死んだ。
そう思った。
だって、胸が熱くて、息ができない。
そのくせ、驚くような速度で、足元に這い寄る冷たさ。
見下ろした己の胸には、銀色の金属のようなものがはえている。
触って確かめてはいないが、背中から貫かれているのだと直感的に理解した。
死という文字が頭に浮かんで、そのまま脳裏にこびりつく。ベタベタとらくがきのように増えていって、出久の意識を塗りつぶそうとする。
ずるり、と緩慢な動きで、出久を標本のように縫いとめていたものが抜けていく。もしかしたら、素早いのかもしれないが、出久にはそう思えた。
声のかわりに、口から出るのは赤い血だ。
むせながら膝をつく。霞んでいく目を動かせば、さきほど倒したはずの敵がみえた。
ぼろぼろの身体で、瞳だけをギラつかせて、歓喜混じりの歪んだ笑顔でこちらをみている。
彼の個性はよくわからない。しかし、こうなる原因であったことは間違いないだろう。
油断した。どうして気を抜いてしまったのか。
だが幸いなことに、このあたりに逃げ遅れた人はいない。しかし、誰かがいないとも限らない。人のいるところにいってしまうかもしれない。
この敵を、野放しにはできない。
震えはじめた体を動かして、決意をこめて睨みつけた瞬間。
とどめをさそうと手を振り上げていた敵が、横から飛んできた何かに吹っ飛ばされた。
眩い閃光。鼓膜震わす爆音。巻き起こる風に散る砂塵。
それが何か。何者であるか。知っている。
もう、だいじょうぶ。
あの敵は、他の誰かを傷つけることは、できない。
確認せずとも胸に広がる安堵に誘われるように、出久は膝をついた。まるで、敬虔な信者が、神に祈るように。
籠手のついた大きな手が、土煙を引き裂く。その向こうに、燃えるような瞳をみつけた。
「かっちゃん」
最後の言葉が、幼馴染の名だなんて。
そんなこと想像もしていなかった出久は、ぐらりと体を傾けながら意識を失った。
結果からいうと、出久は死ななかった。
現在インターン活動で同じ事務所にきているエリにたすけられた。
巻き戻す個性――かつてのような危うさも薄れ、いまやこんなふうに誰かをたすけることができるようになった彼女は、命の恩人である。
見舞いに来てくれた彼女に礼を述べつつ笑いかけたら、可愛らしい顔を精一杯にしかめて怒られてしまった。同行していたリカバリーガールと相澤にも、である。
エリの到着がほんの少しでも遅かったなら、おそらく死んでいたからだろう。それはよくわかっていたので、出久は黙ってそれを受け入れた。
申し訳ないことをしたと、心から思う。
ぺこぺこと頭を下げるプロヒーローの成人男性と、見習いヒーローの少女という構図は、はたからみれば滑稽だったことだろう。
ちなみに、恩師である相澤はまったく助け舟をだしてくれなかった。リカバリーガールも黙ってみていたので、いい薬だとでも思ってたに違いない。
確かによく効く薬であった。
「はぁ……」
そんなこんなで見舞い客が無事に帰ったあと、ベッドに横になった出久は、深い息をはいた。
確かめるように、胸に手を置く。
痛みはないが、胸を刺しぬ貫かれたときの感覚と、すぐそばに来ていた死の気配は、忘れられない。
入院しているのも、身体的なものではなく精神的なケアのためである。
あのときは、ほんとうに死んだと思った。
だが、こうして生きながらえている。もっと、しっかりしなければ。
誰かを守るために、まず自分の命を守らなければいけない。
ヒーローたるものの心得を思い出しつつ、今回の反省するべき点を脳内に並べ立てていると、ドアがノックされた。
「はーい」
起きてますよ~という意味合いの、軽い返事を返す。
事務所の誰かが様子見がてらきてくれたのだろうと、思ったのだ。
きっとこの失態で、アメリカの事務所からもちかけられていた移籍の話がなくなるだろうから、その相談に訪れたのだろうと。
だが、違った。
「ヒェ……」
扉の向こうから現れたのは、見慣れた鬼の形相でない勝己だった。いつになく静かな表情を向けられて、余計に怖くなる。思わず情けない声を出してしまった。
「こ、こんにちは……」
挙句に間の抜けた挨拶までしてしまった出久は、情けないやら恐ろしいやらいろんなものがごちゃまぜになった感情のまま、ベッドの上に突っ伏した。顔をあげたくない。
「アホか」
「ううっ」
どさり、と何かがテーブルに置かれる音がした。ちらりと腕の隙間から視線を送れば、お見舞いの品らしい何かがみえた。
そんなものをもってくるなんて、粗暴な言動に反して律義なところがある勝己らしい。
そのまま、視線が端正な横顔に吸い寄せられる。ふわり、頬に熱がともる。
出久は、ぎゅうっと目を閉じた。
気まずい。気まずいのだ。いろいろとあって、気まずいのだ。
もぞもぞと布団の中に避難しようとしたところで、それはひっぺがされた。
「うわわっ?!」
「おいコラ、客をもてなす気はねぇのか!」
「わざわざのお見舞いどうもありがとう!」
じゃあこれで! と、再び寝る体制になろうとしたが、阻止された。
「やめてやめて、毛布ちぎれる……!」
「だったらテメェが手ぇ離せや!」
さすがに病院の備品を破損させるわけにもいかず、出久は渋々と手を離してベッドの上で身を起こした。
「……」
「……」
かといって、気の利いた会話ができるわけではない。
いやもう、なんなの。どうしろっていうの。
出久は、甘じょっぱい気持ちで、唇をかみしめる。静寂の中で、自分の鼓動ばかりが感じられて苦しい。
幼馴染の男相手になんでこんなふうになっているとかというと、ちゃんと理由はあるのだ。
キスをしたのである。
一ヶ月ほど前の飲み会の帰りに。この、腐れ縁ではあるが、決して仲良くやってきたわけではない爆豪勝己という男と、キスをした。しちゃったのだ。
思い出せば頭が茹だる。頬が明確な熱を持ち、耳が熟れて落ちてゆくような気さえする。
この歳にもなって恋愛初心者を自負する出久は、どうしていいかわからない。そもそも、どうしてあんなことになったのかもよくわからない。
あの日、したたかに酔った出久が、帰るために気分よく鼻歌を奏でながらスニーカーを履いているところに勝己がやってきたのだ。
ひょいと目の前にしゃがみこんだ勝己の顔は、果実のように赤かった。
「かっちゃんもたくさん飲んだんだね~」と、へらへらと笑いかけると、伸ばされた大きな手が出久の後頭部を掴んだ。
あわやこのまま握りつぶされるのかと思ったが――引き寄せられて、唇が重なった。
意味がわからなかった。さすがに酔いも醒めた。擦り合わせた唇のやわらかさと、眩暈がするような熱さが、鮮明に記憶に残っている。
きっと、勝己もひどく酔っていたのだ。きっと、誰かと勘違いしたのだ。
そうでなければ、自分たちがあんなことになるわけがない。そのまま、勝己はふらりと姿を消した。
幸いなことに誰にも見られていなかったらしく、翌日にトップニュースになっていることも、友人たちからの連絡もなかった。
とはいえ、記憶があれば意識はするもの。勝己は覚えていないから、こんなふうに出久の前に現れるのだろうけれど。ひどい話だ。
「えっと、それで、今日はどんなご用件で……」
「キメェ」
「……」
どうしろと。
覚悟を決めて話しかければこの塩対応である。
悟られないように深く息を吐き、窓のむこうに広がる青空に目をやる。
きれいだな、なんて現実逃避をしかけていると。
「なんで呼んだ」
勝己の静かな言葉に、出久は頭をかかえたくなった。
「君が勝手に病院に来たんじゃないか……」
お見舞いに来てほしいなんて、一言もいってない。というか、来るなんて予想もしてなかったし、来てと願ったところで断るくせに。
むすーっと顔をしかめながら顔を向けると、小馬鹿にしたよう顔で呆れ混じりのため息をつかれた。
「今日のことじゃねぇよ、クソカス」
「じゃあ、いつのことなんだよ」
とんと心当たりがない。そもそも、勝己を呼びつけるなんて自殺行為なのでは?
