想像しつつ、お楽しみください。ゲーム本編ではどうも男の子のようですが、そこはほら、脳内妄想なのでひとつよろしくお願いします。

 

 

「旦那さん旦那さん~」
「ご主人ー」
 にゃーにゃーと、マイハウスの中に、アイルーたちの鳴き声が愛らしく響く。
「ん、ああ、わかったわかった。ちょっと待て」
 狩猟の途中でスカウトしてきたオトモたちにじゃれつかれているのは、一目見て鍛えられているのがわかる体躯の男だ。
 装備品やアイテム各種を確認・整理していたのだろう彼は、しばしその作業を中断すると、大きな手でオトモたちの頭をやや乱暴に撫でていく。
 主人である彼――ゴア・マガラの討伐にはじまり、シャガルマガラや数々のクエストに挑戦し、最終的にはバルバレで一躍その名を轟かせたハンターであるヒースに、オトモたちはよく懐いている。みてのとおりだ。
 一流のハンターの供をつとめるのが、オトモアイルーとしての自慢であり誇りであるのだから、当然だ。ヒースは、まちがいなく一流といわれるハンターだった。
 そんな敬愛する主人に、荒々しくはあっても撫でてもらえるのが嬉しいらしく、オトモたちは気持ちよさそうに目を細めている。
「……」
 つい最近、主人であるヒースから与えられた神ネコ剣ピカゴロを磨きながら、筆頭オトモであるティアはその光景を横目でみつつ、小さな溜息をついた。
 主人がみんなに好かれているという事実、それは喜ばしいことだと思う。
 だけれど、ヒースがバルバレにきたばかりのころ――この『我らの団』のハンターとして入団してきたころは、ヒースとティアだけでクエストに挑んでいた。
 大変だったけれど、回数を重ねるにつれて息ぴったりに動けるようになっていって、とても楽しく充実した日々だった。そのときのことが、このごろやけに懐かしい。
 筆頭オトモとして、すこしずつ増えていったオトモたちの面倒をみるのだって、もちろん楽しい。彼らをひきいて、主人であるヒースの役にたつことは、これもまた喜びのひとつ。
 だけど。
「よし、終わったぞ――っと、」
 アイテムボックスの蓋をしめたヒースが振り返った瞬間、飛びついていくオトモたち。にゃーにゃーと、各自好き勝手にヒースに擦り寄っている。
 よーしよしよしと、彼らを抱きしめ、頭を撫でてやったり、耳の後ろを掻いてやるヒースは、手馴れている。
 サブオトモとしてレギュラーメンバーに指定されている五匹全員を可愛がっているのだから、すごいものだ。ぽかぽか島でバカンス中のほかのオトモたちだって、この場にいたらおなじことをしにいって、おなじように可愛がられるのだろうけど。

 ああ、自分だって――そうしたいのに。そうして、もらいたいのに。

「!」
 思わず本音をこぼしかけたティアは、ぶんぶんと頭を振った。
 筆頭オトモが、こんなふうに羨んではいけない。ヒースのハンターとしての活躍を支え続けるためにも、ほかのオトモたちの手本にならなければいけないのだから。
 でも、胸のもやもやとした感情は、なかなかおさまってくれない。
 剣を磨くことに集中しようと目つき険しく、手元に視線を落とすティアの視界が、ふいに翳った。
 反射的に見上げれば、採集用にあつらえた装備に身を包んだヒースがたっている。いつの間に、と思ったが、さきほどボックスをいじっていたのは、この防具を探していたのかもしれないと思った。
 ヒースが、ティアと同じ目の高さまで屈んで笑う。
「ティア、ひとつクエストにつきあってくれ」
 ぴん、とティアの耳が反射的に立つ。
「わ、わかりましたニャ!」
 主人のいくところ、どんなところにでも供するのが、オトモとしての勤めである。
 ティアは誘いに応じるため、飛び上がるようにして椅子がわりに座っていた樽から降りると、大慌てで準備をはじめる。
 とはいっても、オトモの準備は多少のアイテムに武器防具を揃えればそれで終わりだ。
 用意できましたと伝えようとふりかえれば、ヒースはレギュラーとなっている五匹のオトモたちに、それぞれ休暇や特訓の指示をだしていた。
 ティアは、首をひねってヒースに近づく。
「旦那さん、ほかのオトモはつれていかないニャ?」
「ああ、魚釣りにいくつもりだからな。それほど手はいらない」
「そうですかニャ」
 ふんふんとティアは頷く。鉱石や虫を集めにいくのなら、オトモを連れて行ったほうがいいだろうが、魚を求めていくのならオトモはそこまで必要ではない。釣りでお手伝いできることはあまりないのだ。せいぜいが、よってくる小型モンスターへの対応くらいだろうか。
「よし、いくか。留守を頼んだぞ」
 はい、という返事のかわりに、「ニャー」とオトモたちの鳴き声が響きわたる。そんなマイハウスをあとにして、ヒースとティアはクエストカウンターへと向かったのだった。

