AVALONCODE6周年企画作品 まめ様よりのリクエスト
荘厳華麗なカレイラ王国のフランネル城。
かつての栄華は、遠い過去の彼方に消えていったものだとしても、その名残と伝統は、心の琴線に触れてくるものがある。
精緻な細工の窓枠から差し込む光に照らされた、ふかふかの赤い絨毯が、どこまでも敷かれた長い廊下。そこを歩くだけでも、ちょっとしたお姫様気分が味わえる。
しかも大好きな人が隣を歩いていてくれるのならば、なお楽しい。
そのうえ、これから一緒にお出かけなのだ。なお嬉しい。
さあ、どこにいこう?
ティアは、機嫌よく歌でも口ずさみたいような心地で、ちらりと背の高い彼を見上げる。
彫りの深い、男らしい顔立ち。額にかかる褐色の髪、深い眼差し、引き結ばれた唇。左目と十字を形作るように走る古傷が、ややもすれば恐ろしくみえることもあるだろうが、ティアにしてみれば、それすらもヒースの男らしさを引き立てているように感じる。
ああ、今日もヒースさんてば格好いいなぁ、なんて甘く蕩けた思考を繰り返していると。
とおりかかった太い石柱が並ぶ広間の果て、極彩色の塊があることに気づいた。
ゆらゆら、よろよろ。
あっちにいったりこっちにいったりと非常に危なっかしいというか、なんというか。置物などではなさそうだが。
「……?」
「どうした、ティア」
んむむ、と可愛らしく眉を寄せたティアに気づいたらしく、ヒースが足をとめた。どうやら気づいていないようだ。
ティアは、すっと指をもちあげ、広間の隅をうごめくものを指し示した。
「ヒースさん……あれ、なんでしょう?」
「?」
促されるままに視線をむけたヒースの眉間に、微かに皺が寄った。
そうなりますよね、とティアは思いつつ、遠くで揺れる「なにか」を眺める。
ヒースが、訝しげに、そして探るように、青灰色の瞳を眇めて言う。
「……花、か?」
近づいてくるものの輪郭を、ティアもようやくとらえることができた。
やわらかそうな花弁。瑞々しい葉。遠くからみているだけでも、そのかぐわしい香りが鼻腔をくすぐる様まで想像できそうな、見事な花の集合体。
「お花、ですね……でも、お花は歩かないです」
「まあな」
しごくもっともなティアの言葉に、ヒースが苦笑する。
確かめてみるか? と、ヒースに促されたティアは、不思議の塊に向かって歩を進めた。
カエンバナ、コンゴウラン、ギンカンムリ。そうした、ティアの知っている花もあれば、知らぬ花もいくつか混じっている。
そういえば、フランネル城の温室には東西南北の珍しい花を集めてあると聞いたことがある。何代か前の王が、愛する王妃のために財を惜しまず集めたのだとか、たしかそんな話だったと思う。
いつか、その花たちを預言書におさめたいなぁ、と、なかば職業病のようなことを考えつつ、ティアはさらに近づく。
と、そのなにかの足元に、さらなるなにかがいることに気づく。
宵闇を艶やかな毛並みとして羽織り、大きな瞳でティアを見上げて、みゃあ、と一鳴きしたのは――黒猫のグリグリであった。
この城で、猫を飼っているのは一人だけ。その猫と常に行動を供にしているのも、一人だけ。
ということはつまり。
「ドロテア姫?」
ティアの呼びかけに応じるように、花の歩みが止まった。
「おお、その声はティアか!」
わさわさと右に左にと揺れる花の向こうから、やはりよく知った声がする。
「ええっと……」
ティアはぐるりとドロテアの横へと回りこむ。
そこまでしてようやく、花たちに負けない愛らしさを有するこの国の姫と顔を合わせることができた。
にこり、とドロテアに無邪気に笑いかけられて、ティアもつられて微笑む。
どうしてわからなかったのだろう。
最高級のレースをふんだんにつかった、ふんわりとひろがるドレスの裾。最上質の布地に、惜しみなく施された細かな刺繍。職人の技術を注ぎ込んで作られたそんな衣装を、この城で許されるのは、王国の姫君だけなのに。