首を傾ける出久をみて、勝己の眉間に深い皺が刻まれた。
「テメェが死にそうになったときだわ」
「あ」
なるほど、そのことかと出久は目を瞬かせた。
「かっちゃんがきてくれて、安心した、から……?」
「なんで疑問系なんだよ。つーか、あんなふうに呼ばれて胸糞悪ィんだわ」
「そんなこといわれても」
どんな声をしていたのか。どんな顔をしていたのか。出久にはわからない。そのときは、意識朦朧としてきたところだったし。
うんうんと腕組みをしながら記憶を漁るが、どんな気持ちだったのか、思い出せなかった。
「……まあ、いいわ」
鋭い舌打ちを添えられて、機嫌を損ねたとわかった。出久は、もういやだと半泣きになる。
「じゃあな」
静かな一言を置いて、勝己はあっという間に去っていった。
いやほんと、何しに来たの?
「なんなんだよもう……」
出久は、深く長い息をついて、今度こそベッドに横になる。口元まで毛布を引き上げて目を閉じる。疲れた。精神的に疲れた。
爆豪勝己は、昔からずっと、出久を振りまわしてばかりだ。
数日間に渡る検査と療養の入院を終え、我が家に帰ってきた出久は、マンションのドアの前で戸惑っていた。
「なんで?」
出久の素朴な疑問に、応える者は誰もいない。
いや待て、待って欲しい。なんで、どうして。
「鍵があわない……?! ここ僕の部屋だよね?!」
一歩下がってドアを眺める。記されている部屋番号は覚えているとおりだし、廊下からみえる外の景色だって見覚えがある。
ただ、ドアだけが出久を拒絶している。おかしい。
もう一度、開かないか試そうと鍵を持った手を伸ばしたとき。
「それじゃ、あかねぇよ」
「!?」
横手からかかった声に、出久は飛び上がらんばかりに驚き、慌ててそちらを向いた。
さきほどまで誰もいなかったはずのそこには、サングラスをかけた幼馴染が立っていた。どこのチンピラだよ、と喉元まで出かけた言葉は、かろうじて飲み込んだ。
「かっちゃん?! 何をしたんだよ?!」
ドアが開かないと告げたということは、勝己はこの事態に関わっていることは間違いない。そして、勝己は主体的に動く男である。つまりは元凶だ。
驚き焦り、ほんの少し怒り混じりに問いただせば、ニヤリと勝己が笑った。
「解約した。鍵は交換済みだわ」
「はあ?! 僕の荷物は?!」
「俺が預かった」
「ヒーローコレクションは?!」
とくに僕のオールマイト! と悲痛に叫べば、勝己が敵もかくやの悪い笑顔を浮かべた。
なんということだ。長年かけて集めてきたヒーローグッズが人質ならぬモノ質となろうとは!
「いや、でもそんなこと、いくらかっちゃんだってできるわけない……!」
才能マンたる勝己であろうと、好き勝手できることには限りがある。あるはず。たぶんきっと。
そんな出久の悲痛な否定を、勝己は鼻で笑い飛ばした。
「もともとテメェんとこの事務所が契約してるとこだろうが」
「まさか、事務所を脅した?!」
顔を青くした出久の最悪な想像を肯定するように、勝己は口の端を持ち上げた。
「馬鹿言うな。丁寧に『お願い』してきただけだわ」
「うそだーーー!!!」
出久の全力の叫びもなんのその。勝己は頭を抱える出久の足を蹴った。
「おら、いくぞ」
「どこに?! 僕さらわれるの?!」
警察に相談しなければと本気で考え始めた出久の足が、もう一度蹴られた。あまりにひどい。
「さっさとついてこい! テメェのクソナード趣味がどうなってもいいんか!」
「それは困る! ああもう、待ってよ!」
長年かけて集めたオールマイトコレクションは、もはや手に入らないものが多い。出久は泣く泣く勝己の後に続いた。
ドナドナの歌を脳裏に流しながら電車に乗り、指示された駅で下車、言われるがままに徒歩でついていくこと十数分。
「え?」
連れてこられたのは、とても綺麗なマンションだった。しっかりとした造りで警備員もいる。これ知ってる。ヒーロー向けに建築されたやつ。有名なデザイナーがてがけたやつ。
「え?」
出久は驚きながらも、すたすたと歩いていく勝己に背についていく。
戸惑いつつ乗り込んだエレベーターは、生体認証になっているらしく、『おかえりなさい爆豪様』などと女の人の声で出迎えてくれた。
「え?」
重力を感じさせない滑らかな上昇。耳に心地よいチャイムの音から少し遅れ、扉が左右に開く。
目当ての階おそるおそると足を踏み出し、あたりを見回す出久に、ぽいと投げ渡されたのは鍵だった。目を白黒させている出久をよそに、勝己はなおも進んでいく。
「え?」
ひとつのドアの前で立ち止まった勝己が、多重ロックになっている扉をあけて中に入っていく。どうやら、渡された鍵ひとつでは開かない仕組みのようだ。
茫然としていると、さっさとしろといわんばかりに引き込まれた。
「え?」
奥へ奥へと連れ込まれた先、座らせられたテーブルセットの椅子でおとなしく待っていると、愛用のマグカップにコーヒーが入れられて目の前に出てきた。
「え?」
戸惑いながらもコーヒーを一口飲んだあと。
「今日からここが、テメェの家だ」
「……」
まさに晴天の霹靂。
前置きも途中経過も理由も何もかも爆破したような勝己の言葉に、出久の叫びが新居に響きわたった。
「ん、うぅ……」
温かい布団は離れがたいもの。きっと世界中の人々が賛同してくれるに違いない。
今日は休みであるし、もう少しここにいてもいいのでは? ――などと考えるが、いつまでもまどろんでいるのは、大人としていかがなものか。それにこのままでは朝食を食いっぱぐれる。
出久は、抜け出しがたいベッドに未練たっぷりに別れを告げて起き出す。軽く伸びをして乱れた頭を手でなでつけ、自室のドアを開いた。
リビングを挟んで向かい側にある部屋の主は、いつも出久より早起きだ。
あふあふと欠伸を噛み殺しながら右を向くと、キッチンにたつ同居人の背がみえた。
黒いエプロンを身に付けた彼は、出久には到達できない手際のよさで朝食を作っている。最初は恐怖を感じたが、毎日見ていれば慣れるものである。
「おはよ……かっちゃん……」
