祝福の場というのはよい。
赤ん坊が生まれたとき。その誕生した日を祝うとき。大人として認められるとき。何かをなしえたとき。そして――愛する人と、結ばれるとき。
世界の歴史からみれば短く、人の時間にすれば長い生涯で、いくつもの祝福を交わしながら、人は生きていく。
だから、そのひとつひとつは個人のものであるにも関わらず、とても輝かしく、人を魅了する。
ノーラは、きらきらとした瞳で、その一場面を食い入るようにみつめる。
交易都市の名も高いイサルミィ中心部近くにある古い歴史を持つ教会の前。たくさんの人たちが詰め掛けたその先に、一組の男女が幸せそうに笑いあっている。
そうであるようにしつらえられた一組の人形にように仲睦まじい彼らは、ついさきほど、教会で永遠の愛を誓ったばかりの新婚さんだ。
口々に、おめでとう、と招待客だけでなく、たまたま通りかかっただけの人たちからも、惜しみない祝福が投げかけられる。
「おめでとー!」
商工会へと向かう途中だったノーラもまた、同じように声をかける。
たまたま耳に届いたのか偶然だったのかはわからないが、今もっとも世界で美しいであろう花嫁が、にこりと笑いかけてくれた。
「すごく綺麗な花嫁さん! ね!」
ノーラは、はしゃぎながら隣にたつ男のコートの袖を掴む。
「そうだなー。ってか、女の晴れ舞台で綺麗じゃなかったらダメだろ」
「そういうこといわないの!」
「いてっ」
どうでもよさそうな口調で、そんなことをいう男――イサルミィにいくといったらついてきたユカである――の、足を容赦なく踏みつける。
情緒のない男への当然の制裁であるのだが、足の甲という急所を攻撃されたユカが、おおきな身体を揺らした。
「なんだよ、間違ってねーだろ?!」
じとっとした恨みがましい視線を向けながら、「おー、痛ぇ」とわざとらしくいう。
「もう……。ほら、ちゃんと『おめでとう』っていいなよ」
「おめっとさーん」
誰かに呼びかけるように、たてた手を口の横においたユカがいう。あまりの心のこもらなさに、ノーラは呆れた。単純に同意を得たかっただけなのに。ユカにそういうことを求めたのが、そもそもの間違いだったのだろうか。
「やる気ないなぁ……」
「んなこといっても、別に知り合いでもねぇし。男のオレにどうしろってんだよ」
「んー……それは、そうかもしれないけど」
確かに、女の子ならば、一度は夢見るだろう美しい花嫁衣装を纏った姿に目を奪われることはあるだろうが、成人男性でそうなるのは……ちょっと考えられない。
「どんなに綺麗な女だろうが、もう別の男のモンだろ? 他人の女にちょっかいだす趣味はねえよ」
「誰もそこまでいってないでしょ!」
べしべしとノーラはユカの腕を叩く。というか、そんなことを考えられては、いちおう恋人という立場であるノーラの立つ瀬がない。
「……やっぱ、ああいうのがいいのか?」
「え? なに、よくきこえな――あっ! ブーケトスはじまるみたい!」
隣の人があげた祝福声に掻き消されたユカの言葉がよくきこえず、背伸びをして高い位置にある顔を見上げようとしたものの、わっと前面に少女や妙齢の女性が前にでるのがみえて、ノーラは前に視線をもどした。
「なんでもねーよ」
後ろからユカの手がノーラの頭に覆いかぶさり、くしゃりと撫でる。
「じゃ、あたしいってくる! ちょっと待ってて!」
ノーラはそういって、人を掻き分け、前へと進む。否、進もうとした。
「ふぬぬ……!」
しかし、いくら冒険者としての実力があるとはいえ、ノーラは小柄な女の子だ。
なかなか前へと進めず四苦八苦していると、ひょいと身体が浮いた。足先が地面から離れると当時に、腰というか尻あたりにしっかりとした支えと、倒れぬよう背に添えられた大きな手の存在を感じる。
抱き上げられたのだと、直観的に理解する。慌てて視線を巡らせると、前を見ているユカの横顔が目に入る。
