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星降る夜に、

 ラント領主邸宅の前には、手入れの行き届いた花壇が連なり、降り注ぐ陽光が、花びらの鮮やかな色彩を際立たせている。
 片隅には清らかな水が溢れる噴水が設置されており、そのしぶきが、柔らかな午後の光を透かし、きらきらと輝いていた。
 資源も自然も豊かなラントの地を凝縮したような、穏やかな風景がそこにはあった。
 そんな庭を抜けた先に、邸宅の玄関がみえる。
 その近くの花壇に、よく見知った人物が二人。何事か楽しげに語らっては、花に細い指先を伸ばしている。
 彼女たちは、周囲の花々に負けぬほどに華やかで、たおやかで、そして強く美しい、自慢の仲間。
 みつけた瞬間に、頬が緩んだ。それくらいに、大好きなひとたち。
「やっほー! ソフィ! シェリア!」
 大きくその名を呼びながら、パスカルは荷物を放り出し、全速力で駆け出した。
 すぐに気付いた二人が、こちらを向く。
 近づくにつれ、喜びに溢れる笑顔が嬉しくて、パスカルは二人に抱きついた。
 小さな悲鳴をあげながらも、二人はパスカルを優しく受け止めてくれた。そして、弦楽器をかき鳴らしたように軽やかな声があがる。
 ぎゅ、とひときわ強く抱きしめあったあと、パスカルは身体をはなした。いつまでもひっついていたら、顔がみられない。
 思ったとおり、咲き誇る花々に似た鮮やかさで、ソフィとシェリアの顔は彩られていた。
「いらっしゃい、パスカル」
「きてくれてありがとう、パスカル!」
 交互に言われ、パスカルはにまにまと笑った。
 こうして心から出迎えてくれる友人がいて、幸せだとつくづく思う。
 と、きょろりとソフィが瞳をめぐらせた。
「教官は、一緒じゃないの?」
 どこか寂しげな声音に、パスカルはほんの少し困ったように笑った。ぱたぱたと、問題ないからと手を振る。
「ちょーっと工事で遅れがあってね〜。ベラニックでほんの少し足止めされてるんだ。大丈夫、明日の朝一番にはこっちにこれるっていってたから。ちゃんと式には間に合うよ」
「そっか……」
 残念がりつつも、わかったといい子に頷くソフィの頭を、よしよしと撫でる。
「教官は、嘘ついたりすることはあるけれど、約束を破ったりはしないでしょう? だから大丈夫よ」
 さりげにひどいこといってるなあ、と思いつつ。シェリアが笑顔でソフィを慰めるのを眺めていると、わずかに軋む音をたてて、扉が開いた。
 同じ髪色をもつ男女が、その隙間から現れた。
「まったく、相変わらず騒がしい人ですね」
「あ、ヒューくーん!」
 ぶんぶんと手を振って、こちらにもまた抱きつこうと駆け出したが、びしっと手を突き出され、押しとどめられる。パスカルは、ぎゅ、と靴の音を鳴らしながら、足を止めた。
「だからそういうのはやめてくださいと、いつもいってるでしょう!? 先日のこと、もうお忘れですか?!」
 そういいながら、ヒューバートが薄っすらと頬を染める。
「おお!」
 そうだった。ぽん、とパスカルは手をうつ。
 この前も、研究の関係でストラタにいったとき、久しぶりに会ったヒューバートに抱きついて、怒られたばかりだった。
 突撃をやめたパスカルと、やや取り乱したヒューバートの姿をみて、ともに扉をくぐって出てきた女性――――ケリーが、くすくすと笑う。
「あら、いつもそんなことをしているのなら、ここでだってそうしてもかまわないのですよ?」
「何をいっているんですか!」
 声をひっくり返して責める息子を横目に、さらにケリーは笑った。少しだけ少女じみた、それでいて品のよい笑顔だ。
 ふわりと揺れる美しい青い海のような髪に、ヒューバートはお母さん似だなあ、とパスカルは改めて思った。
