彼が笑っている。
『アンワール、戻ってきたの?』
久しぶりに見た大切な人の姿に、幸福感がティアの胸にこみ上げる。
最初にであったときには、冷たく凍っていた瞳を優しく細めて、アンワールは何事か言っている。
『なあに、よく、聞こえない』
そう問いかけつつ、ぼんやりとした思考のまま、しばらく前に一度砂漠へ戻るといってローアンをあとにした彼へと手を伸ばす。
ぱくぱくと動く口から零れるその声が聞こえるように、ティアは耳を澄ましながら、一歩一歩近づく。
そうして抱きついて、抱きとめられて。そーっと覗き込めばアンワールはくすぐったそうに笑ってくれた。
微笑みかえしたティアの耳に聞こえた彼の声は、
「だーれだ?」
どこか楽しげなからかうような響きで、やけにはっきりとすぐそばで聞こえた。
ティアは、ゆっくりと瞼を上下させる。
虚ろにさまよわせた視界は暗い。まだ夜なんだ、とティアは鈍い思考で判断する。
働かない頭であっても、ティアは自分に問いかけた人を決して間違えはしなかった。
「あんわーる……」
大好きな人のぬくもりに、ほにゃと頬を緩ませたティアの額へ、アンワールは嬉しそうに小さく笑ってそっと口付けを落とした。
「ティア」
アンワールが名を呼べば、するりと持ち上がったティアの華奢な腕がアンワールの首に絡まった。
「砂漠からもどるの、明日じゃなかったの……?」
まだ寝ぼけたあどけない口調でティアがそう問えば、アンワールがぎゅっとティアを抱きしめた。
「会いたかった。ずっとティアに会いたかった。だから、きた。砂漠を越えて、森を抜けて。急いできた……迷惑だったか?」
「ううん、嬉しい」
すり、とティアが頬を寄せて笑う。
「今ね、アンワールの夢を見てたんだよ。私も、ずっと会いたかったの」
「――ティア」
小さなその耳へ吐息を落とすように、アンワールは名を呼んだ。
離れていた時間を埋めるように、会えぬ時間に抱いたせつなさを伝えるように。
「好きだ」
「うん……私もアンワールのこと、大好き」
大切な人のぬくもりをわけあいながら、二人はしばらくそのまま抱き合っていた。
各自激戦を繰り広げた精霊たちが明け方ごろ家に戻ると、そこには手を取り合って穏やかな寝息を重ねる二人の姿があった。
こうして、大好きな預言書の持ち主と、その恋人の幸せな時間を見事に守りきった精霊たちは、顔を見合わせ笑いあった後、安堵のうちに預言書へと姿を消したのであった。