「すごいお花ですね! 花束が歩いてきたのかと思っちゃいました」
ふふふ、と思わず笑いながらそう告げたティアに、ドロテアはわずかに頬を赤らめた。
「そ、そんな風にみえていたのかや?」
「はい」
ふっくらとした唇を少し尖らせて、ドロテアは言う。
「むむむ、前がちと見えにくいとは思っていたのじゃが……やはり持ちすぎかのう」
半分持ちましょうか? とティアがいいかけたとき、大きな手が差し出された。
「ご機嫌麗しく……ドロテア姫。どちらまで運ばれるのですか? よろしければ、私がお持ちいたします」
「おお、ヒース将軍も一緒じゃったか」
帝国の将軍としての礼儀を欠かさず、かつ、騎士の精神に従い女性への配慮をみせるヒースに対して、ドロテアは長い睫を伏せてわずかに微笑む。
「すまぬ。ありがたい申し出ではあるのじゃが、これはわらわが運びたいのじゃ」
あれ? と、ティアは首を傾げる。
出会ったときのころのドロテアといえば、よくいえば天真爛漫、正直にいうなら傍若無人な我侭姫様だった。
それが、帝国との戦の中、人の上にたつ王族というものの自覚が芽生え、その人となりはずいぶんと変わった。
そんな彼女が紳士的な申し出を断って、ヒースに恥をかかせるようなことはしないと思うのだけれど。
ヒースも予想外の展開だったのか、差し出した手を引っ込める機を失ってしまっている。
二人の戸惑いには気づいてないのか、ドロテアは顔を俯かせたまま、もじもじとしている。
「ときに、その……ヴァルド皇子はお元気かや?」
ふわり、頬に紅を浮かべながら、震える声でそんなことを訊ねられたヒースは、目を瞬かせた。
「は、はあ……、とくにお体に触りなどないご様子でした、が……?」
「そ、そうか!」
どこか憂いさえ帯びているようにみえた表情が、一変する。花が綻ぶような、とはこういうときに使う言葉のなのだろうと、そう思うような輝かしさ。
あ、なるほど、とティアの脳裏でなにかが閃く。一方、ヒースは首を傾げているばかりだ。
「で、では、皇子は、その、花はお好きかの?!」
「ええっと、嫌いではないと、思うのですが……?」
ずい、と一歩詰められて、ヒースがやや引き気味に答える。
そのなにもわかっていない様子に、ティアはわずかな苛立ちを覚えた。
可愛い女の子が、頬を染めて、とある人のことを訊いている。手には、贈り物にふさわしい美しい花々。ここまでくれば、ドロテアがなにを求めているのかなんて、明確にわかるものだろうに。
「もうっ」
どすっ、とティアはヒースのわき腹に、遠慮なく肘をいれた。油断していたのか、ぐふっ、とくぐもった苦しげな声が聞こえた気がしたが、それはあとで謝ることにする。
大きな体を折り曲げるようにして咳き込むヒースとドロテアの間に割って入ったティアは、両手を握り締めて高らかにいう。
「大丈夫です! 私が以前、お礼にお花をさしあげたら、喜んでくださいましたし! それにほら、これってアラシガサキですよ! 皇子、このお花が一番お好きです!」
「まことか! ならば、いますぐにでもお届けせねば……!」
ティアの力説に鼓舞されたのか、ドロテアが駆け出そうとする。と、花の重みのせいか、ドレスの裾でも絡まったのか、ドロテアが大きくよろけた。
それをみたヒースが素早く手を伸ばす。目の前で王族に転ばれて怪我でもされては堪らないのだろう。不敬にあたらない程度にドロテアの体を支えたヒースが、慌てきった様子でいう。
「お、お待ちください! 姫! 皇子は今、帝国からの使者と謁見中です!」
なので今向かっても会えない、ということなのだろうが、突きつけられた事実にドロテアはあからさまに気落ちした。
「……そうか、ヴァルド様はお忙しい方じゃからのう……この花たちは、無駄じゃったか……可哀想なことをした……」
水もなく炎天下にさらされ続けた哀れな花を思わせるしおれ具合に、ティアの胸が痛む。きっと、一生懸命、ヴァルドのことを想いながら花を摘んできたのだろう。そう思えば、どうにかしてあげたくなるのが、人情というものではなかろうか。