「ブサイクなツラさっさと洗ってこい」
「うん」
ひどい言われようだが、気にしてはいけない。これは彼なりの朝の挨拶である。
いい匂いに口元をほころばせながら、キッチンの横を通り過ぎた出久は、洗面所へと向かう。
身支度をしながら、しみじみと思う。
なんだかんだと、同居生活は上手くいっている。世界七不思議に数えられてもいいくらいに不思議だけれど。
出久は、勝己のことを嫌な奴だと思っていたことがある。いや、いまもそう思っている節があることを自覚している。でもその認識も改めなければいけないのかもしれない。
掃除が行き届いた家は居心地がよい。洗濯物が溜まることもない。自分はそれなりだが、勝己の作ってくれるご飯はいつも美味しい。勝己が当番の日は、はやく家に帰りたくなるほどだ。
顔を洗い、寝ぐせのついた頭をなんとかみれる程度に整えて、リビングにもどればテーブルの上に朝食ができていた。
白いごはんに、豆腐とワカメのみそ汁、魚の干物に、漬物と煮物の入った小鉢。ふわふわの卵焼きは出久の好物だ。
「はー、おいしそう。いただきます」
「いただきます」
丁寧に手を合わせて感謝する。
空腹を満たすために夢中で手を動かしていた出久は、ふと顔をあげた。
「そういえば、どうしてかっちゃんは僕をここに連れてきたの?」
「あ? ンだ急に」
「きいてなかったなと思って」
強引に住まわせられたあの日から、しばらく喧嘩が絶えなかった。とはいえ怒鳴り合えば出久が負けたし、あわや殴り合いになりそうなときは双方堪えた。
勝己ならばこうなることぐらいは予想済みだったろうに、どうしてこんな面倒くさいことを選んだのだろう。
それは、素直で素朴な疑問だった。
みそ汁に口をつけたときの伏し目のまま、勝己が言う。
「テメェを見張るためだ」
「どういうこと?」
見張る? かっちゃんに監視されなければいけない理由なんてあったかな?
うーん、と考え込む出久に、勝己が舌打ちする。
「お前がいなくたって、世の中さして変わりゃしねェが」
「それは……そうだろうね」
さきほどまでの会話に関係あるかわからない言葉に、出久はちょっと考えてから頷いた。
いくらプロヒーローとして活動していたって、所詮はたった一人の人間だ。その人物がいなくなることで世界が終るなんてことはありえない。
そしてそれは、誰にでもいえることだ。一国の大統領であっても、王様であろうとも、その人がいなくなっても実のところそんなに世界は変わらない。
誰かがその穴を埋め、ときおりその穴の後を愛おしく懐かしく思い出し、そうしていつかはそうする人さえいなくなり、忘れられていく。
「ムカつくことに、テメェがいなくなったら俺の世界が終わる」
「……?」
意味がわからなくなってきた。心底困り果てた自分の顔は、相当間抜けなことだろう。
察しの悪い出久に対して、勝己は珍しく根気強く語ってくれる。
「あのとき、テメェは死んだと思った」
傷跡も残っていない胸が、冷えて痛むような違和感を訴える。無意識のうちに手を置いていた出久は、ゆるりと息を吐く。
それは出久自身も思ったことだった。あんなにも濃密な死のにおいは、あれから一度も感じたことはない。けれど、いつかほんとうに最後を迎えるときは、逃げることはできないだろう。
自分もそうだが、勝己も、いつかきっと。
そう考えたら、ぎゅっと胸が詰まった。美味しかったはずの朝食の味が、ふいにわからなくなる。
でも、僕は生きている。かっちゃんも、生きている。
「そうしたら」
「あ、うん」
一瞬、ぼうっとしてしまった。考えたくないけれど、将来直面する勝己の死に思考が止まっていた。慌てて相槌をうつと、射抜くように睨みつけられた。
「死ぬかと思った」
「う、うん……? それは、かっちゃんが?」
そんな馬鹿な。
出久の疑問は、勝己の恥部なのか、ものすごいしかめっ面を返された。よほど嫌らしい。だけど、その気持ちはどうにもできないようだ。人の心って複雑だ。
「気色悪ィと自分でもつくづく思う」
「そんな力をこめていわれても……」
勝己はどうしようもない感情となんとか折り合いをつけたのだろう。静かな顔で続ける。
「テメェ、あのとき笑ってだろ」
「え? そうだった?」
あれだけ痛い思いをして、死神の指が首にかかったような状況で笑っていた?
我ながらドン引きしてしまう話である。
「胸から腹まで血だらけで、口の周りも真っ赤にしやがって、そのくせ幸せそうに笑いやがった」
「それは、ごめん……」
勝己にとっては悪夢のような光景だったのではなかろうか。死にかけの男が、へらへら笑いながら名を呼び、そして目の前で倒れたのだ。想像すると、ぞっと悪寒が走った。
「子どもみてぇに俺を呼んで、あげく死にかけてた」
「……」
「赤い花が、俺のために咲いていると思った」
「……」
「だったら俺のモンだろ。勝手に消えようなんてふざけんじゃねえぞカスが」
「……」
かっちゃん、ちょっと感性おかしくなってない?
そんなことを一瞬思ったが、いえるわけもない。
出久は、止まりかけていた息を大きく吸い込んだ。
勝己のいっていることは滅茶苦茶だ。だって、出久には勝己へのそれらしい好意などない。ないはずだ。だから、彼のために笑ったなどとそんなことは、ないはずだ。
それを勝手に解釈して、あげく自分のものが消えるのが嫌だったと思ったとか、俺様にもほどがあるのでは。
でも。でも。胸が、くるしい。あのとき死ななくてよかったと、これほど思ったことはない。
「なんていうか」
「おう」
頭が真っ白になりかけている出久の頭が、爆破されても文句を言えないようなことを考える。いわなければギリギリセーフ。だが、それはするりと出久の口から零れ出た。
「やたらと熱烈な愛の告白みたいだよね、それ」
「……」
直後、あはは~と軽く誤魔化すように笑った出久とは対照的に、勝己が黙り込む。
否定してこない。かといって肯定するわけでもない。
勝己の性格から考えると間髪いれず否定と爆破。これがセットになるはずだ。
そうならないということは――マジで?