「まあ、それはあとで二人きりでしてもらってもいいことですものね。さ、パスカルさん、長旅でお疲れでしょう。部屋をすぐに準備させますから、それまでの間、お茶でもいかがかしら?」
「母さん!?」
「わ〜い! やったー!」
 またしても飛び出したケリーの言葉にひっかかるものがあったのか、ヒューバートが何事か叫んでいるが、申出が嬉しかったパスカルは、両手をあげて喜んだ。実のところ、歩き通しで、足も痛いし喉も渇いたし、お腹も減っているのだ。
 促されるまま、ふらふらとパスカルは邸宅へと歩き出す。その隣に並んだソフィが、いいことを教えてあげるね、と、子供のように屈託なく笑った。
「あのね、今日はバナナのお菓子があるんだよ。もちろんバナナもたくさんあるよ」
「ほんとっ?! どこどこ!」
 ざあっと脳裏に黄色い好物が並び立つ。手足をばたつかせたくなりながら、あたりを見回すと、シェリアが「ここにはないわよ」と、眉を下げて笑った。しょうがないわね、と、あいかわらずなのね、と、そんな言葉が聞こえてきそうな表情だった。
「全部、ヒューバートが持ってきてくれたのよ。お菓子は、ストラタでも有名な店のもので、なかなか手に入らないんですって。ね、ヒューバート?」
「……シェリア、なにか言いたいことでも?」
 何かを含んだような物言いに、ヒューバートが目を細める。落ち着かない様子で眼鏡を押し上げる。
「ふふっ」
 なにか言いたいことがあるはずなのに、口元に手を当て笑いとともにそれを押し殺したシェリアが、ヒューバートの横を通り過ぎていく。
 なにかよくわからないが、とりあえずこの家には今たくさんのバナナがあることは確かだ。きっと婚約式のためにヒューバートが持ってきたに違いない。さすがはヒューくん! 気が利くね! と、そのおこぼれに預かるつもり満々で、ケリー、ソフィ、シェリアのあとに続いて、パスカルは扉をくぐった。
「パスカル!」
「こんにちは、パスカルさん」
 すると、騒ぎを聞きつけたのか、執務室からアスベルとリチャードが連れ立って出てきた。
「アスベル! リチャード!」
 わーい、と久しぶりの再会に全身で喜びながら、パスカルは二人に駆け寄った。一応、ヒューバートにいわれているので、飛びつくことはしない。
 背後から、終わったら客間にきてねと、シェリアの声がかかる。そのまま彼女たちはお茶の準備をするために、奥へと消えていく。
 手を振って了解の意を示したパスカルは、アスベルたちに改めて向き直る。
「アスベル、おめでと!」
「ありがとう、パスカル」
 ぎゅう、と手を握り、次いでその隣にいるリチャードを見上げる。
「こっちに来るの、リチャードが最後かな〜って思ってたんだけど、教官が一番おくれんぼだね!」
「ふふ。明日は、友人達の晴れの日だからね」
 頑張ったよ、とお忍びでラントに滞在しているのだろうウィンドル王は、優雅に片目をつむった。その茶目っ気たっぷりの仕草に、パスカルはつられるように笑った。
 王様の仕事は、きっとパスカルには想像すらできないくらい大変だろう。それでも、アスベルとシェリアのために、執務に励んだというリチャードは、友達思いだ。
「会えて嬉しいよ〜」
「僕もです。そちらの研究のほうは、その後順調ですか? あと、納豆トーストを作る機械については……「そ、そういえば教官はどうしたんだパスカル!」
 リチャードの質問をさえぎるように、アスベルが問いを重ねてくる。
「研究のほうはねー、こう、ぐるぐるすぱーんっていい感じになってきてて、教官はちょびっと遅れてくることに――――
 交互に繰り出された質問に、パスカルが答えたとき。
「パスカルさん! 荷物を放り出しっぱなしにしないでください!」
「あ、いっけない。ごめ〜ん」