「そんなことないです!」
憂いに沈むドロテアの気持ちを引き上げるように、ティアは元気いっぱいに提案する。
「私、皇子にお仕事が終わったら休憩しましょうってお誘いしてきます。だから、このたくさんのお花はこうしましょう?」
お耳を貸してください、といえば、素直なドロテアはすぐに顔を近づけてくれた。
可愛らしいお人形のようなお姫へ、ティアはこそこそと秘密を共有するように、その考えを伝える。
きらきらと光るその大きな瞳を前に、この作戦が上手くいくようにと祈りながら。
光をはじく白く滑らかな大理石によって、古代神殿風に造られた東屋は、広いフランネル城の中庭中央に設えられている。濃い緑の木々に包まれたその東屋は、ドロテアに誘われたティアが、何度かお茶をしたことがある場所だ。
そこはいまや色鮮やかな花々に彩られ、なんとも幻想的な雰囲気になっている。ドロテアが用意した花々を、小間使いたちの手も借りて、飾り付けたのだ。そこはまるで、絵本の一頁ように、見る者の眼を優しく惹きつける。
そわそわと、お茶の用意をして待つドロテアを、ティアは遠くから見守りながら、心の中で応援する。
「なあ、ティア。オレたちはなにをやっているんだ……?」
「しー、です!」
東屋を確認できる木の陰に、姿を潜ませる自分たちの現状を嘆くようなヒースに対し、ティアは唇に人差し指をあてて、大きな声をあげないように鋭い視線を投げた。
ひょい、と肩をすくめたヒースが、わかったというように、自分の唇に人差し指をあてる。
その仕草が可愛くみえて、ティアは思わず噴出しそうになってしまった。
ティアの怒りの気を削ぐことに成功したヒースが、東屋へと目を向ける。同じように、こっそりと木陰から様子をうかがう。
恋しい人を、いまかいまかと待つドロテアをみていると、どうしようもなく頬が緩む。身分があってもなくても、恋する少女は、世界共通の可愛らしいものなのだ。
緊張した顔つきのドロテアの膝の上で、対照的にごろごろとくつろいでいたグリグリが、ぴくりと大きな耳を動かした。
す、と顔をあげたグリグリの瞳が、どこか遠くを見定める。にゃあ、と小さく鳴いたと思ったら、軽やかに寝床にしていたドレスから飛び降りた。
ぴん、と尻尾を垂直にたてて、小走りに東屋をでていくグリグリの行動に、ドロテアが目を見開く。
「どこへいくのじゃ、グリグリ!」
手を伸ばすが、小さな猫の素早さを前にして届くわけもない。グリグリは、そのまま庭を駆け抜けていくのかと思ったが――ぴたり、と止まって行儀よくお座りをする。
みぃあ、とまるでなにかに呼びかけるような、声を幾度か発したところへ、導かれるように現れた人影。
それが誰なのか確認できた瞬間、いいころあいです! とティアは思わず拳を握り締めた。
かつて、姫にわが身を託してくれた恩義か。それとも同じ体にはいっていたことがあるよしみか。グリグリは、石畳をゆっくり歩いてきたヴァイゼン帝国の皇子――ヴァルドによく懐いている。
足元で出迎えてくれた愛くるしい黒猫に気づいたらしく、ヴァルドが瞳を柔和に細めて、手を伸ばす。
あたりまえのようにその腕に抱かれたグリグリが、ドロテアのいる東屋に向かって、にゃあ、と鳴いた。
一瞬、目を瞬かせたヴァルドが、微笑む。
ティアがヴァルドをお茶に誘ったとき、ドロテアのことはなにもいわずにいた。しかし、その聡明さゆえに、すぐに何事かを察したのだろう。
「ごきげんよう、ドロテア姫」
「ご、ごごごごご、ごきげんよう、ヴァルド様!」
慌てて立ち上がり、ドレスの裾をつまんでお辞儀するドロテアを飛び越し、ティアとヒースが隠れている方向へ、紅の視線が向けられる。
びくっと反射的に肩を震わせたティアは、なんとなくばつが悪い心地になりながら、ヒースと顔をみあわせた。もしかしなくても、こちらの企みはばれている?