 

 

 そうしてティアが連れてこられた場所は、原生林だった。
 豊かな水に潤う大地は緑深い木々に覆われ、さまざまな生命に満ち溢れている。ひらひらと、水面を舞う無数の蝶が綺麗だ。ティアが、好きな青い蝶。
 いつでも休憩できるようにギルドが整えた寝床と、支給品のボックスと納品用のボックスが近くにみえた。しばらくすれば、あそこにオトモチケットが届くはずだ。
 このベースキャンプの奥からは、滝下のエリアに直接移動できる裏道がある。ズワロポスなどがいるエリアより、そこを通った方が釣り場に近い。原生林で魚釣りというくらいだから、そうしたほうがいいだろう。
「じゃあ、こっちからいきますかニャ? ……って、旦那さんなにしてるニャ」
 ルートを確認しようとしながら振り返ったティアは、目の前の光景に思わずそう呟いてしまった。
「ん、ああ」
 ぽいぽい、と乱雑に防具をとりはずしていくヒースに、ティアは首をかしげた。いくら採取クエストとはいえ、小型のモンスターはいる。防具を取りはずす意味があるように思えない。
 やがて身軽になったヒースは、ぐっと大きく伸びをした。そして、にや、と笑う。
「ちょっと休憩しようかと思ってな」
 あきれた。
 ティアは、やれやれと頭をふって、じっとりとヒースを睨んだ。真面目にクエストをこなすハンターかと思えば、たまにこうして子供っぽいことをしでかすのだ。ここは筆頭オトモとしてはっきりいわねばならない。
「まだクエストいってないですニャ。疲れてないはずですニャ」
「まあ、そういうな」
 眉を下げて笑うヒースには、まったくもって動く気配がない。ティアは、むう、と表情を険しくした。
「目的の魚はどうするんですかニャ!」
「餌を調合分もあわせてもってきているから、五分もあれば終わる」
 それならば、さっさと釣りをして、バルバレにもどればいいだけだ。
「……サボリだニャ。よくないニャ!」
 フーッと毛を逆立てるようにしながら声を荒げる。しかし、ヒースはそれにまったくひるむ様子もない。そして、それよりもといわんばかりに、たくましい両腕を左右に広げてみせた。
「ほら」
「ニャ?」
 その行動の意味と優しげな声のいいたところがよくわからず、ティアは目を瞬かせる。
「そうむくれるな。ここのところ、なかなか相手をしてやれなくてすまなかった」
「……!」
 どうやら、ヒースはティアの心情を見抜いていたらしい。かっと身体の血が一瞬で、沸騰した気がした。
 知られているとは思ってもみなかったことへの羞恥が、ティアの言葉の邪魔をする。ぷい、とティアは横を向く。
「べ、別に、むくれてなんか……! ない、ニャ……」
 しかし強気を気取った言葉は尻すぼみ。その力ない声に、ヒースが喉の奥を震わせるようにして笑う。困ったやつだといわんばかりの少しだけ呆れが含まれた、だけれど、とても穏やかな空気が滲む。
「そうか? オレの勘違いだったなら、それはそれでいいんだ。だが、さっき寂しそうな顔をしていたような気がしてな」
「……」
 やはり、ヒースにはなにもかもお見通しのようだ。
 妙な居た堪れなさとくすぐったさに、もじもじと手を動かしていたティアは、ちら、とヒースを見上げる。優しく見下ろしている青灰色の瞳に促されて、ティアはヒースに一歩近づく。
 観念したのは、気付いてくれたヒースの優しさが嬉しかったから。そんなヒースの傍にいきたかったから。
「……旦那さん、抱っこしてほしいニャ……」