本気なのだと理解したとたん、かあっと頬が熱を持つ。
「そのつもりだわクソが」
明確な愛を囁かれたわけではないのに、こちらのほうがよほど恥ずかしいと思うのは、出久が恋愛慣れしていないだけだろうか。
「……そのクソが、そんなに好きなの?」
「……」
再び黙り込むその姿に、出久はなんともいえない気持ちになる。なんだこれ。
つまり、つまりは。勝己は緑谷出久という男を、ちょっとおかしい理由な気がするけれど好いていて、大事にしてくれていて、目を離したくないと言っている、ということで、いい、のだろうか。
ぶわわっと、さきほどの比ではないほどの熱が、全身にほとばしる。
予想外すぎた。
かっちゃんて浮いた話ひとつないけど、恋愛対象が男の人だったからなのかな? そんなこときいたことないけど……まあ、かっちゃんが教えてくれるわけもないし……いやいや、いままさに告白されてしまったのだからきっとそうだったのだ。
出久は、女の子が好きだ。いつか誰かと結婚して、子どもができたりするのかな、なんて漠然と考えていた。
まさか、あの幼馴染に求められるなんて考えたこともなかった。偏見はないと思うが、男同士の恋愛に興味を持ったこともなかった。
ひぇ、と情けない悲鳴のような、ため息のような声を飲み込み、出久は小さく頷くことしかできなかった。
これまで感じたことのない空気の中、のろのろと食事が再開した。
食後の熱いお茶をすすりながら、少し心が落ちついてきた出久は、ちらりと勝己を見遣る。
いつもどおりの平然とした面構えにもどっていて、勝己の精神の強さには感服するばかりである。逆の立場なら、出久は恥ずかしくて死んでいる。
「あのさ、もうひとつ教えて。……どうして、キス、したの」
飲み会の後でか、と勝己は出久の言いたいことをすぐに察した。
きっとこちらにも理由があるのだ。また甘酸っぱく面映ゆいことになりそうだが訊かずにはいられなかった。きっと今なら、答えてくれるはずという期待があった。
「テメェとアホ面が」
「うん」
「キスしたことねぇって、話してたから」
「……うん?」
確かに、上鳴くんにきかれて、恥ずかしながら白状させられたけど。なんだろう、雲行きがあやしい。
「いい歳して夢見がちなことくっちゃべって馬鹿みてぇだし、現実を教えてやろうと思った」
「このクソ野郎!」
そんな理由で、ファーストキスを失ったと知った出久は、顔を真っ赤にして叫んだ。
前言撤回。
やはり、爆豪勝己は嫌な奴である。
そんな朝を迎えた日から、二人の関係は変わった。
出久にとって、幼馴染であり同級生であり、その背を追いかけるヒーローであり、最近同居人となった男は――自分を求めている男に変わった。
勝己はあれ以来、何もいってはこない。しかけてもこない。だけど、鋭い赤い瞳は雄弁にその体に秘めた熱を語っているから、みつめられると居心地が悪くなった。正確にいうと、たまらなく恥ずかしかった。
視線が、声が、滲むようなかすかな頬笑みが、出久の存在を確かに求めていた。
憧れて追いかけていた相手が振り返るだけでも驚きなのに、さらには求めてくるなんて想定外も想定外。しかも恋愛的な意味で、である。
でも、絆されていくのがわかった。嫌な奴という認識とその人物に対する好意が両立するという驚くべき事態に、出久は混乱した。
幼い頃から思春期に至るまで、彼からされたことも言われたことも忘れていない。許しているのかと問われれば、即座に首を振るけれど、じゃあ許していないのかと問われれば、答えに窮してしまう。自分たちは、ほんとうに単純なようでいて複雑なのだ。
そんな出久の心を覆う、表現できないざらついたなにかごと、勝己は丁寧に触れてきた。
払われるような拭われるような、それでいて磨かれるような触れあいのあとに現れたのは、自分にそんな気持ちがあるのかと思ったほどの恋心だった。
僕ちょっとちょろすぎなのでは?
そう思わないでもないのだが、気づいてしまえば、もうまっさかさま。
ぽちゃりと音をたてて落っこちた先は、出久をとらえて浮かび上がらせてはくれない沼だった。温かく、甘く、いつまでも浸っていたいような。それでいて、刺激的な日常に夢中になった。
ときおり顔をあげれば、同じ気持ちなのかはわからないけれど、熱っぽい瞳と整った顔に意地悪そうな笑みを浮かべた勝己がいた。
かっこよくて、胸が苦しくなった。顔を伏せてやりすごしたが、そうすればいなくなった勝己をついつい探してしまう。
いくつもの朝を過ごし、いくつもの夜を越え、そうして迎えた勝己の誕生日。
出久は、勝己とずっと一緒にいたいと強く思った。
恋が相手を欲し求めることならば、この執着も恋を形作るもののひとつ。
世の中の、甘く幸せで切ない恋模様とは違うといわれても、自分にとってはそうなのだから、それでいいだろう。
そんなふうに出久に思わせるようにした幼馴染には、責任をとらせてやらなければならなかった。
悩みに悩んだすえの、誕生日プレゼントは準備万端。
バレないようひた隠しにしつつ――ソファに二人並んで座った出久は、今日ひとつ歳を重ねた幼馴染に、しどろもどろに自分の気持ちを伝えた。
君が好きです、と。
伝えたものの、何の反応も返ってこない。
沈黙は耳に痛く、心臓は早鐘をうっている。あと数秒で、窓ガラスを破って外に飛び出しそうだったところで、ようやく勝己は動いてくれた。
「いいんか」
それは、簡素な確認だった。裏切ることはできない、穏やかで静かな声だった。
喉を大きく動かして、口の中を湿らせたあと、出久は膝の上に置いていた手を、ことさら強く握りしめた。
「まだよく、わかってないだけかもしれないけど、」
嘘だ。本当はよくわかっている。いまだって、顔をあげれば目の前にいる人が、輝いてみえる。昔からそうだったといえばそうかもしれないが、もっとずっときらきらしている。自分の人生において、このひとが必要不可欠なひとなのだと魂が訴える。
「憧れた続けた君の輝きをずっと傍で感じていたい」
真っ赤な顔で、こんなことをいう自分は、勝己の目にはどう映っているだろう。
「あの、みんなにいろいろ言われるだろうし、マスコミもうるさいかもだし、……こ、子どもだって無理だけど、えっと、かっちゃんがよければ……」
喋っているうちに何を言えばいいのかわからなくなってきた。尻すぼみになる言葉と同じように、身体を縮ませていく出久の手が、強く握りしめられる。
はっと視線をあげれば、勝己が真摯な瞳を出久に向けていた。
「ぐだぐだうるせえ。んなこたーわかっとるし、俺の答えは先にだしといただろうが」
「……うん!」
顔を見合わせて、笑う。勝己の笑顔が、知っている以上に嬉しそうで柔らかくて、素敵にみえる。
不思議だ。
最初は無理やり連れてこられて、そうしてはじまった生活だった。
きっと窮屈で、うまくいくはずないと思っていたのに、二人での生活は心地よくかった。
幸せだと、心から思った。こんな幸せを、幼馴染との間に感じる日がくるなんて、かつての自分に伝えたら卒倒するだろう。
でも人生は良くも悪くも不思議なものなのだ。
そんな実感に胸いっぱいになっている出久を、勝己が現実に引き戻す。
「ところで」
「?」
「プレゼントはねえのか」
ほれ、と催促されて出久は目をそらす。
「ある……けど」
「さっさとよこせ」
「笑わない?」
「クソナード趣味のモンよこしたら殺す」
「今、僕たち恋人同士になったところだよね?」
関係がどう変わったところで勝己は勝己だ。
まあ、そこがいいんだけどね……、と思ってしまう自分に呆れながら、出久はポケットから用意していた赤いリボンを取り出すと、自分の首にまわして結んだ。
ただ、リボンが縦結びになってちょっと格好悪い。
「ヘタクソ」