「お茶をしておられたのですか?」
「は、はいっ! あっ、い、いまから、です……!」
ゆっくりと優雅に東屋へと訪れたヴァルドが、ドロテアへグリグリを渡しながら微笑む。
「もしかして、ヒースとティアもご一緒だったのですか?」
「えっと……はい……」
恋しい相手を前にして、しどろもどろに受け答えするドロテアには、いつものような活発さがない。心の準備をしていたはずだが、いざ、本人を前にすると、どうしても緊張するのだろう。
「なるほど、急用ができて二人は去っていった、というところでしょうか?」
こくこくとドロテアは言葉もなく、ただ頷いている。
ああ、とティアは頬に手を当てて俯いた。ごめんなさい、ドロテア姫。
ヴァルド皇子がきたらこう伝えましょうね! と打ち合わせしていた内容を、すべてヴァルドの口からいわれてしまった。
こうもあっさりと、「姫と皇子のお茶会大作戦!」が見破られてしまうとは。
「……いや、皇子相手では、最初からわりと無理があったと思うぞ?」
「……心の中を読まないでくださいっ」
身を潜める場所すら看破されているのだが、それでも、こそこそとヒースと言葉を交し合う。この作戦に対して、あまり乗り気でなかったヒースにとってみれば、この結果は当然のものらしかった。
ヴァルドが、どこか芝居がかった仕草で胸に手を当てる。悲しむように瞳を伏せて、いう。
「彼らとお茶をする約束だったのですが、どうやらふられてしまったようです。姫、ご一緒しても?」
作戦としては、ドロテアからお茶に誘う予定だったのだが、女性の側からそんなことをはさせられないとばかりに先手をうたれてしまった。ヴァルドはどこまで先を読んでいるのだろう。
「もちろん、皇子がよろしければぜひ……!」
感極まったように胸の前で手を重ねたドロテアだったが、そこでようやく今回の目的を思い出したらしい。
慌ててふり返ると一輪の花をその手にし、恭しくヴァルドへと差し出した。
「あ、ああ、その前にあの、その……これをヴァルド皇子に……」
その花の名は、アラシガサキ。花言葉は「英知」。知恵を尽くして、平和を求めるヴァルドにふさわしい。
震える細い指先を包み込むようにして、ヴァルドはその花を受け取る。
「ありがとうございます、姫。祖国を離れている私への格段のお気遣い、ありがたく頂戴いたします」
「……!」
ヴァルドから感謝の言葉とともに、まっすぐに見つめられたせいか、ドロテアが頬を薔薇色に染め上げる。そのさまを愛でるように、紅の瞳が微笑んだ。
「ドロテア姫は、とてもお優しい方ですね」
わずかに触れ合った手を胸元へと引き寄せて、ドロテアは感極まったように瞳を潤ませて、幸せそうに笑った。
「なんと、もったいないお言葉……わらわは、すこしでも皇子のお心の慰めになれば、それだけでよいのです……」
相手の気持ちを慮ることのできるようになったドロテアは、まさに国民に愛されるべき存在だ。戦争が始まる前の我侭な振る舞いしか知らぬ者にしてみれば、驚くべき変化だろうが、これがドロテアの本当の姿だと、ティアは思う。
二人の間に満ちるまろやかな空気のなか、ドロテアがヴァルドを促す。
「さあ、どうぞおかけくださいませ。今、お茶の用意をいたしますゆえ」
では失礼、と茶会のときに東屋に置かれるソファに腰掛けたヴァルドに、ぴょんと黒い影が飛び掛る。
自分の膝の上にちょこんと座ったグリグリに、ヴァルドが目を見開き、すぐに笑った。小さな頭を撫でながら、いう。
「グリグリも姫の茶会に参加したいようですね」
「こ、これっ、グリグリ! 皇子の膝に乗ってはならぬ……! あっ」