「ユ、ユカ?!」
「もりあがってるとこわりぃんだけど、このちっこいのも参加させてやってくんねー?」
ノーラの呼びかけに応えることはなく、ユカが人垣に声をかけると、すぐに幾人も振り返ってくれた。
そして、にこりと笑いながら道をあけてくれる。
「おお、すまないね。気づかなかったよ」
「さあ、どうぞどうぞ」
結婚式の最後のイベントを彩る女の子は、いればいるほどいいということなのだろう。
「ありがとな。はい、ちょっとごめんなさいよっと」
そういいながら、ノーラを抱えたまま、ユカが人々の隙間へと身体を滑り込ませる。どうやら、このまま前まで連れて行ってくれるつもりのようだ。
その様子を、ぼうっとしながら見下ろす。
普段は面倒くさがりなくせして、こういうときにはちゃんと助けてくれる。手をさしのばしてくれる。
ノーラは、ぎゅっとユカのジャケットの肩口を掴みながら、ほんのりと頬を紅色に染める
だって、『格好いいじゃない』と、思ってしまう。大事にされていると、実感してしまう。
そうすると心臓が痛いくらいに、派手な音を奏でる。全身が火照る。心地よくもあるけれど、ちょっとだけ苦しくて、ノーラは浅く呼吸を繰り返す。
唐突に、「好き」と言いたくなる。なんの脈絡もないけれど、そうしたら少しは、この甘い苦しさが消えるような気がするのだ。
まあ、そんなことはこんな大勢の前でできるわけもない。
子供のように抱きかかえられているのも、恥ずかしいといえば恥ずかしい格好だろうけど。
もじもじとそんなことを考えるうち、最前列までやってきたユカは、ぽいっとノーラを石畳のうえに降ろした。
「ほれ、こっからならいけるだろ」
に、と口もとに笑みを浮かべながら、ユカが言う。
「ありがと……」
ノーラはなんだかまともに視線をあわせられず、やや俯いて礼をいうと、ぱっと駈け出した。
ちら、と後ろに目をやる。見送るユカの瞳が、ひどく優しいような気がして、顔に集中する血がさらに増えたような気がした。
ノーラは、あわてて前を向く。ここまできた目的を、忘れてはいけない。せっかく、ユカも手伝ってくれたのに。
向かう先には、すでにかしましく可愛らしく、それでいて華やかな集団ができあがっている。共通点は、皆、未婚であるということだ。
花嫁からのブーケを手にすれば、次に幸福な結婚をするという言い伝えは、古くからどこにでもある。ノーラの故郷でもそうだった。
次は自分だといわんばかりの妙齢の女子から、ただ単純に参加することを楽しんでいるような少女、これからされることの意味すらよくわかっていないだろう幼女が、揃って花嫁のブーケを待ち構えるさまは圧巻だ。
一足遅れて彼女達が描く半円へと、ノーラも加わる。
遅れたのでいい場所をとることはできなかったが、花嫁がよくみえる位置にたつことができた。
太陽の光を、ヴェールからドレスの裾まで滑らかに躍らせて微笑んだ花嫁が、名残惜しむように、次に繋がる幸せを祈るように、手にしたブーケに顔を寄せる。
そのままくるりと集まった人々へと背を向け、数拍後――ふわり、青空へと吸い込まれそうなくらい、高く高くブーケが舞う。
わっ、と人々の歓声が重なる。いくつも伸ばされる白く細い手。幸福な結婚を望む女たちの、懸命な指先。
だが、そのどれにも触れることなく、ブーケは風にあおられて遠くへと攫われる。
リボンを踊り子の衣装のように華麗に舞わせ、ブーケが落ちてくる。
それが自分を目指してきてくれているように、ノーラには見えた。
瞬きをすることすら忘れて、手を伸ばす。
と。
ノーラの右斜め前にいる女の子が、ブーケに手を伸ばす。背伸びをして、懸命に。どこか必死さが滲む可愛い横顔に目を奪われる。
ノーラは小さく笑って、手をわずかにひっこめる。