 遅れてはいってきたヒューバートが、パスカルが庭に置き忘れていた荷物を持ってきてくれた。
 謝りつつ、荷物を受け取る。
「ありがとね、ヒューくん」
 ヒューバートは、相変わらず優しい。面倒見がいい。それがついつい心地よくて、パスカルは柔らかに顔を崩した。
 ラントに着いて、みんなに会ってから、ずっと笑いっぱなしだ。でも、こんな温かな気持ちを抱いて笑うのは、いまが初めてのような気がした。
 だらしないとか、無用心とか、ぶつくさいっていたヒューバートが、「ぅ」と小さく唸って口元を引き結んだ。おろ、とわずかに視線をさまよわせたあと、口元を手で覆って言う。
「い、いえ……。以後、気を付けてくだされば、かまいません、から」
「うん、わかった! みんなに会えたのが嬉しくて、ちょっと忘れてただけだから!」
 今度は大丈夫、と握りこぶしを作りながら告げれば、ヒューバートがちらりとこちらを見て、小さく笑った。
「相変わらず仲がいいようだね、ヒューバート」
「へ、陛下!」
「いいじゃないか。パスカルにはやく会いたいってさっきから「わーわーわー!」
 リチャードとアスベルの言葉に、赤くなったり青くなって手を振り回したりと、ヒューバートは忙しそうだ。
 そうしてじゃれあう彼らの姿をみていると、みんなで旅をしていた頃が、昨日のことのように思い出された。
 たくさんの魔物と戦った。いろんなところにいった。守りたいもののために、力をあわせた。
 そのなかで、結ばれたものは、どんなものより価値があると、パスカルは思っている。
 そして、明日には、その絆のひとつがより深く確かなものになる。
「あー、いまから楽しみ!」
 パスカルは荷物を抱きしめ、ほんの少し先の未来に思いを馳せた。



 ――――こうして、国の重要人物とされるものたちがラントに集まってきたのは、理由がある。
 それは、明日執り行われる、アスベルとシェリアの婚約式に出席するため。
 ラント領主ともなれば、貴族同士の付き合いもおろそかにはできない。
 結婚式は、控えめにと願うアスベルとシェリアの願いを考慮したとしても、それ相応の規模のものにせざるをえない。内外に、若い二人が夫婦となること、そうしてラントが新たな世代に受け継がれ、これからも発展していくことを、知らしめなければいけない。そういう場でなければいけない。
 しかしながら、そうなってしまえば、主役の二人はその対応に追われてしまう。そんな日に、旧交をあたたためるのはなかなか難しいだろう。
 だから、親しい人たちを集めての、身内だけで婚約式を一足先にあげることになった。だがこれは、実質的な結婚式といっても過言ではない式の手順を踏むことになっている。
 そうして、パスカルをはじめとしたかつての仲間に、式の招待状が送られた。
 受け取ったパスカルとマリクは、いちもにもなく出席の返事を出した。
 それは二ヶ月ほど前の、春の香りが風に混じり始めたころのことだった――――



 ラントの名物料理をとりそろえたという晩御飯は、とてもおいしかった。
 さて、食後にもう一本バナナでも……、と。散々にバナナを食べていたにもかかわらず、そんなことを思いながらパスカルがあてがわれた部屋から出ると、外へと続く扉の前に人影がふたつ。
「あれ?」
 なにやら言い争っているような、そうでもないような。
 厨房にいくにはその前をとおるしかないため、パスカルは何気なく歩み寄っていく。話声が、自然と耳に入ってくる。
「どこにいくんだ、シェリア」
「どこって、家に帰るのよ」
「どうして」
「ど、どうしてって……」
「うちに泊まればいいじゃないか」
「な、なにってるのよ! だめよ、そんなの!」
「え、だめなのか?」
「なに驚いてるの?! あたりまえでしょ!」