眉根を寄せてリボンを整えようと指を動かしていると、勝己が滑らかな手つきで結び直してくれた。
「ありがとう、かっちゃん」
笑って礼を言うと、リボンと首の間に指をいれた勝己が、くいっとひっぱる。苦しくはないが、くすぐったい。
「……まさか、プレゼントは僕、とかベタなこと言い出さねえよな?」
「え、ダメだった?」
「いい歳した筋肉の塊みたいな男がいうことかよ」
そんなことを言いつつ、勝己は真顔でリボンを弄ぶ。
笑って却下されるか、嫌そうに却下されるかのどちらかかと思っていた。が、真顔で罵られるとは、勝己の心境はどうなっているのだろう。
一応、念のために別のものも用意してあるのだが――どうしたものかと考え込む出久の身体が、浮いた。
「うわっ?!」
抱きあげられるとは思っていなかった出久は、思わず勝己の肩にしがみつく。熱く逞しい身体に寄り添いながら視線を向ければ、すぐそこで勝己がわらっていた。
「だがまあ、悪くねえ」
隠していた飢えを解放させた笑みに、肌が粟立つ。まあ、そういう覚悟もしていたので、構わない。準備は万端だ。きっと大丈夫。だぶん。
上機嫌な勝己に、彼の部屋へと連れ込まれながら、自分を鼓舞する。勝己の想いに応えるのは今なのだ。
ベッドへと放りだされ、圧し掛かってくる勝己へと腕を回す。
さまざまな覚悟を決めて掴んだ幸せに満たされて、出久はとろけるように笑った。
翌日、一晩のうちにいろんなこと――ほんとーにいろんなことを教えられて動けなくなった出久は、腰をさすりながら勝己を恨むこととなる。
そう。
自分たちは幸せだった。
幸せだった。あのときは。
ずっと、つづいていくと、しんじていた。
それはもう、ずいぶんととおいむかしのことのよう。
勝己の記憶が失われてから、一年が経った。
二人の関係は終わらせたけれど、忘れたわけではない。
あのマンションの一室で、二人で過ごしていた幸せな時間を、いまでも夢にみる。
リビングのホワイトボードはもうないのだろうか? きっともう、捨てられただろう。
先に出勤する時にはハートマークでも描いとけといったのは、勝己だった。
こんな恥ずかしいことやだっていったら、不機嫌そうな顔で何度も何度も強要してきたから、結局出久が折れたのだ。
誰にも内緒にしてほしいと懇願したら、小さく笑って頷いていた。その赤い目が、優しかったことを覚えている。
僕とかっちゃんの、ふたりだけの、約束だったのに。
乱雑に消されたマークをみたときに、ほんとうはわかっていたのかもしれない。
でも、そのときはまだ認められなかった。突然の終わりを受け入れられなかった。だって、二人で生きていくと決めたばかりだったから。
そこから半年ほど、出久は勝己と一緒に過ごした。
だけれどなにをしても、どこにいっても、出久の勝己はもどってこなかった。勝己の中にはもう、自分はいないのだと悟った。
もう無理だ。なんで忘れたの。どうして忘れちゃったの――みっともなく泣いて喚いて、何も知らない勝己を責めてしまいそうだった。
だから、離れようと決めた。
いや、違う。彼のためといいながら、すべては自分のためだった。
なにもかも忘れた勝己を、自分が楽になるために捨てたのだ。
出久を慰める心優しい友人たちの前で、懺悔にも似たそんな告白をしたとき、皆、出久が悪いわけではないといってくれた。
かといって、勝己が悪いわけでもないことも、誰もが知っていた。
なにが悪いわけでもないのだ。たまたま、こうなってしまっただけのこと。
あの勝己と、一瞬でも幸せな縁を結べたのなら、それでよかった。
そう思って、出久は勝己のもとから去ったわけだが、心身ともにダメージが大きかった。
自覚していた以上に、出久は勝己との関係を大事にしていて、必要としていたらしかった。
離れてから気づいても遅い。もうあれ以上、勝己に迷惑をかけることもしたくなかったし、これでよかったのだ。どんなに胸が痛もうとも。
涙とともに幾夜を越えて、出久の心はようやく落ち着きをみせてきた。
このままきっと、夏の花火のような恋は思い出となり、そんなこともあったのだと微笑みつつ静かに話せるときがくるのだろうと、そんなことを考えるようにまでなっていた。
だが、しかし。
出久が望む穏やかさは、突如として破られた。
とある事件の事後処理をしていたら、突然現れた勝己に鯖折りをかまされたのである。
なんで相撲技をかけられたのかは、よくわからない。徹夜明けで機嫌が悪かったのかもしれない。
理由はなんであれ、筋肉ゴリラに力任せにそんなことされたら、いくら鍛えていたとしてもたまったものではない。
いつもならば、引き寄せられる前に対処できたかもしれないが、夜通し仕事をしていた疲れもあってできなかったのである。
結果、腰と膝を痛めて気を失い、出久は病院に担ぎ込まれた。
目が覚めたときの第一声は、『覚えてろよかっちゃん……』である。
ヒーローにあるまじき呪いの言葉を低い声で囁く出久に、医者と看護師が顔をひきつらせていた。怖がらせて申し訳なかった。
そして、一週間後の本日。
職場に復帰とあいなったわけだが、軽く仕事を終えて、さあ帰ろうとしたところで、事務所の前に幼馴染が立っていることに気づいたのである。
「なんなんだよ、もう……」
出久は、心底困って肩を落とした。逃げ出したい。変装しているくせに漏れだしている鬼気迫る空気もあいまって、ほんとうに嫌だ。
善良な通行人の皆さまが、そこを避けて通っている。きっと電話番号を変えたから連絡がとれず、わざわざ待ち伏せなんてしたのだろうが、共通の友人経由で連絡を取ってほしかった。
前にも後ろにもいけなくなった出久を発見したのか、勝己が大股で近寄ってくる。終わった。
おまわりさ~ん、などと泣きごとを心の中で呟く出久の前に、スマホが迫る。
「!」
ついついその画面をみた出久は、次の瞬間、目を見開いて奪い取ろうとしたが、叶わなかった。
素早くスマホを持つ手を上にあげた勝己が言う。
「おとなしくついてくるか、この写真をネットにアップされるのか、どっちか選べ」
「脅しかよ!」
淡々とした口調で要求を突き付けてくる男が、悪魔のようにみえて、出久は顔を真っ赤にして叫ぶ。
なにしろ、勝己の手の中にあるスマホには、教育上たいへんよろしくない写真が映し出されていた。
いつの間にあんなものを撮ったのだろうか。記憶を失う前だろうが、いくら恋人だったとはいえ、どうかしている。それを保存したままの勝己もどうかしている。
自分の肌色満載の写真をアップしたら、勝己にも不利になるはず。それを考慮しても、どうあっても出久を連れ出したいのだとしたら、いかないわけにもいくまい。
渋々、ほんっとうに渋々と足を踏み出したら、恋人同士であったときにもよく訪れていた居酒屋に連れてこられた。なるほど、内緒話ならここが妥当だ。
店員の教育、防音対策、個性対策が行き届いた店の奥、さほど大きくはない個室に通されるなり、勝己は出久を真正面からみつめて言った。
「悪かった」
出久は、大きな目をことさら大きく見開いたあと、むうっと顔をしかめた。心当たりが多すぎる。
「今日、現場でうちの事務所の新人を巻き込んだこと? さっきの脅迫? この前の鯖折りのこと?」
つらつらと思いつくことを言葉にする。問題児だと先生たちにもいわれていたが、この歳にまでなって、なんでこんなことをするのか理解に苦しむ。
「ちがう」
「じゃあ、なに」
困ってしまって眉をさげる出久に、真摯な表情で勝己が重ねて言う。
「悪かった」
なにが、と問うたのにどうしてまたそんな言葉を口にするのか。
頭の中で心当たりがあることを探しまわり、ひとつひとつ口にしてみるが、勝己は頷かない。
最後の最後に、ようやく思い当たったありえない可能性にたどりつき、出久は口元をひきつらせた。