慌てて黒猫を抱き上げようとしたドロテアが、ドレスの裾に足を取られたのか、前へとつんのめった。そのまま体勢を立て直すことができず、ヴァルドのほうへと崩れるように倒れこんだドロテアだったが、その細い体をヴァルドが支えた。
「ご無事ですか? 姫」
「~~~っ」
身を案じてくれる秀麗なヴァルドの顔を眼前にして、ドロテアが歓喜とも悲鳴ともつかぬ、言葉にならい声を漏らしている。
首筋までも見事な夕焼け色に染め上げたドロテアに、ティアは笑ってしまった。
目の前のむずかゆくなるような光景に、胸の奥からあたたかいものが溢れてくる。
人の幸せは、見るものの心になにかしらの影響を与えるものだ。あの二人はみていると、なんというか――とてもほほえましい。
「途中はどうあれ、結果としてはいい感じなりましたね!」
そう、同調をもとめてヒースを見やれば、彼はなんとも複雑そうな表情を浮かべ、御伽噺のような王子と姫の情景をみつめていた。
ゆるゆると、視線が下がる。重大なことに知ってしまった衝撃をおさえるためか、大きな手が、口元を覆う。
「なあ、ティア。もしかして、ドロテア姫はヴァルド皇子のことを好いておられるのか……?」
いまさらなことを言い出す年上の恋人に、ティアは驚愕とも侮蔑ともとれそうな表情を浮かべるしかなかった。鈍いにもほどがある。
「……気づいてなかったんですか?」
「……」
図星なのだろう。不自然にそらされた目とその沈黙が、ティアの言葉を肯定していた。
自分の気持ちに気づいたときは、怒涛の攻勢でティアに愛の告白をしてきたくせに、他人の感情にはとんと疎いらしい。
ティアは、わざとらしく溜息をこぼした。
「まあ、いいですけど……ヒースさんが察しがいいのは、私のことだけでいいですもんね?」
「……努力しよう」
「ふふふっ」
ちらりと目を戻した東屋の二人は、とても仲睦まじくみえる。少しぎこちない手つきだが、お茶を淹れるドロテアを、グリグリを膝に乗せてゆっくりと待つヴァルド。
穏やかに時間が流れるその光景をみて、なんとなく、ティアはヒースに寄り添う。
「ティア?」
ぴったりと己の腕にくっついて、額を押し付けてくるティアに、どうしかしたのかとヒースが問う。ティアは瞳を閉じて、くすくすと笑った。
「んーと、にぶいヒースさんにお仕置き?」
想定外の言葉だったのか、わずかな沈黙のあと、ヒースが小さく噴出した。がしがしと、やや乱暴にヒースの手がティアの頭を撫でてくる。
「まったくもって、痛くもかゆくもないお仕置きだな。きいたことがない」
「えへへ」
ドロテアの恋が、自分たちのように叶うといい。あんな風なやりとりが、日常になればいい。幸せな結末が約束された、素敵な御伽噺のように。
二人の立場上、それはどうしようもなく難しいことなのかもしれないけれど。いつか、あの可愛い恋のつぼみが、やわらかく綻ぶ日がきますように。
ティアは、ぱっと顔をあげてヒースをみつめる。すぐそこにいてくれる、恋しい人との距離を、かみしめる。幸せだと、思う。
「ねえ、ヒースさん。これからハクギンツバキをみにいきませんか?」
あなたの大好きな花を、大好きなあなたと一緒にみたい――そんないじらしい願いを受け取って、ヒースが優しく微笑む。
ときに厳格に、ときに畏怖される帝国の将軍であるヒースの、自分にだけ向けてくれるその笑顔が、ティアはとてもとても好きだ。
「ああ、そうするか」
「……!」
さきほどとはうって変わって、愛しげに髪を梳いてくれるヒースに、ティアはぎゅっと抱きついたのだった。