舞い下りた幸福を宿した花束は――そうして、見知らぬ少女の歓声とともに、そのたおやかな腕に抱かれた。
ノーラは、それをどこか晴れやかな気持ちでみつめ、いう。
「おめでとう!」
わずかに涙を浮かべ、ありがとうと周囲に伝える少女にはきっと、結ばれたい人がいるのだろうと、そう思わせるなにかがある。
幸せになってほしいなと、素直に思う。少女が友人たちに囲まれるのをみて、ノーラはそっとその場を離れた。
「なんだよ、とれたんじゃねえのか、あれ」
ユカが、ひょいと肩を竦めながら出迎えてくれる。どうやら、ユカはノーラがブーケを譲ったことを見抜いているようだった。
確かに、あのまま背伸びをしたら、ノーラの手にあのブーケは降りてきてくれただろう。
でも。
「いいの!」
にこ、とノーラは笑って、ユカの腕を掴む。
「さ、寄り道しちゃったからね、はやく商工会議所にいこ!」
「へえへえ」
そうして、二人揃って街角をひとつ曲がれば、そこはいつもどおりの活気溢れるイサルミィだった。教会の前だけが、別世界だったのかもしれないと思うくらいに、普段どおりだ。
そこからいくばくも時間をかけることなく、この街を訪れた目的の場所である商工会議所へと到着する。
「こんにちはー!」
「あら、いらっしゃい」
元気よく挨拶をしながらはいれば、すぐそこにいたキリルが気づいて声をかけてくれた。
「キトさんいますか?」
「奥で商談中よ。もう終わる頃だと思うから、いってみたらどう?」
「はい」
きっといつもの場所にいるのだろうとあたりをつけて、ノーラは歩き出す。あ、と声をもらして後ろを振り向く。
「ユカはどうする?」
「ん~? めんどうだし、そのへんぶらついてるわ」
今日入荷したという商品の札を眺めていたユカが、興味なさそうにそう返してくる。
今回、イサルミィを訪れたのは、キトに頼まれていた依頼品がおもったよりはやく揃ったため届けにきたというノーラの仕事の都合なのだから、それも仕方ないだろう。
「わかった。あんまり遠くいかないでね」
「へーへー」
迷子になるなんてことはないと思うが、あとで合流できなくなると面倒だ。
念押しされたユカは、ぼりぼりと頭を掻きながら、次から次へと商工会議所に運ばれてくる商品や、行き交う人、商談する人をぼんやりと眺めている。
まあ、ユカは自ら問題を起こすような男ではない。心配ならば、ノーラがはやく仕事を終わらせればいいだけである。
うん、とひとつ頷いて、ノーラは商工会議所の奥へと足を進めた。
とはいえ、もともと頼まれていたものをもってきただけなので、話は早い。キトになめし皮と、ウッコのタネを渡せば完了だ。
ノーラは、ぱたぱたと足音をたてて、キトのもとへと向かった。
そして小一時間後。
「……なんでいないのよ」
がっくり、とノーラは項垂れた。
キトの商談が終わるで待っていたこと、キトとの会話が多少長くなってしまったこと。
そんなこともあって、思った以上に時間はかかってしまったが、かといってそんなに長い時間をかけたわけでもない。
それなのに、ユカと別れた場所にもどってきたら、その姿はどこにもなかった。
もしかしたら、外にでたのかもしれない。
入れ違いになるのも困るため、ノーラはキリルのもとにいき、尋ねる。
「あの、ユカどこいったかわかりますか?」
「彼なら、ここでジャーキーを買って、外にでていったわよ」
やはりというかなんというか、退屈したらしく外に出て行ったようだ。
「ありがとうございます。探してみます」
「探さなくても、ここをでて右にまっすぐいった先にある露店にいると思うわ。欲しいものがあるって、場所をきかれたもの」
「そうなんですか?」
キリルの言葉に、ノーラは目を見開く。
ジャーキーはすでに手に入れているというのに、さらにユカが求めるものがあるのだろうか。
酒もしくはギャンブル、という線は考えられるが、後者は露店には売ってはいない。