「もしかして、」
声が掠れている。そのくせ、肌はなにかの予感にじっとりと汗を帯びている。こくりと喉を鳴らし、出久は続ける。
「……思いだしたの?」
もう二度と戻らないと別れを告げた、あの時間、あの記憶、あの心。出久にとっての宝物。
「……」
勝己の沈黙は、いつも肯定だ。
いつ、なんで、どうして。
そんな疑問が浮かびながら消えていく。すーっと、心の温度が下がっていく。そして、急激に湧き上がるなにか。
なにを、いまさら。
そう思った。
「かっちゃんは謝りたかったんだね。わかったよ。じゃあ、僕帰るね」
出久の口から、素早く滑り落ちた声は冷たい。
了承したからこれでいいだろといわんばかりに、顔を伏せて出久は席を立つ。
勝己の横を通り過ぎようとしたところで手首が掴まれ、出久は足をとめざるをえない。
「待てや」
苦しそうな悲しそうな、そんな気配を感じながら、出久はかたくなに勝己を見ようとしない。触れる皮膚が熱くて、やけどしてしまいそう。
「触らないでくれる? 君の気持ちは、ちゃんと受け取ったから」
もうこれでいいだろ? とばかりに腕を振り払おうとするが、うまくいかない。
「俺の気持ちってなんだよ、あ?」
「謝罪だろ?」
引き寄せようとする勝己に足を踏ん張って抗う。
「違ぇ!」
「なんだ、結局謝らないの? 君らしいや。でももう、終わったことだしね」
「てめっ……! あげあしとりやがって!」
さらに力を込めてくるのを許さず、今度こそ力いっぱい振り払う。驚いたように息を詰める勝己を、出久は静かに睨む。
「さわるなっていってるだろ」
ぴしゃりと冷水を浴びせるようにそんな言葉を叩きつけ、入口へと向かう。
「ばいばい、かっちゃん」
叫び出しそうになるのを堪えて別れを告げて、個室を後にする。
ここまで彼を拒絶したことは、これまで一度もないな、とぼんやりと考えながら店を出る。
おぼつかない足で冷えた道路を歩きはじめ――出久は十メートルも進まぬうちに、強く地面を蹴って走りだした。
駆けてゆく。鍛えているはずなのに、胸が苦しい。息ができない。大きく吸い込んだ酸素が、身体の中で燃え上がる。熱い。熱い。
ぼろぼろと涙がこぼれる。走る速度についてこれずに、後方へとその滴を置き去りにして、出久は走る。
走って、走って――そうして、居候している家に飛び込んだ。
距離にしてどれくらい走ってきたのか。そんなことはどうでもよかった。気にする余裕もない。
もともとは洋風の家であったにも関わらず、すっかり和風にリフォームされている廊下を突き進み、居間に繋がるふすまを力強くひらいた。
ぱぁん、と小気味いい音が響く中、同居人を探す。
驚いたふうもなく、座布団に座ってお茶を飲んでいた轟が、肩で息する出久を色の違う瞳で静かに出迎えた。
「おかえり、緑谷」
「轟くん! きいて!」
ドタドタとうるさく近づいてくる出久に眉を潜めるでもなく、轟は出久へと身体の向きを変えてくれた。
「なにかあったのか」
「あのね、かっちゃんが!」
すざっと轟の前に正座して、出久は手を握りしめる。
「おう」
「お、おおおおお思いだしたって! ど、どどどどど、どうしよう!」
走っただけではなく火照る頬に手を当て、出久は「ひゃあー」とわけのわからない声をあげながらその場上半身を伏せた。頭の中が、ぐるぐると渦を巻いて眩暈がする。
「そうか。よかったな」
「でも僕ひどいこといっちゃった……! ああああ~……」
どうしてあんなことをいってしまったのだろう。
本当なら嬉しさのあまり抱きついたっていいくらいだった。嬉しかった。でも、悔しかったし、寂しかったし、辛い思い出が一気に蘇ってきて素直ではない態度をとってしまった。
思い返しても情けないやら恥ずかしいやら申し訳ないやらで、いますぐこの場から消えてしまいたい。
いや、勝己が思いだしてくれた以上、そんなことはしたくないのが本心ではあるのだが。
のろのろと身体を起こし、出久は顔を片手で覆う。
「どうしよう、どうしよう……! かっちゃん怒ってるだろうな……うう……」
「大丈夫か? 顔、すげえ赤いぞ」
「わかってるよ~!」
「じゃあ、みんな呼ぶか。飯田と麗日は今からでもくるだろ」
いい酒をもらってきたんだと、どこか上機嫌に言う轟に、出久は目を見開いた。
「どうして?!」
友人たちに話すには、まだ現実を受け止めきれていないし、事実を把握しきれていないし、感情の整理もついていない。こんなところにこられたら、焦ったまま何をいってしまうかわからない。
一方の轟は、どうして出久が困るのか意味不明とばかりに、きょとんとした顔をする。
「爆豪が緑谷のことを思い出したいい日だったっていう話じゃねぇのか?」
「~~……っ! ……そ、そう、です……」
出久は、輝かんばかりの善意を前に、燃え尽きた。もう好きにしてくれ。
轟の言うことは、まったくもってその通り。ただ、みんなでお祝いしようとかそういう方向にいっちゃう轟の感性には、たまについていけない。
でも、悪いことではない。純粋な気持ちが伝わってくる。みんなにも心配をかけたことだし、こんなことがあったと報告してもいいだろう。
出久が考えを切り替えているうちに、あれよあれよと友人たちに連絡がまわっていき――その夜の轟家は、遅くまでおおいに盛り上がったのだった。
さて。
みんなに話をきいてもらい、じゃあこれからどうするかという会議では『ちゃんと二人は話し合うべき』という、まともな結論がでた。お酒を飲んでいたのにもかかわらず、奇跡的なことである。
ところが二日後、たまたま現場で顔をあわせた瞬間、頭が真っ白になった出久は反射的にまわれ右をしていた。そしてそのまま、最速でその場からの離脱を図った。
つまり、逃げたのである。
一拍後、ものすごい爆音とともに追いかけられたが、鯖折り事件を知っているヒーロー仲間たちのとりなしで、出久はなんとか逃げ切ることができた。
いや、逃げてどうする。出久は、勝己の姿がみえなくなった街角で頭を抱えた。
それからも、話をしなければとは思うのだが、勝己を見れば逃げるという行動をとりつづけることになる。
恥ずかしいやら申し訳ないやら、なんかやっぱり納得できないところが……という複雑な感情をもてあまし、逃げ続けること数週間。
もう終わりだ。
出久は、どんよりと疲れ切った顔で、とぼとぼと家路をたどっていた。
気配を感じただけでも逃げ出すという状況に、さすがのかっちゃんも呆れたろうし愛想を尽かしたに違いない。
明日こそ、明日こそは勝己と話し合おう。頑張れ自分。
鼻をすすり、涙の浮かんだ目元を拭い、居候している家の鍵をあける。
「ただい、ま……?」
玄関に足を踏み入れた出久の身体に緊張が走る。
すん、と鼻を蠢かせれば、とてもいいにおいがした。食欲なく萎れていた胃が、急に活性化するような、懐かしく美味しそうなにおい。
状況が状況なら、疲れた体への恵みとばかりに喜んだであろうが、今日ばかりはそうではない。なぜなら、轟が急な仕事のために帰らないという連絡がさきほどあったからだ。その際、出久は「もうすぐ帰宅する」という主旨のメッセージを返している。
では誰が料理をしているのか。泥棒はそんなことしないだろう。もしかしたら、轟の姉である冬美さんがきているのだろうか。いやそれならば轟から連絡があるはず。ならば人気ヒーローである轟のストーカーだろうか。
様々な可能性を考えながら、出久は気配を殺し足音を消して、ゆっくりと廊下を進んだ。
そっと居間へと続くふすまを開ける。
かっちゃんがいた。しかも仁王立ち。こちらの気配など、お見通しだったようである。
「……」
出久は無言でふすまを閉めた。
いまこの状況でなにが言える?