「べつにいいじゃないか。もうすぐ家族になるんだから」
「婚約式するだけでしょ?!」
「結婚式みたいなものよね、って嬉しそうにいってたのはシェリアじゃないか」
「そ、それはそうだけど……!」
 どうやら、家に帰ろうとしたシェリアをみつけたアスベルが、ひきとめてようとしているらしい。
 二人は至極真面目なんだろうけど、どうみてもじゃれあっている恋人同士だ。だってシェリアだってまんざらでもない顔をして、頬をほんのりと薔薇色に染め上げている。言葉の応酬は、押したり引いたりと、楽しげなものにしかきこえない。
「じゃあ、家まで送る。それならいいだろ?」
「あ……。うん……ありがとう、アスベル」
 どうやら、妥協点がみつかったようだ。
 嬉しそうな、ほっとしたような、それでいてちょっぴり残念そうな――――そんな愛くるしい顔をして、シェリアが頷く。それをみて、アスベルが蕩けそうに笑う。ふわりとしたシェリアの紅い髪に、アスベルが指先を絡ませる。見詰め合うそのさまは、「幸せ」という言葉がふさわしい。
 へー、アスベルってあんな顔するんだー。
 そう思いながら、パスカルは手を振った。
「いってらっしゃーい」
「う、うわっ?!」
「きゃあ、パ、パ、パスカルっ?!」
 こちらに気づいていなかったらしい二人が、飛び上がった。ばばっとすごい勢いで距離をとる。
「あれ、どったの?」
「ど、どどど、い、いいいい、いつの間に……?!」
「さっきからいたよ〜」
 アスベルとシェリアが、二人の世界に旅立っていたから、気付かなかっただけのくせに、そんなに驚かれるとは。
 頭の後ろで手を組んで、あわてふためく二人を、にまにまと眺める。
 と、真っ赤になっている二人越しに見えていた扉が、急に開いた。
「おや? どうしたんだい、こんなところで」
「アスベル? シェリア? それにパスカルも」
 夜の風を引き連れて、リチャードとソフィが姿を現した。
「ふ、二人とも、そ、そ、外にいたの?」
 熟れた林檎のような柔らかな頬を引きつらせて、シェリアが早口で言う。
「うん。リチャードに、夜にだけ咲くお花、みせたいと思って」
「ソフィが案内してくれてね、ちょっとだけ出ていたんだ」
 ソフィが素直に頷いて、リチャードが補足する。どうやら、ソフィご自慢の庭で夜の散歩をしていたらしい。
「で、君たちはどうしたんだい?」
「いやいや、それがね、アスベルがシェリアに帰って欲しくないって駄々こねててさー」
 パスカルは、見たままをリチャードに告げる。アスベルの肩が、鋭く跳ねた。
「お、俺はそんなこといってない!」
「えー? じゃあ、シェリアを家まで送るっていったのは嘘?」
「それは嘘じゃない!」
「えー?」
 よくわからなくなってきたパスカルは、口元に手をあてて眉をわずかに寄せた。帰る、泊っていけ、というあのやりとりは、どうみてアスベルが駄々をこねる子供のようだったような気がするのだけれど。
 赤い顔で沈黙を保ち、俯いてしまったシェリアと、あわてふためくアスベルをみて、何事か察したらしいリチャードが、楽しげに小さく笑った。
「なるほどね。まあ、明日にはシェリアさんはここに住むようになるのだから、そう拗ねるものじゃないよアスベル。あと一日くらい、紳士として待つべきだよ」
「リチャードまでっ……」
 アスベルが悲痛な声を漏らす。そして、意を決したように、顔を勢いよくあげる。隣のシェリアが、びくっと反応するくらいの勢い。
「もういい! いくぞ、シェリア!」
「きゃっ、ちょっと、アスベル!」
 いろいろと耐えられなくなったのだろう。細い手を力強く握りしめたアスベルは、シェリアをやや強引に引っ張り、邸宅を飛び出していった。
 かたく結ばれた手が、印象に残ったのか、にこにことリチャードが笑う。