うーん、と悩むノーラにキリルが笑う。
「いってみたらわかるわよ」
「それもそうですね。ありがとうございました!」
会釈してその場を離れるノーラに、キリルが手を振ってくれた。
ぱっと商工会議所を飛び出し、キリルに言われたとおり、右へと向かう。
石畳を踏みしめて歩くうち、向こうに目的の顔をみつけ、手を振る。人ごみに紛れいてるが、その背の高さと顔を見間違うはずがない。
ユカはなんだか手元ばかりをみて、いまいち前をみていない。そのせいで、手を振っているのに気づいてもらえず、ノーラは名を呼ぶことにした。
「ユカー!」
「ノーラ!」
とたん、ユカが慌てたように、何かを後ろへと隠す。それを見逃すノーラではない。
「なに隠したのよ」
ようやくユカの前までたどり着いたノーラは、じっとりとユカを見上げた。
いつもなら「なんでもねーよ」と返ってくるところだが、それがない。ということはつまり。
「みせて!」
「……!」
ノーラは、ユカが何かを持っていることを確信し、その背後に回ろうとする。が、それをユカが阻止する。器用に身体を動かして、回り込まれないようにノーラと正面で対峙する。
「すっごくあやしい!」
「あやしくねえよ!」
もしかしたら、妙なものを買わされたのだろうか。否、値切りさえしてのけるユカがそんなことはありえない。
では、露店で骨董品をみつけたのだろうか。否、それだったら、少年のように瞳を煌めかせて、みせてくれるはず。
思い当ることがなく、くるくると円を描くような児戯に近い攻防を繰り返すうち――ば、とユカが手の平を向けて腕を突き出した。
「だー! 待て! 落ち着け! 犬じゃあるまいしやめろ!」
「ユカがみせてくれればすむことじゃない!」
うー、とノーラが唸ってみせれば、顔を背けたユカが苦虫をかみつぶしたような顔をして頭を掻く。
そして。
「ほら」
ぱっと、目の前にさしだされたものに、ノーラは目を見開いた。視界に、さまざまな色が躍る。
それは、瑞々しい花たちが束ねられた、素朴で可愛いブーケ。大きくはない。ノーラの両手を、ちょうど隠すくらいの小さいものだ。
ゆっくりと、ノーラはそれを受け取る。すう、と、その清々しい匂いを胸いっぱいに吸い込んで――ノーラは、くしゃりと笑った。
「どうしたの、これ」
「どうしたもこうしたもねーだろ」
わかってんだろというように、視線をあさっての方向へと送りつつ、ユカが言う。
その仕草がなんだか可愛く思えて、ノーラはまた笑う。
「あたしにくれるの?」
「ほかの誰にやるんだよ」
「ふふっ。こんな花束もらうの、はじめてだね」
毎年八月にあるテンペリナの花祭りでは、タンベリーやヴァロイサの花束を交換してきたけれど、そういった行事以外で花束をもらったことはない。
「ありがと。大事にするね!」
花祭りのときも嬉しいものだけれど、こうして花をもらえるのは、いつだって気分がいいものだ。
きっと。
きっと、今日のブーケトスでノーラがどこかの少女に譲ったのをみていたから、かわりにというわけではなのかもしれないが、わざわざ買ってくれたのだろう。
キリルに訪ねてまで探してくれたのだと思うと、たまらなく嬉しい。だって、ユカが自分のために買ってくれたのだ。
くすくすと、ノーラは笑いながらユカを見つめる。
「……」
ふい、と逸らされる顔。わずかに赤みを帯びた耳と頬。やらなきゃよかったとでも書いてあるような、複雑な表情。
「照れてる?」
なんとはなしに尋ねれば、顔を勢いよくこちらに向けてユカが大きく口を開いた。
「そういうこというならかえせ!」
「やだよ! ちゃんと家に飾るんだから!」
そういって、きゃらきゃらと笑いながら、ノーラはユカの手から逃れるように歩き出す。
「おい。一応いっておくがな」
「なに?」
追いかけてきたユカが、一段声の高さを落としていう。