まわれ右をして玄関に走りだそうとしたところで、スパン、と開いたふすまの向こうから伸びてきた手に首根っこを掴まれた。
逃がすかこのクソがという意志が感じられる力強さで、後ろへと引き戻される。
「ぐえっ?!」
「オイコラ」
ひいっとひきつった悲鳴が喉から漏れた。
恐る恐る顔をあげると、にこりともしていない勝己がみえた。
「オカエリ」
「ひ、ひえっ……!」
こんなにも恐怖感じる出迎えが世界のどこにあるだろうか。怒りを抑え込み過ぎて棒読みになっているもがさらに恐ろしい。
殺される。
散々逃げ回ってきた記憶が、出久の体温を奪っていく。
乱暴に座らせられた場所が処刑台のように思えた。
小刻みに震えながら、出久は刑の執行を待つ。だって、勝己にはひどいことばかりしてしまった。記憶が戻ったというのに拒絶して、碌に話もせず逃げ回って。許されるはずがない。
短かったな、僕の人生。でも、かっちゃんに、みんなに出会えてよかった。
残り僅かな己が生でできる、精一杯の感謝を瞼の裏に浮かぶ様々な人に伝えていると、ドン、と音を立てて目の前に置かれるなにか。
ゆっくりと薄く目をあけ、渋い顔で視線を動かす。
高級木材でできた座卓の上に、ふんわりと湯気をあげる料理がひとつ。
「あ……なん、なんで……?」
もう二度と食べることはできないと思っていた。出久の大好物で、思い出のつまった料理。勝己お手製のカツ丼だった。
座卓の向こう側に腰を下ろした勝己が、静かな顔をしたまま言う。
「作るって約束してただろ」
「えっ」
出久は驚いて目を見開く。
そんなの、ずっと、ずっと前の話だ。勝己が記憶を失うより、さらに一ヶ月以上前のことだ。
忙しくて二人の休みがなかなかあわなくて、果たされなかった約束。しばらく難しいだろうか、そのまま叶わなくても仕方ないとさえ思っていた。
じわり、と目頭が熱くなる。つん、と鼻の奥が痛くなる。
「食え」
震える手で差し出された箸を受け取り、いただきますと小さく小さく呟いて、器に手をかけた。
とろとろふんわり卵。卵に包まれたとは思えないようなさっくりさを残した豚カツ。あまじょっぱい玉ねぎ。白いご飯は炊きたてらしく、つやつやと輝いている。
はふ、と出久は息をつく。ああ、この味だ。
「おいしい」
ふにゃり、と顔が笑み崩れる。ぽろりと涙が落ちていく。
熱さと闘いながら、出久がすべて食べ終わるまで、赤い瞳がじっとこちらをみていた。
「ごちそうさまでした」
出久が丁寧に手を合わせると、勝己が居住まいを正す。自然と出久もまた、勝己に正面から向き合う。
色の違う視線が確かに絡み合う。
「悪かった」
「もう、いいよ」
「よくねえだろ」
轟の家に勝己がいること自体、そうとうな努力があったはずだ。
ありがたいことに、友人たちは出久のことをとても大切に思ってくれていて、話し合うべきと助言をくれながらも、勝己に対してお怒りモードだった。
つまり、彼らの許しを得て、協力を仰いだのだ。この爆豪勝己というプライドの高い男が。カツ丼を作るという約束を果たし、詫びの言葉を改めて伝え、そして迎えにくるために。ただ、そのために。
出久は、やわらかく微笑む。
「じゃあ、かっちゃんずっと謝るの?」
「お前が望むなら」
潔い言葉に、頭を振る。
「いいよ、そんなことしなくて。かっちゃんらしくない。気持ちは、ちゃんと受け取ったから――……あのね……その、ありがとう……」
思いだしてくれて。そのうえで、また、求めてくれて。迎えにきてくれて。
照れくさくて言えないけれど、きっと勝己には伝わっていることだろう。
ちらり、と視線を向ければ満足そうな笑顔がそこにある。
「じゃあ元鞘ってことでいいな?」
「もっと言い方あるよね?」
身も蓋もない言葉に、出久は唇を尖らせて不満を示す。
情緒というものがないとむくれてみせれば、勝己がため息をついて立ちあがった。
そのまま出久のもとまで歩いてくると、片方の膝をついて手を伸ばしてきた。
自分以外をみることを許さないというような力で顎を掴まれ上向かせられて、顔が近付く。整ったその顔の破壊力を、勝己はわかっているのだろうか。
「テメェは俺の恋人だな?」
「……ひゃい……」
ぼふ、と一瞬にして頭が茹だる。あああ恥ずかしい。めちゃくちゃ恥ずかしい。
それでも問い直させたのは自分なので、出久は情けない声をあげて肯定した。
と。
勝己が、ぐいっと身を乗り出してきた。
それまでの甘ささえ感じていた表情をどこかへ放り投げ、凶悪な顔で出久を睨む。
ひぇっ、と長年の癖で顔を両手でかばうように持ち上げる。勝己の手から逃れようと試みつが、掴まれた顎の骨が悲鳴をあげるだけだった。
「じゃあなんで、半分野郎のとこにきてんだテメェ浮気かこの野郎爆破し殺すぞ!」
「う、浮気じゃないだろ?! 人聞きの悪いこといわないでよ! 居候だよ! それに、ちゃんと終わらせてからきたんだから浮気じゃない!」
「終わってなかっただろうが!」」
「終わらせてきたよ!」
「何も知らねえ俺にあそこまでしておいて、終わらせたとか無理あんだろ! むしろ忘れられねえわ!」
「ううっ!」
それを言われると辛い。ちゃんとあれで諦めて終わらせるつもりだったのだ。そして終わったつもりだった。
しかし、勝己からしてみれば幼馴染の男に襲われたあの行為は、下手すれば一生モノのトラウマだろう。
ちょっとだけ、すこしだけ、そうなったらいいのにという暗い希望があったことは否めないのだが、それを勝己に告げるのは墓穴の中にさらに墓穴を掘る行為だ。
「す、すみませんでした……」
出久は素直に謝った。
その謝罪の言葉に溜飲が下がったのか、勝己がようやく手を離す。
「まあいいわ」
いたたた、と顎をさする出久の手が、さらわれる。