「仲がいいね」
「うん。二人とも、いつも仲いいよ」
 その嵐のような光景を見送って、ほのぼのとリチャードとソフィが言葉を交わす。
「それはいいことだね」
「うん、いいことだよ」
「だよねぇ、いいことだよ!」
 三人で云々と頷きあう。と、ソフィが自分の手をあげて、じっと視線を注ぐ。
「アスベルとシェリア、いいな……」
 ソフィが、ぽつんと呟く。どうやら、羨ましいらしい。それを見たリチャードが、柔和に目を細める。
「じゃあ、僕たちも手をつなごうか、ソフィ」
「いいの? リチャード」
 ぱあ、とソフィの顔が明るく輝いた。出会ったときの姿より幾分も成長した姿になったけれど、ソフィの内実は変わらずに素直なままだ。嬉しいと、その表情が物語る。
「もちろん。花をみせてくれたお礼に、部屋に行ってお話する約束だったしね。そこまで僕がエスコートするよ」
 いいかな、とわずかに首を傾げて確認するリチャードに、ソフィが頷く。さらり、紫水晶の髪が嬉しげに揺れた。
「うん。リチャードの話、いつもおもしろいから楽しみ」
「そうかい? そういってもらえると嬉しいね。ありがとう、ソフィ」
 そのまま、ごくごく自然に、それでいて優雅に、リチャードがソフィの手をとる。見詰め合って、温かな笑みを交わしている。仲がいいことを褒めそやしていたが、こちらも同じくらいに仲がいい。
 本気で戦いあい、殺しあっていたことがあったとは、とても思えないのどかさ。
 大好きな仲間たちの幸せ姿に、パスカルは笑みが絶えない。
「では、失礼しますパスカルさん」
「うん、まった明日ね〜。リチャード、ソフィ」
「また明日、パスカル」
 そういって、ソフィとリチャードは客室のほうへと去って行った。さきほどいっていたとおり、きっといろんなことを互いに話すのだろう。
「さて、今度こそバナナを〜っと」
 当初の目的を思い出し、パスカルは厨房へと足を向けなおした。が、それは三度遮られた。
「パスカルさん?」
「およ?」
 とん、と靴音を響かせて、階段の上にヒューバートが姿を現した。手には、淡い紅色の細い花弁をもつ花を、丁寧に集めた花束がひとつ。
 屋敷のどこかに飾るというよりも、誰かに渡すためと思われるそれ。
「ヒューくん。どこかいくの?」
「はい」
 とん、とん、と軽やかにホールへと降りてくるヒューバートをみあげながら、パスカルは小首をかしげてたずねた。
「どこにいくの? もう夜だよ」
 さきほど、リチャードとソフィが入ってきたとき、アスベルとシェリアが出て行ったとき、扉の向こうの世界は深い夜色だった。
「父さんのところへ、いってこようと思っています」
 軽い気持ちできいたのに、自分の目の前に立ったヒューバートからは、静かで、それでいて少しだけ重い笑みが、返ってきた。
 父さん――――パスカルは心の中で、ヒューバートの言葉を反芻した。
 アストンという名のアスベルとヒューバートの父親は、フェンデルの侵攻を防ぐために尽力し、その命を散らしたときいた。
 幼いころに養子にだされてからは、ただの一度も、ヒューバートはその父親と再会することはなかったという。
 つ、と視線をあげる。階段の踊り場にある、大きな家族の肖像画の中で、笑っている大きなひと。己の子を、不器用なやりかたでしか愛せなかった、ひと。
――――ねえ、あたしも一緒に、いってもいい?」
 自然と、そんな言葉が漏れていた。
 肖像画から視線をヒューバートにもどすと、ちょっとだけ驚いたような顔をしていた。やがて、数秒の沈黙のあと、ヒューバートは頷いてくれた。
 へら、とパスカルは笑う。許してくれたことが、嬉しかった。
「じゃあ、いこっか」
「はい」
 そして、二人で扉をくぐり、夜のラントへと歩き出した。