「ずーっと飾りっぱなしにするんじゃねえぞ」
「……」
その念押しに、ノーラは沈黙を持って応える。だって、そんな約束できるわけない。
「おいこら、約束しろ!」
「どーしよっかなー。だって可愛いし、ユカがくれたし……ずーっと、とっておきたいじゃない?」
まるでノーラの心を読み取ったかのようなことを言うユカに、ノーラは口元まで花束を持ち上げて目を細める。
この可愛さを枯れさせたくはない。この気持ちは消えることはないし、忘れることはないだろうけど、大事に保存したいと願うのが乙女心というものだ。
慌てたように、ユカが背を屈めて耳元に囁く。
「だからって、導刻術は使うなよ」
「もう! どうしてだめなのよ!」
ノーラは、立ち止まってユカに詰め寄る。もらったのはこちらなのだから、そのあとどうするかはこちらに権利がある。
「ふざけんな! いつまでもとっておかれると……その、なんだ! だ、誰かにみられるとかあんだろ?!」
「ふーん。やっぱり恥ずかしい?」
別にノーラの家に花が飾ってあったところでおかしくはない。それが誰からのものか、なんていわなければいいだけのことだ。
でも、そういえば、前にもこんなことがあった。
ユカの大事にしていた懐中時計をもらったときも、こんなことをいって憤っていた。
あのときは意味がわからなかったけど、今ならわかる気がする。ユカが、意外に照れ屋であることを、知った今なら。
ノーラの言葉は真実をついていたようで、むっとユカが口をつぐむ。
「……」
ユカも、こんなにも顔を赤くすることがあるのかと、ノーラはなんだかくすぐったい気持ちその表情をみつめる。
「……なんだってんだよ。ブーケを取り逃がしたから慰めてやろうとおもったのに……やっぱやめときゃよかったぜ」
ぶちぶちと、柄にもないことするんじゃなかったと零すユカに、ノーラはそんなことないという。
「あたしはすごく嬉しいよ。だから、ありがと」
あのときの花嫁のように花束に軽く唇を寄せて、次いで、ユカを見上げる。
「でもね。あのブーケは、あたしにはいらないなぁって思ったから、手をひっこめたんだよ」
幸福のお裾分けをもらえたなら、それにこしたことはなかったかもしれない。でも、それ以上のものがすぐそばにあることを、あの瞬間にノーラは理解してしまった。
あの場所まで導いてくれたユカの腕の強さ、たくましい胸、向けられた優しさ、さりげない気遣いが――愛しかった。
だから、ノーラにはあのブーケは必要ないものだった。それゆえに、あの少女の手に渡ればいいと思ったのだ。
意味がわからないとばかりに、ユカが眉根を寄せる。
「はあ? 幸せな花嫁にならなくてもいいのかよ?」
「だって、あたしにはユカがいるもん」
自信満々に、ノーラは応える。
「花嫁さんのブーケがなくても、あたしは幸せになれるよ。ユカも一緒に、幸せになってくれるでしょ? ならいいじゃない」
どうだ、とばかりに胸を張ったあと、小さく首を傾げて同意を求める。
「なんだそりゃ」
く、とユカが笑う。しようのないやつというように、やわらかに。愛しげに。
「でもまあ、それなら確かに、あのブーケはいらねぇな」
「わわっ」
くしゃくしゃと頭を撫でられて、ノーラはくすぐったくて首を竦める。金の髪が、さらさらと宙に舞う。
「ん、もー、なにするのよ」
むう、と唇を尖らせるものの、どこかふっきれたような、さっぱりとした顔のユカには通用しない。
どうやらこれで、今日もらった花束を、ずっと飾り続けても大丈夫そうだ。
やった、と内心喜びながら髪を手でなおしていると、すい、と大きな手が差し出された。
「それじゃ、ま、帰るとすっか?」
「……うん!」
右手に想いのこもった花束を携え、左手に好いた男の手をとって。
これが自分にとって最高の幸福だと、ノーラは花のように微笑んだ。