 弱々しい本音を零せば、心がすうっと軽くなる。どうしてたったこれだけのことを、いえなかったのだろうかと思うくらい、それはするりとティアの口から溢れ出た。
「ああ、わかった。ほらこい」
「!」
 再びの許可を得られて、ぱっと表情を明るくしたティアは、小走りにヒースへと駆け寄る。すぐに長い腕が伸びてきて、ひょいと抱き上げてくれる。
 太く逞しい片腕に容易に支えられたティアの頬を、大きな手が包み込む。長い指先に耳の後ろを優しく掻いてもらうと、気持ちいい。
 うにゃうにゃと声をもらしながら、しばしその心地よさに目を細める。ああ、きもちがいい。こうしてほしかったのだと、つくづく思い知る。
「いつもありがとう。ティアのおかげで助かっている。君は素晴らしいオトモだ」
 低い声がティアの耳の奥を震わせる。飾りのない賛辞に、胸の奥がぽかぽかと温かくなる。まるで春の日溜りがそこにできたような、そんな感覚にティアは笑う。
「やっぱり旦那さんは、アイルータラシなのニャ」
 人とともに生きることを喜びとし、人の役にたつことを生業と定めたオトモアイルーにとって、これ以上の言葉はない。
 ティアにとってはそれを踏まえての発言だったのだが、ひく、とヒースの頬がひきつった。
「……だれがいっていた?」
「団長さんニャ」
 まったくあの人は……、とヒースが苦々しく呟いているところをみると、彼にとってはあまりいい言葉ではなかったのかもしれない。
 でも、実際そのとおりだとティアは思うのだ。こうして労をねぎらい、優しくて温かな言葉を与えてくれる。オトオの喜ばせかたを、知っている。
 これでまた、自分はヒースを支えていこうと思える。明日もまた、これまで以上に頑張れる。
 まあいいが、とブツブツいっているヒースの肩に、ひらりと蝶が舞いおりる。
「蝶が綺麗ですニャ……」
「ん? そうだな……そういえば、君はこの蝶が好きだったな」
 触れようと伸ばした手の先で、蝶は淡い光を振りまきながら飛び立つ。ここをどうぞと譲ってくれたかのようだ。
 久しぶりのヒースの腕の中、ぴったりと逞しい身体にくっついて、ティアはヒースの肩に顎を乗せて喉を鳴らす。撫でてくれる手が、頭から背へと何度も何度も滑り落ちていく。
 うっとりと瞬きを繰り返していると、ヒースが動いた。
「よいしょ、と」
「ニャ……?」
 ころん、とベースキャンプのベッドに転がされたティアは、覆いかぶさるようにしながらティアの横へと身を横たえるヒースをみつめる。
「少し昼寝でもするとしよう」
「……寝すぎてクエスト失敗してもしらないニャ」
 そういいながらも、ティアはヒースにすり寄る。そんなことをいうティアも、ほんとうは眠かったりする。
「なに、たまにはいいだろう」
「……うにゃ……しょうがないニャ……」
 頭をなでてくれる手が、気持ちいい。
 ティアはヒースの腕の中で、そうっとのびをする。そして、ぺろ、とヒースの唇をひとなめした。思わぬ行動だったのか、目を丸くしている様子が面白くて、ティアはついつい笑う。そして、不思議な充足感を抱きながら、ヒースの懐で丸くなる。
 一瞬とまっていたヒースの手が、またティアに触れてくる。その心地よさが、眠気を呼ぶ。
 たまにはこういう時間が、筆頭オトモにあってもいい。きっと許されると思いたい。
 ほかのオトモたちをつれてこなかったヒースの思いやりに感謝しながら、ティアはふるりと睫毛を揺らし、瞳を閉じた。

 

 

 結果、寝過ごしてクエストは失敗したけれど――大好きなご主人様に甘やかされて、とある筆頭オトモの気持ちは晴れやかだったという。