今度こそ握りつぶされるかと肝を冷やしたが、そんなことはなく。するすると冷たい何かが肌の上を通っていく。
指の根元におさまったものをみた出久は、目を瞬かせた。
「これで許してやる」
「……」
言葉がでない。口を動かすこともできず、今、己の左手薬指に当然とばかりにおさまった銀色の輝きを凝視する。
「てめえは俺のモンだ」
「わ、わすれ、忘れたくせに……」
憎まれ口を叩いて、くしゃりと顔をゆがませ、出久は泣いた。もう堪えることはできなかった。
「もう忘れねーよ。二度とゴメンだわ」
「……ほんと?」
「ん」
ぽろぽろと涙を零す出久は、伸びてきた腕の中に抱かれて、辛かった悲しかったと静かに訥々とこれまでの気持ちを言葉にした。
慰めるように、頭に額に頬に、そして唇に降るキスが心地よくて、愛しくて、また泣いた。
こんなふうに勝己が優しくしてくれるなんて、この生涯で一度きりじゃないだろうか。
幸せいっぱいに貴重な時間を堪能していると、勝己が体重をかけてきた。いつの間にやら腰にまわされていた手が、するりと臀部に降りてきて、鍛えられた肉を楽しむように撫でさする。
不穏な気配を感じ取った出久は、身をよじりながら問う。
「ちょ、かっちゃん……なに?」
「デク」
色づいた声で名を呼びつつ、音をたてて首筋に吸いつかれ、出久は慌てた。
一瞬、勝己の熱と心地よさに流されかけたが、気合で踏ん張りその頭を抑え込む。
「何考えてるんだよ!」
「ンでだよ!」
言い争ううちにも勝己の手が出久の服の裾から潜り込んでくる。さすがに素早いと、感心している場合ではない。
「ここ、轟くんちだろ!」
「好きに使えっていっとったわ!」
「ンンン轟くん……!」
家主の許可があるといっても、こんなことまで想定されているはずがない。
「そういう意味は含まれてないから! 轟くんはそんな人じゃないから!」
「なんなんだテメェのその半分野郎に対する気味悪い信頼は! あいつもいっぱしの男だろうが! このあと何が起きるかなんざわかっとるわ!」
確かにちょっとばかり、轟には純なままでいてほしい気持ちがないわけではないが、今、出久がいっていることは常識の問題である。友人の家で性行為に及ぶわけにはどうあってもいかない。
「とにかくだめ! 友達の家でそんなことできない! お世話になりっぱなしなんだからな!」
頑なな出久に、勝己が下唇を突き出す。不満げなその顔は、あらためて気持ちが通じ合ったせいもあってか可愛らしく、不覚にもきゅんときた。
「じゃあ、どうしろってんだよ」
どうしたらよいのかと問われた出久は、ぴたりと動きをとめた。
どうって、どうしろって。それは、それは――ひとつしか、ないじゃないか。
出久は、勝己の腕に手をかけた。ぎゅうっと、心のまま握りしめて訴える。思い浮かぶのは、ただひとつ。
「かえろ?」
赤い瞳が限界まで見開かれる。
「僕、かっちゃんと一緒に……おうちに、かえりたい……」
二人で過ごして、恋がうまれた、あの部屋に。不幸せも幸せも知っている、愛を育てたあの場所に。
そう告げたときの勝己の顔といったら、照れたように口をあけ、呆れたように眦を鋭くして。
出久の腕を強く掴んで立たせると、手を引いて玄関へと駆けだした。
「わ、ちょ、靴……! 靴はかせて……!」
「はやくしろノロマ!」
勝己の怒声にせかされながら、スニーカーをひっかけるようにして外へと出て、なんとか履いたあとは競うように駆けだした。
居候している部屋に荷物はそのまま。食事の後片付けもしていない。家主である轟に、なんの連絡もしていない。
心に引っかかることは多々あった。だけど、夜を切り裂くように二人で走る快感に、そんなことはすぐに吹き飛んでいった。
夜の景色も、人々の喧騒も置き去りに、無心でひた走る。大きな声で、どうしてだか笑っていた。
もしかしたら、こんな二人の様子が、明日の新聞に載ってしまうかもしれない。でも、そんなことはどうでもよかった。
帰りたいと願った場所に辿りついた勝己が、振り返る。
出久は、弾丸のようにそのまま飛び込んだ。
自分の愛しい人は、これぐらい受け止められないはずがない。
きつく抱きしめあって、乱れた呼吸さえ奪い合うように、深く息をした。汗の流れる肌も、その匂いも、いつになく高い体温も、なにもかもがいとおしい。
顔をあげれば、勝己がわらっている。
きらきらきらきら。
まるで星が降り注ぐような煌めきに、出久はのぼせあがった。
恋する瞳にはきっと、不思議な魔法がかかっているのだ。
引き寄せられるままに身を任せれば、与えられたのは獣のようなキスだった。
「ん……」
出久は、ぼさぼさの頭を掻く。
しめきれていなかったらしいカーテンから、細い細い太陽の光がさしこんでいる。どうやら、夜は明けたらしい。
まだよく開かない目で瞬きを繰り返し、横をみる。
すやすやと気持ち良さそうに眠る勝己に、顔がだらしなく緩んだ。
己の身体を見下ろせば、いくつもの赤いあとが散らばっている。
もう二度と誰にも刻まれることはないだろうと思っていた。言葉よりもなお雄弁なその色に、出久は指先をあてる。
服に隠れないところまでつけられてしまったが、今回ばかりは仕方がない。身体があちこち痛いけれど、それも仕方がない。
勝己が思い出してくれたこと、我が家にもどってこれたことを実感して、出久はまた泣きそうになる。
ぐす、と鼻をすすっていると、隣にいる勝己が身じろぎした。
「おこしちゃった?」
ごめんね、と浮かぶ涙を拭って笑いかければ、勝己が手をのばしてきた。
「……でく」
「うん」
導かれて、勝己の肩に頬を寄せる。
絡ませた指に輝く指輪の光を目の奥に焼きつけた出久は、二度寝を楽しむことにした。